ゼニス男爵のセクハラ

 ボンは、リナから遠回りさせてからレストランへ来るようにと横を通り過ぎる際に耳打ちされたので、あえて綺麗な花が咲いている場所へと案内した。


「ここはですね、花が咲いていて恋人たちのプロポーズの場所で有名な場所でした。今は通路を塞いでおりますが、昔はあの白い神殿のような造りになっている鐘を鳴らした二人は永遠に結ばれ幸せになれるというジンクスがありました。しかし、見ての通りばばあ、ゴホン。年寄りばかりで島自体も荒んでいったので誰も行くことはありませんが、こうして毎年黄色、赤色、白と綺麗な花を咲かせるのです」

「そうか」


ランドは島のことを何一つ知らなかった。こんなにこの島は自然豊かで恵まれていたのだろうか。もっとここを有意義に活用することができれば、国の財源につながったのではないか一人考えていた。


「すみませんが、他にもこういった観光地になりそうなところはありますか」


気さくに声を掛けたのはゲイトだった。


「あーはい。他にもございますが今回はレストランの準備もございますのでこの辺でご勘弁ください」


ボンは丁重にお詫びをした。


「そうですね。なら早く向かいましょう」

「なら、先に行けばよかったのでは?」


アレクが空気を読まずに尋ねていた。テリーは慌ててアレクの口を塞ぎフォローする。


「そういえば、お腹空いたわ。早く案内お願いします」


テリーはアレクを睨みつけたのだった。


(コイツさっきあの姫さんがこの案内人に耳打ちしてるのが悔しかったのだろう。手のひらに爪の跡がついているぞ。これから楽しくなりそうだな)


アレクは1人ほくそ笑んだのだった。その様子に周囲は二人の関係をドンドン疑っていくのであった。



※※※


 レストランに着き、扉を開くと女性陣全員が並んでお出迎えをしてくれた。そして、ミーシャが案内した。


「こちらの席にどうぞ。ランド殿下はこちらへどうぞ」


見るとそこは一段高い座席になっていたのである。さすがは一国の主を立てることができる接客だとランドは感心していた。階級ごとに席へと案内する。


ゼニス男爵はその貴族びいきに内心イラ立ち、最後まで立つことになったのだった。隣には可愛い若いねえちゃんがいた。あまりの暇さにちょっかいをかけることにした。


誰も見ていないのをいいことに、ジェシーのお尻を触る。


「いやぁん」


びっくりしてしまったジェシーは倒れてしまい、隣のテーブルセットをひっくり返してしまう。そのフォークがゼニス男爵の手に刺さった。


「いってぇ。この店はどうなってるんだ」


男爵はキレていたが、席に座っている者たちからすると全部丸見えであった。リナがキレに行こうかと向かおうとしたが、先を越されてしまう。


「美しい女性にとんだご無礼をお許しください。このランドの名前においてお許しいただけますでしょうか」


ランドは綺麗なお辞儀でジェシーに謝った。


(さすがは王子ね。場の収め方をよくわかっているわね)


 リナはランドのことを少し見直した。まっすぐにリナが熱い視線を送る先にはランドがいた。テリーは嫉妬で狂いそうだった。


(何人の男を誑かせばいいんだ。リナは俺のモノだ)


テリーが内心嫉妬心をぎらつかせている横で、一国の王子に謝罪を受けるという前代未聞の出来事にジェシーは硬直してしまう。


「殿下やめてくださいませ。頭をお上げください。大丈夫です。どこもケガはしておりません」

「しかし、君の心は傷ついただろう」


ランドは頭を打ったのだろうか。それとも、可愛いジェシーに一目惚れでもしたのだろうか。こんなに歯の浮くような甘いセリフよく言えるわねと、文化祭の演劇でも見ているような気分で眺めていると、ジェシーはどんどんと首から次第には顔まで真っ赤にしていく。


(もしかして、ジェシーあなた恋に落ちちゃったの。はい。ここでミュージック)


1人リナは監督気分で遊んでいたのだが、今はデモンストレーション中だったことを思いだし、現実に戻ってきた。その一人表情をコロコロ変える様子を笑顔で見つめるリク似の男性。リナも恋に落ちそうだったがなんとか耐えた。


「ランド殿下、妻である私の前でよくそんなことおっしゃれますわね?」

「あーリナリアか。俺の国では側室大歓迎だから問題ないぞ?」

「あーそうですか。そうすると爆撃が落ちますがよろしいですね」

「すまない……というより嫉妬か。嫉妬なのか」

「違います。さっさとそこのエロおやじ回収してお座りさせていただけます?」

「……口が悪いな。ゼニスは犬と同じ扱いか。まぁ仕方ない。悪かった」


視線だけでゼニスに次はないぞと脅しの目を送ることにした。ゼニスは女に馬鹿にされたと心の奥底では憤慨していたが、殿下の前でこれ以上問題を起こすわけにはいかなかった。


とりあえず、殿下の目がある間は女性へのセクハラすることは諦めたのだった。


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