アレクとリナ(魔道具作り)

 リナは、メニュー表のことを考えていると、印刷機も作らないといけないことに気づいた。メニューと価格を書こうと思ったのだが、そこで、リナはまた重大なことに気づく。


(貨幣の単位は何にすればいいの? ここって貨幣の概念がないのよね。いっそのこと新しく島用の新貨幣作っちゃいましょうかね。今なら魔術師もいるし、魔石もたくさんあるしできる気がする)



リナは頭で色々なビジョンを考えていたのだった。時計を見ると時間はすでに約束の時間になっていたようである。


リナは魔道具を作っていた場所まで戻ることにした。


ちょうどリナがその場所につくと、その2人が戻って来るところだった。2人とも何かぎこちない。


「チェリ、どうだった?」


「……楽しかったです。ありがとうございました」


そういうと、一目散に帰っていった。


「ねぇ、アレクはどうだったの?」


「あぁ? 普通に何も話していないぞ」


「はい? 何やってるのよ。あなた男でしょ?リードしなさいよ」


「リナ嬢は何か勘違いしているようだが、カインの年齢を知っているのか?」


「いきなり何よ。確か35歳でしょ?」


「ハハハ、アイツはごまかしたんだな」


「何よ。笑ってないで答えなさいよ」


「いえ、俺たち魔術師は魔力のピークを迎えるとそこで容姿年齢が止まるんだ。ゆえに、100歳だぞ?」


「マジで? でも見た目は35にしか見えないんだし、問題ないんじゃないの? それとも子作りとかは無理ってこと?」


「おい……何を言ってるのだ………まだ話したこともないのに何を考えておる」


「何の話? 私は事実を確認しようとしただけで誰もチェリとのことを聞いたわけじゃないわよ。何勘違いしてるの。アレクってやらしいのね」


「何を……」


「はいはい。おふざけはここまでにして魔道具作り再開するわよ」


そう言って、リナはニコニコしながら魔石を掴んだ。


アレクはリナの変わり身の早さに驚かされる。


(テリーは、偉い女を好きになったもんだ。これは大変だな)


アレクはテリーを憐れんだのだった。



 リナは印刷機を黒と白の魔石で作ろうとしたが、大きすぎるせいか作れなかった。


(私的に色別のイメージで作っていたのだけど、印刷機はグレーよね?なぜかしら。そうよ。印刷機にはカラーなんだから全部の色がいるじゃない)


気付いたリナは全ての魔石を利用することにした。案の定成功したのだった。


 次は、ピアスの伝達式インカムのような役割をつけ、誰のものかわかるようにすべての色分のピアスを作ることにした。リナは情熱の赤色を選び、作る。同じ要領で色別に作っていくことをアレクに説明した。アレクはそれを12個作った。


そして、最後に電気ビリビリ腕輪を黄色で作る。アレクももう要領を掴んだようにすでに準備をして、同じように黄色の魔石を並べていた。意外と使えるらしいとリナは内心で喜びつつ、すべての魔道具を何とか作り終えたのだった。


「はぁ、疲れた」


「リナ嬢は、魔力の枯渇にならないのか?」


「ピルカ王国の娘よ? 代々魔力が豊富に生まれてくる血族なんだから枯渇はしないけど、疲れはするわね」


「そうか。すごいな」


「そうね、では行きましょう」


リナは立ち上がろうしたとき、フラッと転びそうになる。


「危ない」


アレクがリナを支える。


「ありがとう……」


「無理はするな。枯渇してはいなくとも、体力的にギリギリであろう。歩けないのではないか」


「さすがは魔術師ね。バレバレってわけね」


「気が強いのはいいが、頼れる相手には頼らなければ、リナ嬢潰れてしまうぞ」


「そうね……なら悪いけど肩を貸してくれない?」


「やはり、それがリナ嬢が言える甘えなのか……まぁいいだろう」


そう言うとアレクはリナを背負い、おんぶすることにした。


「ちょっと待って……何よ、子供じゃないんかだから大丈夫よ」


「我からすれば子供のようなもんだ。気にするな」


「違うっ……チェリが勘違いするじゃないの。おろして」


リナが暴れると、アレクはリナのお尻を叩いた。


「落ちるからやめろっ」


「ちょっと、なんでお尻触るのよ。変態。腕輪で撃退しようか?」


「はいはい。カインからミスをしたらお尻ぺんぺんされていたのだろう?」


「……人の黒歴史を……わかったわ。ちょっと本気で息切れしてきたし、もうこのままでいいわ」


「そうしろ」


リナは本当に体力の限界だった。温かいアレクの背中にいい感じの揺れが相重なっていつの間にか眠っていたのだった。


アレクはこのおてんば娘について考えていた。


(どこまで頑固なんだ。強情というレベルではなく、本当に誰かが守ってやらないと自分の加減を知らずに死んでしまうぞ)


アレクは心配しつつも、こんなリナを放置しているテリーにこんこんと怒りが沸き起こってた。


 アレクがリナをおぶりリナたちの家に戻ると、チェリが驚いたように目を見開いていた。


「あの……リナ様はどうしたのでしょうか」

「あぁ。リナ嬢は魔力の使い過ぎで体力を消耗しておる。部屋はどこだ」

「はい。こちらです」


チェリは複雑な心境でリナの部屋へと案内する。部屋に入ると、アレクはリナをベッドに下ろした。


「一晩寝かせておけば大丈夫だと思う」

「ありがとうございました」


チェリはアレクにお礼を言った。


「さっきも一緒にいたのに、これが初めての会話だな」

「えぇ……そうですね」


顔を真っ赤にするチェリがかわいらしいと思ったアレクは、その考えを消し去るように部屋から出ていく。チェリも慌てて部屋を出て、追いかけるように階段から降りたので転んでしまう。


「キャー」


転がり落ちてしまい、アレクの上に覆いかぶさっていた。


「申し訳ありません」

「いやっ……ケガはないか?」


アレクの顔も赤いベリーの果実のように真っ赤だった。


「顔が赤いですが、どこかぶつけましたか?」

「いや、違う。どいてくれないだろうか……その……」


視線の先にはチェリの胸がある。アレクの顔を胸で圧迫していたようである。


「ごめんなさい」


気付いたチェリはさらに恥ずかしくなり、急いで立ち上がった。


「それでは……」

「あの……アレク様とお呼びしても?」

「いや……アレクでいい」

「……アレク?」


上目づかいで尋ねるように名を呼ぶ声はかわいらしい何物でもなかった。


「あぁ」


首まで真っ赤にしたままアレクは家から出ていった。チェリは少しアレクとの距離が縮まった気がして、嬉しそうにしていた。


※※※


 リナはチェリの叫び声で目が覚めた。


(私は寝てしまったのかしら……)


自分の部屋のベッドにいることに気づくとアレクのことを考えていた。


自分の強がりに気づいてくれたのはリク以来初めてである。カインも気づいていたようだけどあまりそれを表面には出さなかった。きっと私が嫌がるとわかっていたからだろう。


アレクはリクと同じで直球すぎる。リクに「嫌なら嫌って言えよ。そんなの姫様でも関係ない」と言われた過去の記憶が蘇る。


(今頃、リクはどうしているかしら。きっと家族を築いて幸せに暮らしているわね。リクは優しくてかっこいいもの)


 リナはそう思うと、心が痛んだ。それにしても、テリーという男は何者なのだろうか。優しい目がリクに似ているけど、まずこの国の貴族なんかになれるわけがないから、他人の空似だろう。


リナは少し眠ったので、体力的に回復していた。リビングの様子が気になり、1階へと下りていった。


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