チェリの恋心
その男性は楽しそうな笑みを浮かべ、大きな声で話しだした。
「あなたが欲しいのはこの木箱ですか? それとも金箱ですか?」
「ちょっと疲れているのに『金の斧銀の斧』の童話とかの冗談やめてくれる?本当だったらあなたも転生者なのとか聞きたいとこだけど、いまそういうの面倒だから、さっさと魔石をちょうだいよ。それに一つしか持っていないし、あなたバカなの?」
「そうだったな。ちょっとした魔術師の遊びじゃよ」
そう言うとアレクは木箱を渡した。木箱を開けるとたくさんの魔石が入っていた。
「ねぇ、あなたさっきはいなかったよね?誰なの?」
「あーリナ嬢の師匠であるカインを知っていますか?」
「えぇ、私に魔力の使い方を教えてくれた師匠よ」
「あれの知人ですよ。私は王に殺されかけましたけどね……」
「なんかカインがそういえば言ってた気がする。ちょっと頭が弱いからトラクスの王の反感を受けて殺された魔術師ってあなたのことだったのね。なんで生きてるの?」
「あいつ……」
「まぁ、あなたが生きてたとか私には関係ないからどうでもいいわ。それで? あなたがなぜこれを」
リナが尋ねると、聞かれるのは待っていましたみたいな嬉しそうな笑みを浮かべ自慢げに答える。
「渡すのをね、忘れていたみたいなので、それを回収して我は船には乗らなかったんじゃ」
「いやいや、あなたのような人が初めからいなかったから言ってるのよ。もしかして、あの銀髪美少年?」
「さすがは魔力持ちは違いますね。魔石を持っているせいですね」
リナは疑問に思っていたことが判明して、思わず微笑した。
「やっぱり。銀髪少年からやけに強い魔力を感じてからおかしいなと思っていたのよね。それにしても、あのテリーって何者なの?」
「あなたがよく知る人物とだけ言っておきましょう」
「で、あなたはなぜ残ったの?」
「魔石をどのように用いるのか知りたいから、残ったんだが何か問題でもあるか?」
「問題はないわ。人手が多いに越したことないもの。でもここに住む気なら、しっかりちゃんと働きなさいよ」
「はい。わかりました」
アレクは期待に胸を膨らませていた。その姿を愛おしそうに見つめている女性がいたのだった。
※※※
次の日、リナは早速魔石を用いて魔道具を作っていく。他の令嬢たちは昨日頑張っていたので休日にした。
アレクがリナに声を掛ける。
「おはよう、リナ嬢。今から何を作るのだ」
「まずは制服ね。イメージはメイド服だけどミニスカにして、色は赤のチェックね。イメージはBKBの感じ」
「BKBってなんだ?」
「BKBってアイドルよ。いろんな坂とかCKB,DKBとか幅広い活動をしているグループね。てか、あなた魔術師よね?私の頭の中のものを具現化してくれない?」
「さすがの我もそこまでは無理だ」
「チッ、使えないわね。てか昨夜はどこで寝たのよ。さては覗いていないでしょうね?」
「木の上で寝ていた。お好みなら犬バージョンにもなれるぞ?」
「犬? モフりたいけど今忙しいからいいわ。なら私が一枚作ったらそれを数枚に増やすことくらいはできるわよね」
「あーそれは余裕である」
「よしっ」
リナは魔法陣を書き、その中に赤い魔石を置き、その中に自分も入り制服のイメージをする。
リナが光に包まれたと思うとリナはすでに制服に着替えていた。
「おぉーすごいな。これを何枚作ればいいんだ?」
「そうね。5人分で今これがあるから、着替え用も含めて、9枚お願い」
「よし、きた」
アレクが赤の魔石を9個持つとキラキラと光ったと思えば、地面の上に9枚制服が出来上がっていた。
「すごいわよ。早い。この調子で行くわよ。次は食洗器、冷蔵庫、オーブントースター、釜土を作るわよ」
「釜土以外まったくわからんのだが……」
「次は白の魔石ね……」
リナはアレクの発言を無視してどんどんと作成していく。
それを見ていたアレクは不思議でずっと首を傾げながら考えていた。
魔石の色には作用があったはずである。それなのに色の作用に関係なく何でも作れてしまうのはどうしてだろうか。今までこのような無茶苦茶な使い方をするような奴など見たことがない。アレクはリナの手法に感心していたのだった。
「はぁ、疲れた。さすがに勢いよく魔力放出しているからか疲れるわね」
チェリがやってくる。
「リナ様、休憩にしてはいかがですか?ミーシャが新作のデザートを作ったのですが」
なぜか顔を染めている。熱でもあるのだろうか……見るとチェリの視線の先にはアレクがいたのだった。
(あーそういうこと)
「魔術師さん、一緒に休憩にしましょう」
「もういいのか?」
「違うわよ。女心くらいわかりなさいよ」
「……てか我の名前はアレクだ。覚えてくれよ」
「あっ、そういえば名前聞いていなかったわね」
「アレク行くわよ」
「あぁ」
チェリはアレクの美しい大人な姿に心を奪われていたのだった。
リビングには、ルーミー、ジェシーがすでに座っていた。ミーシャはお茶を入れていたようである。
ここでも、年上は本当によく気が利くとリナは頼りになるなと思っていた。チェリはさりげなくアレクの隣に座っていた。
(何?もしかして久しぶりに春が来たのかしら……?これは応援しないと)
リナ以外の令嬢たちも真っ赤な顔をして座りに行くチェリを見ながら、応援しようと心に決めていたのだった。
ミーシャがケーキも運んでくれた。
「この島で取れる木の実をペースト状にして、前のレモネケーキに添えることにしました」
「見た目も綺麗ね。赤できれいだし、ベリーみたいね」
「はい。クラベリー、ラズベリー、ストベリー3種類の実をすりつぶしてみました」
パクリとリナは口に放り込む。甘酸っぱくて美味しい。本当のベリーソースである。
「これいいわね。でも、レモネケーキよりこのベリーたちを使ってケーキを作りましょう。その方がいいわよ」
「わかりました。やってみます」
「みんなも食べてみて」
リナの合図を待っていたかのように食べ始めると、やはり好き嫌いがあるようだ。ルーミーは顔をすぼめていた。
「すっぱい、レモネは酸っぱいけど甘みがあるけど、この酸味はきついかも……」
「私は好きだけど?」
「これは我にはわからない」
もちろん最後の発言はアレクである。
「そうよね。ベリー系って好き嫌いが別れるから考えものよね。もう少しケーキならまろやかにもなるし、やってみる価値はあるわ」
「あーそういえば、リナ様、絵を描いたからあとで見てくれるか?」
「ルーミー早いわね?やるじゃないの」
「あぁ、だって、ここはきれいな景色がいっぱいあるからな」
「そう。先に魔道具作っちゃいたいからあとで部屋に伺うわね」
「あーよろしく」
食べ終わると、チェリがもじもじしながらアレクを誘っていた。
「あの……アレク様、少しお散歩よろしいでしょうか?」
「いや……今からリナ嬢と魔道具を……」
アレクもタジタジしているので、これは脈ありではなかろうか。そう思ったリナは助け船を出した。
「あー私は先にルーミーのメニュー表を見に行くことにするから魔道具は後でいいわよ。1時間後に集合しましょう。チェリ、ファイトよ。頑張ってね」
「はい」
恋する乙女はいつだって美しいのだった。
チェリとアレクは花畑の場所まで歩いてきたのはいいが、終始2人は黙っていた。チェリが会話を試みようとするのだが、アレクはいつも違う方向を見ていて話しかけるタイミングがわからない。でも、この男性の容姿は美しかった。
今までこんなに美しい人を見たことがあっただろうか。夫を亡くし、ずっと生きる希望もないまま気づけば誰とも話さず孤立しており、いつの間にか声の発生の仕方も忘れていた。というより、声すら出したくなかったのかもしれない。
しかし、この島に来てからは何かから解放されたのか喉にずっとつまっていた異物が取れたのかのようにスーッと声を自然と出すことができていた。環境ってすごい。仕事もなんだか楽しいし、このままここで暮らせれば幸せだと思っていた。まさか、また男性に好意を寄せる日が来るなど思いもしなかった。
考えながら、チェリはずっとアレクを見つめていたのだった。あまりにも見つめすぎては悪いと思い、たまに花を見るふりもしてごまかしていたのだった。
そして、一方のアレクもこの状況に戸惑っていた。女と2人きりで話したことがない。ましてや、このような頬を染めて我を見つめるまなざしが熱いものも初めてである。思わず、透視すれば意図が分かると思ったが、さすがに自分の考えと全く違うことを考えられていては正直ショックが大きすぎる。
なので、このまま沈黙でいることにした。目も合わせると恥ずかしい気がしたので外の景色でごまかすことにした。
しかし、喋りのアレクがこんなにも沈黙した状態でいるにもかかわらず、苦痛に思わないのは初めてである。なんだか、不思議と居心地が良かった。
そのまま2人はお花を無言で眺めていたのだった。
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