出発日

 テリーの家でおとなしくアレクは生活を続け、テリーも問題なく職務を全うし、とうとう出発の日になっていた。テリーはアレクに言う。


「どうする? 犬のままでもこの人間姿の魔術師モードどちらにしても船に乗れないぞ?」

「あーそれは考えているから問題ないぞ」


そう言ってアレクは片足を上げる。


「おいっ……まさかっ」

「当たり前じゃないか。全て国王にあげるバカがいるかよ」


青と白の魔石がポロンとこぼれ落ちた。この出方はなんだか気分が悪い。


「リク、青と白の魔石を床の上に置いてくれ」

「あぁ、何する気だ?」

「まぁ、見ていればわかるさ」


アレクが魔石を触ると、青と白の魔石が合体し水色の魔石に変わっていた。


「すげぇ。色が変わった」

「よしっ、これを俺の頭の上に乗せくれ」

「こうかっ?」


テリーは自分より身長の高いアレクの頭に乗せるのは難しかったが椅子を使いなんとか乗せることに成功した。


「ありがとう」


アレクは目をつぶり瞑想を始めた。すると、魔石がアレクの体内に浸透していきアレクの様子がおかしい。


「おいっ、大丈夫なのか」

「静かにしれおれっ。集中できない」


アレクはそのまま10分ほど瞑想を続けていたので、テリーはもう行く準備をし始めることにした。


カバンの中身を確認し、忘れ物がないかを確認する。そして、再度アレクを見るといなくなっていた。


「アレク、どこだ?」

「あぁ、ここにいるぞ」


銀髪の美少年がテリーの家にいた。


「お前は誰だ」

「ハッハ。おもしろい。我のことがわからんか。そうか、それでよい」

「はぁ? アレクなのか」

「そうだ。これだとご貴族様に見えるだろう?」

「いや……まぁ貴族の子息ってとこだろう」

「ならいいじゃないか。レミリアという公爵家があっただろ? 昔に世話をしてやったから、あそこの家名を借りておこう」

「あそこは、今や3大勢力に入るぞ。そんな嘘すぐにばれる」

「なら、他の手を考えなくてはな」

「まさか、それでイケると思っていたのか。はぁ。もう俺の護衛にしておこう。それが一番違和感がなく怪しまれない方法じゃないか」

「そうか……貴族ごっこしたかったんだが……」


テリーは、悲しそうなアレクの肩を叩き、出発を促した。2人は屋敷を出たのだった。


 城の前には、すでに集団ができていた。テリーはうんざりしていた。


「はぁ、またこのご貴族様と一緒に行動しないといけないのか。面倒だな」

「そうか……?なんか個性豊かな奴らのようで面白そうだがな」

「見てるだけなら問題ないんだけどな……あいつら欲望とか利益に忠実だから怖いんだよ。何するかわからない」

「特に王族とかな」


アレクはランドを睨め付けていた。それに気づいたラミレスがランドを背にした。


「テリー様、そちらのお方はどちら様でしょうか。名簿にはございませんが」

「あぁ、最近雇った俺の護衛です」


アレクはテリーの前に跪いて、手の甲にキスをする。


「わたくしアレクは、テリー様にお仕えすると決めました。以後お見知りおきを」

「おいっ、やめろよっ。気持ち悪い」


テリーは手をズボンにこすりつけた。


「さようでございますか。テリー様とはいえ急な人数変更は困ります」

「すみません」

「まぁ、リムいいではないか。それにしてもアレクとやらなぜそんなに睨んでくるのだ」

「ランド王子申し訳ありません。まだ躾ができておらず……おいっ、やめろ」

「はい」


アレクはしぶしぶ睨むのをやめた。それを見ていたゼニス男爵がにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべなら、話に入ってきた。


「ランド王子が美しいので、主であるテリー様が王子に取られると思ったのではないですか? 最近そういった護衛と主人という男性同士が流行っているそうですよ」

「ちがっ……」


テリーはとんでもないことを言い出すゼニス男爵を睨みつける。男爵はその鋭い目つきに後ろへと下がった。


「まぁまぁ、こんなところで油を売っていないで早く素敵な場所へと急ぎましょう」


ブルト侯爵は、伸びた髭を触り、場を収めてくれたのだった。


「テリーもそんな目くじら立てるようなことじゃないだろ。急ごう」

「あぁーそうだな。ありがとう。ゲイト」


ゲイトはテリーと共に船へと乗り込んだ。


「あの野郎、俺が男爵だからまだまだ乗れないのをわかってて嫌味言いやがる。相変わらず嫌な奴だぜ」

「なぁ、パキラお前もそう思わないか」

「いや……」

「なんだ、元気がないな。そうか。お前は無理やり召集されたんだっけな?」

「まぁな……」

「お前はなんで召集されたんだ?」

「わからない」


ゼニスはあまり話さないパキラがおもしろくなかったので、リムに尋ねることにした。


「ラミレス様、パキラはなぜ呼ばれたのですか?」

「あーリナリア姫殿下がお呼びだからですよ。まぁ、そんなことはどうでもいい。無駄口はいいから早く乗りなさい」


ラミレスはゼニスのお尻を押して船へと押し込んだ。


「いたっ」

「ほら、もう出発ですよ。従者たちあとは任せます」


ラミレスは全員乗り込んだのを確認すると、ランド王子の元へと急いだ。




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