それぞれの思い

 リナは、王子に頼んだもののこのままでは営業できるような状態ではない。

まず、彼女たちに接客を覚えさせなくてはならない。言葉遣いは問題ないが、料理など運んだこともない箱入り娘ばかりであろう。きっと、重い物どころかお盆すら持てない恐れがある。


きっと、メイドたちに頼んで軽いものでも運ばせていたに違いない。

王子たちの視察の時には完璧にしときたいリナは、スパルタで育成しようと考えていた。


悩んでいたところに、ボンが言った。


「リナ様、デザートができたそうです」

「え?わかった。出して」

「へい」


大皿に乗ったフルーツ盛が出てきた。まさに、キャバクラで出てくるようなフルーツたくさんの盛り合わせだった。いやいや、今までコースで出してきたから、ここは小皿で提供でしょう。リナは怒った。


「ねぇ、なんでフルーツ盛り合わせがこんなバカでかい大皿に乗せ来るの?」

「こちらの方が見た目がインパクトがあるかと思いまして……」


1人の男性が申し訳なさそうに言った。


「確かに見た目はいいわ。でも、私が求めてるのはケーキなの?洋菓子なの?わかる?」

「……いえ、わかりません」

「はぁ」


ため息をついていると、ミーシャが答える。


「私、先ほどのレモネを使った洋菓子を作れます」

「え?あの高級なのよね?なぜ作れるのよ!」

「あっはい。一度母が作ってくれた時に教えてくれたので」

「もしかして、そのレモネってやっぱり盗んでいたんじゃないの?」


リナのとんでもない発言にみなギクリと心臓を傷めてしまう。


「いえ……違うと思いますが……やはり、そう思われますよね……っ」


泣き始めてしまうミーシャ。ルーミーが言った。


「おいっ、お前今のは言いすぎだぞ。言っていいこと悪いこともわかんねぇのかよ」

「はい?事実かわからないことを聞いて何が悪いって言うのよ?本当に違うと思うなら泣かないんじゃない?」


リナは悪びれもなく言った。


「……確かにそうですね……こうやって傷つくから相手にも肯定していると思われるのかもしれません」


ミーシャは泣き止みながら言った。


「あらっ、ミーシャは物分かりがいいわね。いつかその罪をかぶせたやつ見返してやったらいいのよ」

「そうですわね。一生ついていきます。リナ様」

「ついてきなさい」


ここにリナ崇拝者が、また一人増えたのだった。



 そして、約束の3日後になったのでリナは王子に連絡することにした。

「はーい。準備できた?」

「あぁ、言ってた件だけど、俺の護衛を含め7人そちらに行くようになったが、大丈夫か?」

「はい? 約束は10人だったはずだけど……まぁいいわ。でキラは見つかった」

「いや……まだラミレスから報告を受けていない」


そこに慌ただしく扉を無作法にノックなしに開けてくる輩がいた。


「リナ様、申し訳ありません。キラですが、現在は名前を変えており時間がかかってしまいましたが、なんとか居場所を突き止めました」

「えらいわよ。きりん。キラも連れてきて。こちらで必要だから」

「いや……彼には今……」


ラミレスは何か言い淀んでいたが、そんなの気にするようなリナではない。


「きりん? 私の言うことが聞けないのかしら……?」

「いえ……そんなことは決して。必ず連れて行きます」

「よしっ、決まりね。いつ来れそう?」


王子は考えているようだ。なかなか返事が返ってこない。イライラしてそばにいたボンを叩いた。


「準備があるから、1週間後で頼む」

「わかったわ。それまでにこっちも準備しとく」

「あぁ」


リナは電話を切った。やっと一歩前進した気がしていた。これから、このコースを本格的に調整し、接客の練習、魔道具の準備。これから忙しくなるわね。それでも楽しいわね。ウキウキした気持ちでみんなに告げた。


「みんな、1週間後に王子をはじめ、この島に来るわよ」

「え?王子自らですか」


ボンは驚いたようで、リナに尋ねた。


「当たり前じゃないの。私の旦那なのよ」

「婚約破棄されそうって言ってなかったか?」

「いえ……まぁ色々あるのよ」

「まぁ、仲良しなら一緒に暮らせばいいのに」

「私はこの島の開発があるから忙しいのよ」


適当にごまかした。リナたちは一応は結婚したことになっているのだ。

噂では、リナがもう臨月でドレスが入らず、体調を万全に備えるために、式が行われなかったということになっているので、誰もそれ以上は言わなかった。


この村の人は、国の情勢は知らないから、リナが王子の妃と思っている。訳あり女性たちは、訳ありなだけあって、私のお腹がぺちゃんこのことを何も聞かない。もしかしたら、死産?それとも、生んだら用無しだから島に追いやられたなどきっと妄想してるに違いない。


実際は、結婚していないなんて誰も思いやしない。だからこそ、やりやすかった。自由にできる。普通は妃なら言葉遣いも気をつけなきゃいけないけど、みんな普通に話してくれるから嬉しい。


それにしても、ランドはリナと結婚したくないとかいって、実際は破棄したかったはずなのに、結果的には周囲には結婚したと触れ回って嫌じゃないのかしら?


リナはこんな条件を飲んだランドの考えが全くわからなかった。



 確かにピルカ国は恐ろしいからきっと半分脅されたのだろうけど、ここまでひたむきに隠す必要はない。リナの言うことなど聞かずに、監獄へと放り込むことだってできるのに……もしかして、何か王子にも企みがあるのかしら。リナは考えようとしたが、疲れていた。明日からはプレオープンに向け準備しなくてはならない。


今日は休息日にして明日から本格的に動くとしよう。


「みんな今日は唯一休める日だと思う。だから、明日からコキ使いまくるから明日からに備えてみんな各自休みでいいわよ。好きに過ごしなさい。ただし、明日の朝8時集合ね」


「「はい」」


みんないい返事をしてばらばらに散っていった。ただ一人立ちすくんでいる者がいる。


「ボン?何ボーとしてるの?また叩かれたいの?」

「いえ、リナ様が休みを与えてくれるなんて驚いてしまって動けませんでした」

「このハゲ。私を何だと思ってるのよ」


そう言って、ボンの頭を殴り飛ばした。ボンは笑っている。


「ちょっと……あんた気持ち悪いわよ……」

「リナ様っ、なんか快感になってきたかもしれません」

「やめてよっ。気持ち悪い。近寄らないで」

「リナ様」


ボンはリナを追いかけまわした。それ以来、リナはボンを叩くことはなくなったが、ストレス発散の捌け口がなくなり、困っていた。


※※※


 ランドは、ため息ばかりついている。あの女とは婚約破棄したのに結婚していることになってるという、なんともややこしい状態だった。それは、リナの国が怖いと言うのもあるが実際は、好きな女性と婚約したいがためそれまでの時間稼ぎにつかっているというものだった。


ランドには好きな女がいる。あるときに一度だけある町で会った女性だった。名前も聞かなかったのだが、その町で言語の違いで言葉が通じず、困っていたランドをその時に助けてくれた女性だった。とても美人で心優しい人だった。一目惚れだった。お礼を言おうとしたが、すぐに人混みの中に紛れてしまい、彼女を見失ってしまった。


ランドはあれ以来社交界で出会えないかずっと探しているのだが、一向に出会わない。ランド自身が結婚するなら、彼女以外考えられないと考えている。あの女性はどこにいるのだろうか。


ラミレスは名前が変わったキラという奴を探すことはできるのに、なぜ俺の探し人はいつまでたっても見つからないんだ。ラミレスを呼びつけ、情報を探ることにした。


「ラミレス、なぜ俺の思い人は見つからない」

「陛下のおっしゃる特徴だけの女性なんて吐いて捨てるほどいるんです。その女性たちみなとお会いするつもりですか。一応、その特徴の女性はさりげなく根回して、陛下が参加される夜会や社会には出席させております。それでもみつからなかったのでしょう。いい加減諦めてはどうですか?」

「……無理だ……俺はあの女性が」

「そんなこと言っても見つからないんですよ。それがこの国の者ではないと言う証拠になりませんか。いい加減諦めてくださいよ。子供の駄々っ子のようにあの女はまだか、まだかっって。そんな暇あるなら目の前の書類片付けてください。


「あぁ」


俺はそれ以上何も言えずに、書類に目を通していた。そのやり取りをたまたま予定を確認しに来たテリーが部屋の外で聞いていた。


「ふっ、絶対見つかるはずないよ」


テリーは笑っていた。

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