試食会

 リナリアは、令嬢たちに言った。


「あなたたちは、今からテーブルセットの準備をしてくれる? 試食してみましょう」


「リナ様は、マイペースというか自己中、いや、独裁者だな。なんか……すごいな」


ルーミーは、リナ様はすごい人だと認識した。この人についていけば何かいいことが起きるような気すらしてしまうのだから、この魅力というか従わなくてはいけない雰囲気作りが上手なのだろう。


いや、違う。言葉や暴力、脅しによってのたまものであって、彼女の魅力ではない。危ない。危うく騙されてしまいそうだった。


ルーミーは1人頭の中で考えていた。


※※※


 ボンが、4人を連れてやって来た。その4人はなぜか怯えていた。


「そんな怯えなくても、大丈夫よ。指示にさえ従ってくれればね」


「何をすればいいのですか……」


年配の女性が、こわごわ聞いていた。


「今から、食事を作ってほしいの。地元料理って何?」


「リフモという葉っぱで撒いたおにぎり、鳥の丸焼き、虫の揚げ煮びたし、ココナシというココナッツのような白い丸い球体の中にイチゴジュースのような甘い汁を楽しむフルーツですかね? ねぇ、あんた」


「そうだな。他にもフルーツはあるが大きなメイン料理はそんなもんだと思う」


他の年配二人も頷いていた。


「わかった。なら今から1時間以内で全部作ってくれる。あとはサラダや魚料理は無理なの? できるわよね?」


「え……はい。できます!! 作らせていただきます」


そう言って、4人は厨房へと急いでいった。


リナリアは満足げに椅子に座った。


「ねぇ、みんなも食べてみた感想をお願いね。率直な感想をよろしく。食わず嫌いはなしよ。わかっているわよね」


ジェシーは泣きそうになりながら聞いた。


「さっき、虫って言っていたけど、私虫苦手なのですけど……」


「あー私も苦手だから一緒よ。頑張りましょう」


ジェシーはルーミーに泣きついた。


リナリアは思った。かわいい子って何してもかわいいのね。うらやましいわね。



 厨房からはいいにおいが立ち込めてきた。


一同、色めきだつ。みんな意外に食べるのが大好きなのね。ならきっと男性の扱いも上手になれるわねと意味不明な根拠を元にリナリアは1人安心していた。


 初めは、サラダが出てきた。カラフルな野菜が色とりどりでインスタ映えしそうなサラダだった。


これは、ウケるわね!!いいわー。血のように濃い赤のニンジン風、紫オニオン風、黒のオリーブの実に似て非なるもの、意味不明な黄色のものだった。


「さぁ、みんな食べましょう」


「いただきます」


リナがいただきますというと皆が不思議そうな顔で見てきた。


「いただきますってなんですか?」


サラが聞いた。


「え? 食べる前の挨拶みたいなものかしら? 食べ物に感謝するような意味合いで……」


リナは説明に困ってしまう。いただきますなんか普通の言葉だから定義なんか知らないわよ。


すると、ミーシャが言った。


「それはこちらの言葉では、スマイタダと同じ言葉ですね」


「あっ、こっちもあるのね? でも、王子様はお食事の時言っていなかったわよ?」


「だって、王子は食べ物に不自由しないから、言わない習慣じゃないですか?」


すると、年配の女性が声を上げた。


「あんた、ここの島出身かい?」


「えっ?」


「だって、スマイタダっていうのはこの島の人しか使わないはずだよ」


「え? そうなんですか?」


ミーシャは驚いている。


サラは頷きながら、ミーシャに説明する。


「私たちも食べる前は、普通に神様に感謝しますって手を合わせるだけで何も言わないもの」


他の女性たちも、大きく首を縦に振っている。


「え? ずっと、当たり前だと思っていた」


リナは、人が聞きにくいことでもはっきり聞くタイプで、聞きたいことは放置できない。


「ミーシャの両親って何の罪で捕まったの?」


みんな目を仰天とさせて、リナを見た。リナはまったく気にしていない。


ミーシャは、その様子に笑ってしまう。


「気にせず聞いてくれる方が相手のことを思いやっていますよね? こそこそ噂話するより、よっぽどいいと思います。私の両親は反逆罪の罪で罪人になりました。先代の王様の食事に毒を持ったらしいです。本人たちは最後まで否認してたんですけどね……」


「そっかぁ。王族って決めつけるから嫌よね」


リナが珍しく賛同していると、年配の女性がミーシャに尋ねた。


「もしかして、お母さんはラマっていうかい?」


「え? 母をご存じですか?」


「ご存じも何も私の友人だよ。目元が似ていると思ったよ……」


二人は抱き合った。リナはこんな話にもちろん弱いわけがなく、一言述べた。


「そこ、勝手に懐かしむのはいいけど、今食事中ね。さっさとあなたは持ち場に戻りなさい」


「……はい、すみません、リナ様」


年配女性は慌てるように厨房に戻っていった。ミーシャも席に着くことにした。


誰もが思っていた。お前が話を振ったんだろうがと。しかし、誰もつっこむことはない。なぜなら、リナは怒らすと怖いからであった。


みんな黙って何も言わずにそのまま食事することにした。


「なにこれー超おいしんだけどぉ!!」


リナは思わず美味しさのあまり普通に話してしまった。


「まじでこれ上手いな。この赤いの甘くておいしい」


ルーミーが言った。


「この黄色いのは何かしら?なにか酸味もあるのに甘みもある味。食べたことないですわ」


ジェシーも興奮気味で話している。


ミーシャが答える。


「この黄色いのは、レモネでしょうか? これはなかなか手に入らない高級食材だと母から聞きましたけど……」


「え?そうなの?ならめっちゃ高値で売れそうじゃん!! ねぇ、おばさん、これってこの島で普通に収穫できるの?」


厨房に戻った年配の女性に大声で話しかける。


「え?そうですね。普通に木に生えていますから、問題ないと思います」


リナは、思わずガッツポーズした。これはイケるわね。サラダから高級食材とか稼げるわー!これレモンと同じだよね?形が四角いクルトンみたいだったから、何かわからなったけどレモンね。ドレッシングはかけてあるのかしら。疑問を口にしようとすると、チェリが言った。


「これって、野菜本来の味だけですよね?素材だけでこんなにおいしい料理とか感激です。この赤もだし、レモネもだし、なにこれ、どうやったらこんな味になるのよ。あぁもうすごいわ……これだって……」


どうしたのだろう。オタクのような好きなものになると熱く語り出す感じ……

すさまじい勢いだった。ここ最近無口だった人だとは思えない。


でも、良い兆候だわね。そもそも幸せになってほしくて集めた人材なのだし。リナは嬉しく思った。


「よし、このサラダは採用ね。ネーミングどうしようかな。色とりどりのサラダ?いや、まんまだわね」


「デリスサラダはどうでしょうか?」


ミーシャが言った。なんかミーシャもここに来て元気になった気がする。積極的になったというか。


「いいわね。それでいきましょう」


デリスって英語のデリシャスに似ているし、ちょうどいいわね。


こうして前菜のサラダが決定した。



 次に運ばれてきたのは、なんと虫の煮びたしのようだ。なんなの?このグロテスクな見た目は……さすがにこれはきついわね。


でも、観光名物として打ち出すにはもってこいのインパクトだわね。


誰も手を付けようとしない。やはり、ここはリナが一番はじめに食べるべきだろう。


目をつぶりながら、口に頬張る。噛みたくないという気持ちからどうしても口に入れた状態で止まっていた。


ルーミーが食べた。


「なにこれ、これ見た目より全然うめぇ」


そういうと、バクバクとイナゴかバッタのような形のモノをシャカシャカ言わせながら食べていた。


リナもそれを聞いて、一口噛んだ。口の中に焼きガニを食べているような感覚に陥った。これは確かに美味しい。見た目はちょっと嫌だけど、イケる。これも採用ね。


二人があまりにも美味しそうに食べていたので、他の3人も食べだした。


ジェシーは、目に涙をいっぱい溜めながら食べた。


「……ん?おいしぃ……?」


その姿は、まさにあざとさ全開の男受けする表情だった。ナンバーワンはきっとジェシーね。かわいいし、自分の良さをわかっているわ。無意識なのでしょうけど。


それにしても、料理の名づけは、苦手なのよね。


「ねぇ、これも採用だと思うのだけど、名前誰か考えてくれない?」


ルーミーが手を挙げた。


「バクバク料理」


「センスなさすぎよ。次!」


チェリが手を挙げた。


「カリタッパナ……」


「なんかわからないけど、響きがいいわね。採用!!」


よし、次わね……魚かしらね。ここでは何が取れるのかしら。楽しみだわね。

すると、男性が申し訳なさそうに厨房から出てきた。


「リナ様、すみません。ここの魚はまずいので揚げても焼いても、臭みが取れません……」


「そうなの……なら魚は諦めるわ。肉は大丈夫?」


「えぇ。肉は鳥の丸焼きです。そのままお出ししても大丈夫ですか?」


「そうね。その方がいいわ。写真に撮って広めてもらいましょう」


「写真ってのはわしにはわかりませんが、そのままお出しします」


そう言って、男性二人で鳥の丸焼きを出してきた。


リナは驚いた。鳥の丸焼きって言ったから、七面鳥の丸焼きを想像していたのだが、これはもはやブタの丸焼きである。


見た目もブタそっくりだよ。これで何人分取れるのよ。


「で、これをどうするつもり?」


「あーはい。お客様の前で部位を選んでもらい、切り落として、お皿に盛り、ソースをつけてからのお渡しします」


「いいわね。部位によって値段は変わるわよね?」


「わしたちはブツブツ交換が主流だったので、貨幣の価値はわかりませぬ」


「了解。なら、私は紙に書いて値段表を作るわ。ヘルシーな場所はどこ?」


「ここですね」


そう言って切り落としてくれた。切り落とされた普通のトンテキだった。ソースは甘辛ソースで日本の照り焼き味に近かった。


サラダや虫の煮びたしまではイタリアンかフレンチぽい味だったからソースは改良ね。


他の女性たちの分も切り分けても、あと10人以上取れそうだった。この子ストパーフォーマンスもいいわね。


「ねぇ、このブタ……じゃなくて鳥だったわね。ここに生息しているの?」


「いや、これは家畜です。育てていたものがいて、その者はいなくなってしまったので今は放牧状態で放置しています」


「なら、育てることのできる人間はいる?」


「アイツは島から脱出したので……」


「え?私の目を盗んで脱出なんてした人いるの?しばく!殺す!」


「いやいや、昔の話ですよ」


「ならいいわ。ボンそいつを呼び戻しなさい」


ボンはいきなり振られたので、びっくりした。


「え?アイツは国に行ったはずだから無理ですよ?」


「わかったわ。王子に頼みましょう。そいつの名前は?」


「キラです……でも、あいつは呼ばない方がいいと思いますが……」


「なんでよ。アイツは人を探しているらしいですし、女たらしですよ?こちらの女性たちが危険では?」


「大丈夫よ。そんな不埒な真似なんかさせるわけないじゃない。私が許すと思っているの? ボンで証明してあげてもいいけど?」


「いや……そんなはずはないですね。リナ様にぶっ殺されますもんね?」


「ハゲ?口を慎みなさい」


「はい」


何かボンにだけ、あたりが強い気がするのは気のせいだろうか。


サラが、突然咳き込み始めた。どうしたのだろうか。え?アレルギーとか?


「どうしたの、サラ」


「……いえ、大丈夫です」


水を流し込むサラは、なんだか様子がおかしい。


「おかしいわよ。サラ。何を隠しているの?言いなさい」


リナは、苛立ってしまい、バンと机を叩いた。


サラはビビりながら、しぶしぶ言いにくそうに話し出した。


「あの……キラッて行方不明の元カレの名前と同じだったから反応してしまっただけです。彼はもう誰かと結婚しているはずなのに勝手に妄想してしまっただけですので、気にしないで下さい」


「あっそう。似た名前なんか多いんだから、いちいち気にしてても、傷つくのは自分よ。気をつけなさい」


「はい」


人には厳しいリナだった。自分もリクをいまだに思っているのに……

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