テリーとアレク
帰りながらも、ランドの声が聞こえ続けている。
「この赤の魔石と青の魔石かっこいーな。なんで親父は魔法がいらないとか思ったんだろ?絶対便利なのに。これをリナに渡すのか……なんかもったいないし、一種類ずつ自分のために取っておこう。なんかいつか俺も魔法が使えるようになるかもしれないし」
「おい、ランドってこんなおバカな思考だったのか……?」
「なんか残念な王子だな……」
「でも、これって横領なんじゃないの?」
「微妙だな。だれもこのことを知る者はいないのだから」
「そうだよな。貴族ってこんなことばっかしてるんだろうな。だから貴族って嫌だわ」
「リクの国王は、実力主義だったよな?」
「あぁ、あれはあれで怖いけどな……まぁ、祝い事とかは庶民にまでばらまいたりとかしてくれるからオン、オフがハッキリしているのかもしれないが……いらない、不要なものには容赦ないからな……リナもかわいそうだよ」
「リナって誰だ?お主の好きな奴だったか?」
「そうだよ。俺の国の姫だったけど、初めはおしとやかに振る舞えるけど結局は乱暴だからって婚約破棄ばかりされた結果、この国の王子と婚約させられた……俺とリナは両想いだったのに」
「まぁ、姫とリクの身分じゃ難しいわな。でも忘れられずに追いかけてきたのか……オー青春だね」
「そんなんじゃない……ちゃんと自分の目でリナの幸せを見届けたら諦められると思ったんだよ。なのに……」
テリーは家の玄関の扉を蹴った。
「俺のことはいいから……とりあえず中に入れ」
「おう。もう子犬型やめてもいいか? 腹が減った」
「あ? いいぞ。食事の用意をする」
テリーはちゃっちゃと適当にあった野菜たちを炒めて、パンを出した。
「どうぞ。こんなのでよければだけど」
「見た目はちょいとあれだが、匂いはうまそうだな。いただこう」
アレクは食べると、破顔した。
「なんだ、この上手い料理。野菜のうまみがしっかりと引き出されており、味付けこそ薄いが素材の良さがしっかりとわかる」
「アレクも通だな。俺昔から、野菜育ててたから、野菜の美味しさ知ってんだよね」
「お、リクも自慢するんだな。まぁ、よかろう。美味しいから許す」
「そうか。そんな気に入ってもらえたようでうれしいよ」
テリーも嬉しそうに食事を始めた。
「っておい、これまずいじゃねぇな」
「あ? うまいぞ。甘くて」
「俺、塩を一つまみ入れたはずが、砂糖入れてるし……まずっ、よくこんなもの食べられるな」
「そうか……まぁ、我はよく味覚がおかしいと言われているがな」
「でも、野菜のうまみがわかるのは当たってるんだけど。なんか褒められた気がしねぇ」
「まぁ、いいだろう。気にするな。上手いから」
「……俺ちょっと味変するわ」
テリーはもう一度炒めて、ショーユと呼ばれる茶色い液体を注いだ。甘辛くなり美味しくなった。再度皿に盛りつけた。
「なんだ、このおかしな匂いは。焦がしたのか?」
「違うよ……ショーユという大豆からできている調味料なんだ」
「少しくれ」
アレクがテリーの皿から奪い取る。
「おいっ」
「なんだ……これは味覚が破壊しそうだ。甘いのか辛いのかどっちかにしろ」
「はぁ……うん。アレクの舌はバカ舌ってことがよくわかったよ」
テリーはそのまま、野菜をパンにはさんで食べた。
「おいしいな。リナは元気にしてるかな。これリナ好きだったな」
「リナってやつは美人なのか?」
「完璧に化粧したら、別人並みに綺麗だけどリナは化粧嫌いで基本はすっぴんだからな。リナが化粧する時は、どこかの街にバレないように行くときだけだ。さすがの王も本当の美人はバレたくないと婚約者相手にもすっぴんで会いに行かせていたしな。本当は親バカなんだよね……」
「そうか。リクはどちらの顔が好みなんだ? やはり化粧後なのか?」
「俺はすっぴんのリナを幼少期から知っているから何もしていないリナだな」
「かわっているな。普通はみんな男は美人が好きだろうに……」
「そうだよな。普通はすっぴんのリナに惚れる奴はいないんだけどな……まさか俺みたいな変わり者がもう一人いるなんて意外だわ」
「そいつが、さっきの王子か?」
「違うよ。ランドは化粧後のリナに惚れている。けど、ランドはそのことに気づいていないから一生教えるつもりもない。教えたら、この結婚が本物になっちまう」
「なんかこじらせ男子感が強いけど……頑張れとしか言えないな」
「誉め言葉だと思うことにするよ。食べたならもう寝ろ」
テリーは皿を片付けて、眠ることにした。
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