魔術師アレクとの出会い
テリーは1人馬を走らせながら、考えていた。
リナはいつだって、1人で抱え込んでしまう。うちに逃げ込む時だってそうだ。リナなりに姫として振る舞おうと頑張っていたのだが、やはり生まれ持った性格は変えることができない。どうしても我慢できないことがあると、いつも俺の家に逃げ込んできたのだ。
今回は魔石が必要と言ったが、魔道具でも作成するつもりだろうか。あの島でいったい何をしているのだろう。レストランだとは聞いたが調理器具などもなかったのだろうか。なら、一大事ではなかろうか。テリーは馬の背中を蹴って、急いだ。
村に着くとそこはジャングルのように草が生い茂っており、何も見えない。何かおかしなものが居そうな気配である。
そのとき、奥から赤い目が光った。やばい、魔物なのかと気づいたときにはテリーの上に乗りかかっていた。殺されると思った瞬間テリーの顔をペロペロと舐めている獣を確認すると、犬だった。なんだ野犬だったかと思ったが、おかしいことに気づく。
野犬はこんなに人懐っこいことはないし、飛びついたと同時に首に噛みつきそのまま血肉を食らうのだ。この野犬はおとなしすぎる。首には首輪がつけられていた。ただの迷い犬だろうか。
テリーはその犬の首輪を触ると、パリッと首輪が取れた。そして、宝石のようなチャームから光が散りばめられた。
「解放してくれたことを感謝する。我は魔術師アレクである。数年前に前国王であるラプス王に封印されてしまったのだ。ラプスは魔法は人をバカにするものであって、我が国には必要ないと言い、別の魔術師に俺を封印させた。そして、その魔術師は隣国で活躍することになったようだ」
「あ?もしかして、そのせいでここの前国王と妃様って病弱になってしまわれたのか……」
「ははは、これぞ我の呪いなり」
「おいおい、そんなことしてるから封印されたんじゃねぇのかよ。魔法は使い方さえちゃんとすれば便利だぜ」
すると、アレクと名乗ったものの目が黒く光った。もしや、俺も呪われてしまったのだろうか。不安に思っていると、その目は元の色に戻っていた。
「あーお前はピルカ王国の者だったか……ところで貴様は何しに来た?」
「あ、そうそう、魔石を探しに来たんだけど、あるかな?」
「おう、魔石は土に埋まっているはずだろう。探してやろうか? もちろんタダではないがな」
「手伝ってほしいが、条件にもよるな。聞かせてくれ」
テリーは先程の目の変化は自分の過去を透しされていたのだと理解し、相手の出方を伺うことにした。
「我も連れて行ってほしい。今の魔法はどんなものなのか知りたい」
「はぁ? そんなの無理に決まってるだろ。俺は謀反の罪で捕まるだろ?国王様の封印を解いたとかやべぇよ」
「おーそうか。ならさっきの犬の姿ならよかろう?」
「絶対人型になるなよ。もし人型になったらその時は……」
「おう、怖いが生きのいい男じゃ。わかった、約束しよう」
そう言って、アレクは魔石をどんどん掘り出していた。これはすごい便利だ。何もしていないのに、どんどん魔石が土の中からはじき出てくる。何10個、いや100個近く出てきたのだろうか。赤、青、黄、緑、白、黒と色鮮やかな魔石が出てきたのだった。
「俺も魔法が使えたらな……」
「あ? お主魔法が使えんのか?」
どこまで透しされたのかはわからないが、庶民ということはわかっていないようだった。
「俺はだって庶民だぜ?今でこそ貴族様なんかのレッテル張られちまったけどさ」
「そうか、ある程度の魔法使えるようにしてやろうか」
「え? できるのか」
「俺を誰だと思っている」
「あ、アレクだろ?覚えたよ。俺の名前はテリー、いや、アレクには本当の名前言おう。リクだよ」
「そうか、リクよ。どんな魔法が使いたい?」
「好きな女を守れるモノが良い」
「そうか、なら赤、白、青を取ってこい」
「おう」
リクは土の上に転がっている魔石を集めてきた。
「これでいいのか」
「よしっ、目をつぶれ」
リクは目を瞑ったのだった。
「よし、いいぞ」
「え?何も変わってないけど……」
「ファイヤーと言ってみろ」
「ファイヤー?」
すると、手の中には大きな火の塊が出きていた。
「すげぇ」
「そのまま、あの草を燃やしてみろ」
「え……えい」
投げつけてみると、その球は豪速球のように飛んでいった。
「なんだ、あれ、威力も早さもあり得ないんだけど」
「青の魔石でお前の体内強化を行った。体力、身体能力も確実に上がったはずだ。これで女も守れる」
「そうか。ありがとう。で、赤は火の力だとして白はなんだ?」
「女は痛みに強いとはいえ、堪えてるだけなのだ。だから、白は治癒魔法だよ」
「なら、リナが転んだりやんちゃして膝とか擦りむいたとしても治療してやれる」
「あーそうだ。ただし、お主の場合は元から魔力に耐久があったわけでもない。この魔石に応じた魔力しか使えぬゆえ、考えて使えよ」
「あぁ、でも、犬としてアレクがそばにいるんなら補充は簡単なのでは?」
「魔力がないお前が魔力を使い切ったときに、体の負荷を考えると無理だ」
「え? そんなにやばいの……?」
「まぁ、枯渇しなければ何も問題ないよ。ほらっ、急ごう」
アレクはかわいい茶色のモフモフ子犬に変身した。
リクは、アレクの変身に驚きながら言った。
「おい、さっきより小さくなってるし、野犬ぽく全く見えないのだが?」
「あーやっぱり見た目は大事かと思い、可愛がられるようなモフモフな毛並みに目もくりくりとした子犬型にさせてみた」
「そうか……リナが好きそうだしまぁいいだろう。でも、待て。この魔石まだ拾っていないだろう。こんなに大量の魔石どうやって持って帰ろう……」
「おーそうだった」
アレクは子犬のかわいい手からボンと大きな砂袋を魔法で出した。
「これに入れろ」
「あぁ。でもこんな重い砂袋も馬に乗せることなどできないぞ」
「あーそうだったな。気にするな。我が後で小型化してやる」
「すげぇーな。やっぱり便利だな。頼む」
リクは数が多かったが、拾い残すわけにはいかないので全て拾い集めた。
「よしつ、これで問題ない」
「おぃ」
アレクは砂袋に今度は犬がおしっこするような体勢で、片足を上げた。
「おいっ、トイレならあっちの草むらでやれよ」
「バカを言うな。ちゃんと見ておれ」
そう言ったかと思えば、アレクは片足を上げたまま、光を放出し、股間の中に砂袋が吸い込まれ、収納した。
「うっ、なんか嫌だ……」
「仕方あるまい。本来ならマントの中に収めることができるが、この小型犬だと一番力が強く収納力あるのはここしかない」
「……そう。まぁ、袋に入っているし問題ないよな」
リクはため息をつき、そのまま子犬を抱き上げ馬に乗り城へと向かうことにした。
馬を走らせていると、辺りは真っ暗になっていた。城へと着くと、門番に止められてしまう。
「テリー様、その動物はどうしたのですか? 場内は動物禁止なのですが……」
「あぁ、でも陛下の頼みなんだが?」
テリー(リク)は、門番にそう言いながら睨みをきかせた。門番はその鋭い眼力に負けてしまい、扉を開くことにした。
「どうぞ……」
「あぁ」
その光景を見ていたアレクは内心笑っていた。
(コイツ、魔力を使用していないにもかかわらず、この門番をひと睨みで脅すとは大したものだ。これは期待できるな)
城内を歩き、王室の部屋までたどり着いた。
「アレク、俺はここではテリーと呼ばれている。黙っておけよ。話すなよ。吠えるのも禁止だ」
「ワン」
「おいっ」
テリーは慌てて、アレクの口を抑えた。
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