ランドと魔石

 テリーは、王室の部屋の扉をノックした。


トントン


「おー入れ」

「はい」


テリーが室内に入ると、ランドは書類整理に追われていたようだった。


「ちょっと待っててくれ」


書類に目を向けたまま、テリーに言った。ラミレスはいないらしい。今夜は遅いからもう帰ったのかもしれない。内心いないことにホッとするテリーだった。


「あーすまない。終わったっ……おい、その子犬はなんだ」

「え………と、魔石のある場所で拾いました」


アレクはずっと、ランドに向けて威嚇しているのかうなり続けている。


「おいっ、俺は犬が嫌いなんだ。早くどこかへやってくれ」

「そうでしたか……なら魔石は必要ないのですね?」

「どういうことだ……もったいぶらずに早く魔石を出せ」

「はい」

「殿下、少し目をつぶっていただけないですか……魔石が多いので光りすぎて陛下の目を傷つけかねないので……」


テリーはまさかあんな場所から出てくるところをこの国の王子であるランドに見せるわけにはいかないと考えた。それっぽい理由をつけてみた。


「なら、俺も少し休憩したいので席をはずす。10分後くらいに戻ればよいか?」

「そうしていただけると、助かります」

「殿下と呼んだり、敬語だったり気持ち悪いな……まぁいい」


ランドは部屋の奥につながっている休憩室へと移動することにした。


 テリーは小声でアレクに頼む。


「おいっ、お前唸るなよ。早く砂袋出せ」

「約束通り、吠えてもいないし、話してもいないだろう。文句が多い奴だ」

「……そうだけど。ほらっ、早く」

「それにしても、先代の王とは違ってなんか腹黒そうな奴だな」

「まぁな。色々策略家だと思うよ……俺もなぜかリナが心配で隠れてこの国に侵入したはずが、まさか、この国のご貴族様だしな」

「そうか……お主も大変だな。先代の王は、ビビりというか保守的な考えだったからな」

「もう先代の王の話とか今はいいから、早く出して」

「おう」


キラキラキラ


アレクが片足を上げると、星のようにまばゆい光が部屋中に広がった。眩しくてテリーは目をつぶっていた。


「おい、準備できたぞ」


アレクの声に反応してテリーは目を開けると、綺麗な木箱のボックスが床にポツンと置いてあった。


「おい、どういうことだよ。砂袋は?」

「一応でも、王に献上するわけだろ?あのままではまずいだろう。改造しといた」

「そんなところ気遣えるとか、すごいな。だからこそ色々と先代の王はお前のこと怖がったんじゃないのか?国ごと乗っ取られるとか、支配されてしまうことを恐れてだな……」

「どういう意味だ?」

「まぁいい。ありがとう。もう唸るのはやめてくれよ」

「善処する」


先が思いやられるテリーであった。


 ランドが隣の部屋から戻ってきた。


「いや……独り言です」

「……そうか。ところでその木箱はなんだ?」

「そうそう、魔石が入っております」


テリーはランドに渡した。ランドはその木箱を開けると凄まじい光り輝く魔石とその量に驚いた。


「これはすごいな。あの村にあったのか……?」

「はいっ、なんとか探し出しました」

「よくも無事に帰ってこれたな」

「どういう意味ですか」

「いや……なんでもない」

「気になるんで教えてもらえます?」


テリーの威圧的な態度に不敬だなと感じつつ、その恐ろしさからランドは白状することにした。


「誰にも言うなよ……」

「はい」

「あの村には、先代が魔術師を葬った場所なんだ。だからあの村は呪われていると言われており、死の村と呼ばれている……」

「おいっ、なんでそんなところに行かせたんだよ?」

「お前が勝手に行くって言ったんだろ? 俺は魔石が残っているかもといっただけにすぎん」

「この腹黒が……ゴホン。まぁいい。これで魔石が用意できましたね」

「あぁ、そうだな。ご苦労」

「はい。それでは当日に」

「そうだな。頼みごとがあればまた呼び出すからな。もう帰っていいぞ」

「はい。失礼します」


テリーは王室から出て、足早に城から出ることにした。


「あー疲れた」

「ご苦労だったな」

「じゃあ家に帰るとするか」

「リクよ、面白いことを知りたくないか?」

「何の話だよ」

「ほれ、我をお主の顔まで抱き上げてくれ」

「こうか?」


テリーはアレクを抱き上げると、アレクは両手でテリーの耳を一生懸命ポンポンと撫でている。


「どうした?くすぐったいな」

「よしっ、これでいいだろう」


アレクを下ろすと、耳から雑音が聞こえてきた。


ザァーザァー


「なんだ、この音は……」

「ちょっと待ってろ。回線を調整する」


アレクは手で自分の頭を掻いている。その様子はもはや本物の犬にしか見えない。


「よしっ、できたぞ」


すると、先ほどまで会話していた人物の声が聞こえてきた。


「あーこれが魔石なのか。初めて見た。綺麗だな。俺にも魔法が使えたらなー」


童心に帰ったかのように、嬉しそうに声が弾んでいるランドの声がした。


「おいっ、どういうことだ?」

「そんなの簡単だよ。あの宝石ボックスに仕込んだだけさ」

「なんか犯罪っぽいから嫌なんだけど……それにランドってこんなに子供っぽかったのか。意外だな」

「魔法に魅せられたものは、みな子供のようになるのだよ」

「ちょっと自慢?そうだよね。魔術師だもんね。子犬型がなじんできて犬だと思ってしまうよ」

「今に見ておれ。魔物が出てきたら我が倒してやる」

「プププ。いつの時代だよ……ちょっと聞いてみるか」


 2人はランドの声を聞きながら帰路につくことにした。


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