ヘアセット
リナは起きると真っ暗だった。あれ?昨日きつい酒飲んで……運んでもらったのよね。ボンってハゲのくせに意外にカッコいいのよね。人肌が恋しくて、思わず甘えてしまったけどボンあのあとどうしたのかしら……まぁいいわ。何時かしら?
時計を見ると、5時だった。5人分のヘアセットをしなければいけないのでもう起きることにした。自分は最後にしようと髪だけ簡単にまとめておくことにした。
順番に2階の子たちから起こしていく。
「ほら―起きて」
フライパンをドラムコールのように鳴らし続けると、3階にも聞こえていたようで年上大人集団が一斉に下りてきた。
「なに?どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。今から準備をしないと」
「え?でもまだ5時半よ……?」
ミーシャが時計を見ながら欠伸している。
「あのね、化粧とヘアセットひとり早くて30分なのよ?今かしてもどう考えても間に合わないの。だから、あなたたちだけでも化粧をしてきて。で、髪の毛もできそうならお互いのよろしく。令嬢だったらお人形遊びとかでやったことはあるでしょ?とりあえずよろしく」
リナはミーシャに言うとチェリやサラはにっこりしていたので自信があるのだろう。なら助かるとリナは安心した。
それにしてもいつの時代も若い子って良く寝るのかしら?これだけうるさければ普通起きるだろう。部屋を開けていくことにした。
ルーミーが腹を出しながら寝ている。本当にこの子は期待を裏切らないというか……
「カンカン、ルーミー起きて」
「え? なに? 火事?」
「はいはい、寝ぼけてないで準備するわよ」
まだ寝ぼけているルーミーを化粧台に座らせた。そしてヘアセットをしていく。髪が長いと思っていたが実際にはボブくらいで一番簡単だった。四つ編みにしてハーフアップにする。
「はい、顔洗ってきて。その間にジェシーのところに行くから」
「おぉ、わかった。ありがとうな」
「あら、寝起きは素直なのね」
「……違うよ。なんだかんだで楽しいからさ」
「そう? ならよかったわ。これからもっと忙しくなるから弱音吐かないでよ」
「わかったよ」
リナはルーミーに微笑み、ジェシーの部屋に行くとすでに化粧を済ませていた。一番若いのになかなかやるわね。
「おはよう。ジェシー。ヘアセットするわね」
「はい。お願いします」
相変わらずかわいいジェシーに心を奪われそうになる。女の私でもこの子の可愛さは最強ね。アップにしていき、サイドのヘアは後れ毛同様に流していく。
これでオッケーね。可愛さの中にも色気をプラスできたわね。化粧がまだ薄いから手直してと。できあがり。
「はい、ジェシーできたわよ」
「私じゃないみたい……」
「かわいいのもいいけど、大人な色香も出したかったからね」
「ありがとう」
「いいのよ。ジェシー悪いんだけどルーミーの化粧頼んでいい?今自分でしたより少し濃いめにしてほしいけど……時間が足らないのよ」
「え……できるかわからないけどやってみます」
「よろしくねー」
リナは、ジェシーに頼み3階へ上がっていくともうすでに7時だった。あと1時間でできるだろうか。いや、初日の練習からこんなではダメだ。気を引き締め直した。
「え……その頭何よ……」
見るとサラの頭がボサボサヘアになっている。
「えっと……リナがやったみたいに巻いてみようとしたら、なぜかこうなった……」
チェリが声を細めている。しかし、そのチェリは完璧な様子だった。いったいどういうことだろうか。
「ほら、チェリだから言ったでしょ?あなた不器用だからやらない方がいいってあれほど注意したのに。意地張ってやるから……ミーシャも優しいからいいよって言うし、最悪よ」
サラが怒っていた。話をまとめると、サラがチェリのヘアをして、チェリがミーシャをしたってことよね?でも、ならサラは出来る子なのね。よかったわ。
「サラ、ヘアセット上手ね」
「まぁね。お人形ごっこは大好きだったから……」
「そっか。ならこの爆発した髪はこのままポニーテールまであげてそのままくるっと夜会巻にしちゃいましょう」
「やかいまきって?」
「明治時代に流行った和服に似合うヘアスタイルよ」
「はぁ……なんかわからなけどいいんじゃないですか」
リナはさっさと櫛でまとめ上げた。やはり、一番年上のミーシャは着物が似合いそうなお色気抜群の美人だった。
さてと次はサラか……
「サラは何か希望ある?」
「自分じゃない雰囲気になりたいです」
「そうか……魔道具があれが髪の毛も染めてあげれるんだけど今は無理だから……アップにするけど可愛い感じのJKっぽい雰囲気にしてみるわね」
「じぇーけー?」
「あっ、今のは気にしないで」
パッパとツインテールにしてお団子ヘアにしてみた。うん。なんか女性戦隊ものっぽいけど、これは受ける人には絶対受けるわね。それにこの時代にこんなヘアしている人なんかいないから絶対おしとやかなサラってわかんないわよ。
リナは自信たっぷりだった。そのまま3人の化粧を終えて、ルーミーの様子を見に行くと、なぜだか幼稚園児が化粧したような口紅は頬まで伸びているし、アイラインは囲いすぎておかしなことになってる上にはみ出ているし、最悪な状態だった。どうしたらこのようなことになるのだろうか……
「ジェシー? なんで?」
「あのですね……ルーミーが嫌がって動いた結果……すみません」
「ちょっと‼ ルーミーさっきまでのおとなしかったのはどうなったのよ」
「だって、ジェシーがかわいすぎて目と目が合うと恥ずかしくなっちまうんだもん」
リナは思わずルーミーを同情したくなる。そうなのよ。この子本当に純粋にかわいいのよ。化粧して色気が足されたから照れちゃう気持ちはわかるけど……
「ありがとう。ジェシー。あとはやるから。みんなもドレスに着替えてリビングで待ってて」
「「はーい」」
各自準備を始めることにした。リナはうな垂れながらもルーミーの化粧を落としていく。
「ルーミーかわいいのはわかるけど、今時間ないのよ? それにあなたもこれから可愛くしてあげるから嫉妬しないで」
「いや……嫉妬じゃ……」
「嘘はいいわよ。ルーミーってそんな喋り方してるけど本当は超乙女でしょ? ジェシーみたいに憧れるんでしょ? わかってるわよ。ちゃんとかわいい系に変身させてあげるから」
「本当か……?」
「わかったなら、目をつぶって黙って」
ルーミーはおとなしくなった。その様子にクスリと笑ったリナは妹系のかわいいキャラを思い浮かべて化粧をしていく。うん。これでお客様はみんな「お兄ちゃん」って呼んでほしくなるわね。
「はいっ、できたわよ」
「え?これが自分なのか……?」
「そうよ。かわいいでしょ? これで令嬢らしくおしとやかに口も悪くなければみんなあなたの虜よ」
「そうか……気をつけますわ」
「うんうん、いいわよ。でもそこはあえてため語がいいと思う。一回プンプンって言ってみてくれる?」
「……プンプン」
「うん、いいわよ。かわいい妹っぽい」
「なんかわからなけど、がんばるよ」
「さっ、いきましょう」
「リナはいいのか?」
「今回は練習だからオーナーとして全体も見たいからこのままでいいわよ。本番は私もバッチリ化粧するし」
「そっか」
1階に降りていくと、きれいな美女令嬢たちがずらっと並んでいる。その姿はまさにキャバクラのようだった。
「よしっ、いきましょう」
「「承知いたしました」」
みんながスイッチが切り替わったようでうれしいリナだった。
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