ランドとリナリア

リナは自分たちが住む場所まで連れてきたのだが、なぜかラミレス、テリー、アレクまでついてきていた。


「ここがお前たちが住んでいる場所か? 小さいのではないか?」

「いえ……これくらいで私にはちょうどいいですよ。豪華すぎると逆に肩が強張ります」


口を抑えて笑っているのはテリーだった。


(さすがはリナだな。変わっていないところが安心だ)


「ちょっと、さっきからあなた失礼じゃないの?それに私の国のことをよく知っているみたいだし何者なの?」


リナが問いただそうとすると、慌てたようにランドがそれを止める。


「リナリア、俺は早く二人きりになりたいのだが?」

「はい? 殿下は頭を打ったのですか? それとも誰か既にお気に入りの娘でも見つけました?誰ですか?すぐに呼びますよ」

「いや……そうではないのだが……察しろよ。チッ」

「あらあら、舌打ちしちゃって。それでこそ殿下らしいですね。他の方たちはこの部屋で勝手に過ごしてくださいませ。キリンさんお茶の用意をお願いできるわよね?」

「あいあいさー」

「それでは、二階へ行きましょう」

「あぁ」


ランドはテリーに自慢気な笑みを微笑み、二階へと上がっていった。それを確認したアレクはテリーに話す。


「テリーよ、腹立つな。お前のリナなのにな?」

「あー腹立つわ。なんだよ。あの気持ち悪い笑み浮かべやがって。あれじゃあゼニスとかわんねぇよな」

「テリー様……さすがに宰相の私ですらあの顔はダメだと思いました」

「初めて気が合ったな」

「そうですね。それにしても先程から様子を拝見している限り、あなたはリナリア妃殿下のお知り合いではないのですか?」

「……」

「黙るということは肯定ですね。だとすると、護衛として来ていた一人が消えたと騒いでおりましたが……」

「さすがは、できる宰相だな。そうだよ。それは俺だ」

「やはり……殿下から奪い取る算段ですか?」

「そうだな……本当は結婚を見届けて帰るつもりだったが、こんなわけのわからない展開になっているし、気づけばランドの野郎にご貴族様にさせられて、社畜のように働かさせらているからな。リナももうこれ以上傷つけるわけにいかない。俺が奪う」


 ラミレスはその強い意志に感銘を受ける。自分は押し殺すだけしかできない運命を受け入れた。しかし、この男は奪い取るという。男らしい。


「ハハハ。若いっていいなー。でも、そんな簡単に奪えるわけないよな?それに今だってもしかすると……」


アレクがにんまりと笑っていた。


「「言うな」」


2人の声が重なる。


「ラミレス殿? もしやと思いますがあなたもリナのことを……?」

「……私はリナ様のあの強い姿に一目ぼれしただけです。決して奪い取りたいとまでは思いませんが踏まれたい」

「……変態か……王族や貴族はみな変態なのか……」


テリーは呆れたようにラミレスに言った。


「違います。今まで女性には興味ありませんでした。あの媚びるような姿が嫌いだったのです。それに比べ、リナ様は全然違う」

「あーそうだな。リナは他の女とは比べ物にならないくらいいい女だ」

「そうかもしれませんね」


2人はリナがいかにいい女かということに語り合い、意気投合していた。アレクはその様子を呆れたように眺めるしかできなかった。


 二階にたどり着き、リナの自室へと招き入れると、ランドは部屋をじっくり見渡していた。


「リナリアって、意外に少女趣味だったんだな」

「うるさいですよ……可愛いものが好きなんです」

「なんだか、リナリアがかわいく見えるのはどうしてだろうか……?」


虚ろ気な表情でリナをベッドへと押し倒す。


「ちょっと、魔石はどうしたんですか?」


リナはするりと抜け出し、何もなかったかのようにベッドの上に座った。


「チッ」

「殿下は誰でもいいのですね……欲求不満なら娼婦にでもいけばいいじゃないですか」

「違うわ。俺も何でお前なんか押し倒したかわかんないんだよ」

「ならもう忘れましょう。はい、魔石出して」


ランドは魔石を出そうとして、ラミレスに預けていたのを思い出す。


「悪い。魔石はリムが持っている」

「はい? まさか押し倒すためだけに私を呼んだのですか? 最低‼」

「違う。いったいなぜ魔石がいるのか説明してくれ」

「あーそうですね。制服、防犯道具、キッチン用具を作ります」

「せ……く? キ……ぐ? いったいなんなんだそれは?」

「あーすみません。簡単に言えばメイド服のようなものと、調理器具、安全装置ですかね」

「何か不自由しているのか」

「心配するなんか気持ち悪い。優しくしても抱かせませんよ。それより好きな女性は見つかったのですか?」

「いや……ってなぜそれを知っている?」

「そんなのこっちに来てまず耳にしたのは、『婚約破棄ばかりする王子には、本当は好きな女性がいる』って言われてたから」

「そうか……まだだ。しかし、リナリアはそれでいいのか?」

「はい。いいに決まっています。私この島を活発にして『幸せの島』と呼ばれるくらい観光名所にしてがっぽり稼ぐつもりだもの」

「そうか……」

「話が終わったなら、魔石もらいに行きましょう」

「そうだな」


2人の話は終了し、下へと下りていた。


その会話の一部始終をくすねていた魔石を使い聞いていたアレクはワクワクしていた。


(押し倒した話をテリーにしたらブチ切れするだろうな……)


話し合いも終わり、令嬢たちも帰ってきたようである。そして、ボンたちもタイミングよく戻ってきたようである。


「あー疲れた。リナ様案内終わりました」

「ご苦労様」

「え……? 普通に感謝された? 今のは幻ですか」

「はいはい。ボン、疲れすぎておかしくなっているわよ」

「すみません……」


すると、ボンを睨みつける二人の姿が……


(マジでか……リナ様ってモテてる?それにしても、王子の嫁によくやるよって俺もか)


ボンは1人二人の視線を受け流しながら、考えていたのだった。


ブルトが興奮したように、大きな声で話を切り出した。


「妃殿下、素晴らしい場所がたくさんありました。土地開発は任せてください」

「ありがとうございます。ブルト閣下にそうおっしゃっていただき嬉しいです。宜しくお願い致します」

「はい」

「ところで、ゲイト閣下はいかがでしたか?」

「あー素晴らしいですね。工夫さえすればもっと稼げる手段が出てきそうです」

「そうですか。次回までに計画書等を持参していただけますか」

「もちろんですとも」


こうして、初めての打ち合わせは終わり、ランド御一行様は帰ろうとしたのだった。



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