船内にて
パキラは船に乗りながら、なぜ自身が呼ばれたのかということについて考えていた。
今まで本名すらバレずに生活していたのになぜ見つかってしまったのだろうか。今までこの国で自慢の美貌と甘い言葉で数々の女をたぶらかし、職も探さずに楽に生活してきた。しかし、この国にいるはずのサラはどこにいるんだよ。
俺の浮気が原因で別れちまったけど、サラ以上に好きになれる女なんかいないと戻ってきたのに。挙句の果てにサラは結婚して、不倫してって俺みたいなクズのような生き方してるなんて、俺の知っているサラではない。アイツの身に何があったのだろう。
それに、なぜ俺が一時期逃げていたココ島に戻んなきゃなんないんだよ。あそこはもうおばちゃんしかいないし若い女がいないから行きたくなんだけど……
パキラは、名前も変えてこの国へと戻り、男爵の地位につくために男爵令嬢のサマンサと結婚したのだった。それでも、サラを諦めきれずにずっと探していたのである。噂だけはいろんなところで聞いた。悪女だとか言われていたが、実際サラの行方を知る者はいなかったのだ。そんな矢先に召集が掛けられたのだった。
サマンサはパキラに言った。
「名誉なことですわね。さすがはパキラね。やっぱり階級ではなく顔がモノを言う世界なのよ」
「……そうだな」
なぜ女はこんなに簡単に俺のような奴に騙されるのだろうか。サラは俺を唯一叱ってくれた女だった。あの時はそれが嫌で逃げ出してしまったのだが……サラにもう一度会いたい。
パキラは回想しながら、サラを懐かしんでいた。
※※※
アレクは初めての海に感動していた。興奮したように青く輝く海を見つめている。
「すごいなー。海ってこんなに広いんだな。壮大だな」
「あーすごいよな。神秘的に感じるよな」
「そうだな。それにしてもあのエロそうなおっさん誰だよ?」
「あーゼニス男爵だよ。女に目がないゲスイことばかりしている奴さ。てかお前あんなことやめろよな。あれはお前も悪いぞ」
「いや……なんか騎士が忠誠誓うときの作法じゃなかった?」
「あー昔はそうだったが、今はプロポーズによく使われているから勘違いされたんだよ。ばかっ」
「バカって言うなよ」
2人はわちゃわちゃしているのを見ていた周囲の者はさらに誤解していくのであった。
ゲイトが笑顔で2人に近づいてくる。
「おい、そこの仲良し二人組。テリー俺も相手してくれよ」
「ゲイトまでやめてくれよ。コイツは俺の護衛でアレクだ。こっちが友人のゲイトだ」
「あーよろしく」
「こちらこそ、テリーがお世話になっているぞ」
「テリー、何なの、この護衛。さっきまでの雰囲気と全然違うじゃん。見た目は子供っぽいのに中身はおっさんなの?」
「さすがはゲイトは騙せないな。今は詳細は話せないがまぁそんなもんだよ」
「また、なんか訳あり拾ってきちゃったの?さすがはテリー、強運の持ち主だな」
「それ、貶してるだろ?」
「まぁな。ところで今行く島って、何にもないんじゃなかったの?」
「それがなんかレストランを開くから見てほしいとのことでお前たちを集めたんだよ」
「あーそれは聞いたけどさ。いやーあんな島で本当にできるのかなって?」
「その心配ないぞ。テリーが好きなリナがいるらしいからな」
「おいっ、お前は黙っておけ」
テリーはアレクに目で合図を送る。それ以上余計なことを言うなという脅しの目だった。
(あー怖い)
アレクは命令通りそれ以上口を開くことはしなかった。黙っているアレクに話しかけてくる者がいた。
「テリーの護衛よ。少し話をいいか?」
「えぇ、はい」
優しそうな雰囲気だが、とんでもないオーラをひしひしと感じさせる年配の男性。
「わたしは侯爵家であるブルトである。王子の補佐官として貴族会を取り締まっている。先程のお主のランド王子を睨みつける姿がどこかで見覚えがあってだな。声をかけたんだが……王子の知り合いか?」
「いえ……主であるテリー様が心許されているのが許せなかっただけです」
「ハハハ。そうか。それだけならいいが。殿下に何かしてみろ。お前どころかテリーの命すらないからな。忠告はしたからよくそのことを考えて行動することだな」
優しい笑みを崩さないまま、恐ろしいことを言っていくその姿にアレクは感服していた。
(あのおっさん、できる人だな。我の正体に気づいているのか?いやおっさんからは魔力探知がなかったから違うとは思うが……何にか気づいているやもしれん。今後用心していく必要があるな。リクに報告せねば)
そこに、ゲイトと話し込んでいたテリーが戻ってきた。
「アレク大丈夫だったか。侯爵に絡まれていたようだが……あの人が自分から声を掛けるなんて珍しんだが、またお前なんかやったか?」
「いや、何もしていない。忠告されただけだ」
「はぁ? なんてだよ」
「王子を殺したら、お前もテリーの命の補償はしないってな」
「睨んでいたのが、そう取られたのか……刺客か何かに思われてんだろう。俺ですらいつも怪しまれていたからな。本家の人たちにしたら俺も容疑者の一人のようなもんだ」
「そうか……理由がそれだけならいいのだが。そんな単純ではなさそうでな」
「あんまり気にすると、せっかくの顔が台無しだよ。あー島が見えてきたぞ」
全員島へと上陸しようと準備し始めた。
すると、島の人々だろうか?手を振り何か旗に描かれていた。
~ようこそ、ハッピー島へ~
並んでいる女性たちの美しさに全員目を疑ったのだった。
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