リナリアの評判

 トラクス国のランドは、「結婚できない」とリナリアに2人きりの時に話したが、トラクス国から打診した見合い話をこちらから破棄するわけにはいかなかった。


なぜなら、トラクス国はピルカ王国に、婚約成立の証である銃を既に貰っているからだ。この銃には、二つ意味がある。万が一、婚約破棄するなら、この銃で自害しろ。もう一つは、この銃をお守りに姫様を守れとのことだそうだ。


 ピルカ王国の意図が分からないが、慣わしということだから仕方がない。もし、誓いを破ってしまうと、自害しないといけない、もし逃げようものなら、戦力がすさまじく強いピルカ王国に逆らうことになり、トラクス国の破滅を示す。


ランドは形式上結婚はしたことにしてリナリアとは別々に自由に暮らそうと話をするつもりだったが、リナリアの姿が消えていた。


呆然としていると、宰相のリムから1本の電話が入った。


「騎士団からの連絡があって、船に一人乗る奇妙な女を目撃したそうです」


「え……あそこの船着場までどれだけ距離があると思うんだ……髪色は黒だったか?」


「はい。珍しい黒髪なので間違いないそうです」


「捕まえてくれ」


「え? 騎士団が半殺しされた? あの強靭な騎士団を打ち負かされるなどどれだけあの姫さんは強いんだよ……」


「仕方ない。行き先だけ確認してくれ」


ランドは電話を切り、船に一人で乗ることができる女性などこの国にはいない。

それに、黒髪の女性などピルカ王国でも珍しいと聞く。

リナリアで間違いないだろう。


 それにしても噂では聞いていたが予想以上の暴れ姫だな……今までの婚約者に対して、罵詈雑言や暴力は当たり前だし、社交界においてはダンスを真面目に踊らないどころか、男性の足をわざと踏みまくる。男性に対して、ひどい扱いをしてきたそうだ。こんな風にされたら、誰だって婚約破棄するだろう。


 それを許しているピルカの陛下もどのようにお考えなのだろうか。普通娘でもある一国の王女がここまでひどい乱暴者なのだから、結婚を諦めるか、もしくは、自国でどうにかすることを考えたらいいのではないだろうか。


あの陛下のことだ。何か考えがあってのことだろうとは思うが……ランドにはその理由が見当もつかなかった。


 しかし、あそこの港から出ている船で向かうとすれば、行先はきっと誰もいないあの島しかないだろう。あの無人島は、人もいなければ、連絡手段もないだろうから、彼女が戻って来れないように船をこちらに戻してしまえば、結婚したことにできるかもしれない。


ランドはそんな悪知恵を働かせて、リナリアがいなくなったのをいいことに、ピルカ王国に対して結婚したという報告をして欺いたのであった。


当然、そんな嘘などすぐばれると思ったが、なぜかピルカ王国から挙式はいつかというどころか、「挙式には参加できない」と言われたことには正直意外だったが……


やはり、あの姫様には何か秘密が隠されているのだろうか。とはいえ、こんなチャンスを見逃すわけにはいかない。


 ランドは、「私の妃は人見知りだから式は行わない」と触れ回ったのだった。無理やりなこじつけではあったが、両親は病弱だったために何も言わず、貴族たちもあまりのランドの脅迫がおぞましかったがために、式を行わないことを納得しざる負えなかった。


 結婚の報告を聞いたピルカ王国では無事あの王女が結婚したと祝いの宴がなされたそうであると文書が来た。


 これですべてが上手くいったと安心していたランドだったが、想定外のことが起きてしまった。帰ってこないだろう思っていたリナリアから、なぜか連絡が来てしまったのだった。

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