第53話 求む!魔術師たち!
「……魔術師たちをウチの領地に招き入れたらどうか?」
ほとんど飾り気のない、必要最小限の物しか置かれていない自分の執務室で、アーデルハイトは、エルネスティーネの言葉を繰り返した。
確かに、魔術師たちは法の国々、しかも”連合”が支配する国では徹底的に弾圧と迫害を受けている。
それは、ほとんどの彼らが魔力の原動力として混沌から魔力を引き出しているからである。混沌とは無限の魔力を引き出せる無尽蔵なエネルギーの宝庫である。
そこから上手く魔力を引き出せたのなら、例え大魔術であろうが軽々と何度でも使用する事ができる。
だが、言うまでもなく、混沌の力は非常に危険であり、引き出す事に慣れきってしまえば、肉体が変貌し、たちまち混沌の怪物へと変貌する。
魔術師たちは(エルネスティーネも)常にこの危険性と直面しているのである。
それとは反対に、法の力を引き出せ使用する魔術師たちはほとんど存在しない。
法は、自らに仕える戦士たちや神官たちのみに対して力を与えない。
法の力を扱えるのは、法を守護する法の戦士や神官たちのみ、というのが常識である。
天秤はさらに特殊であり、天秤から魔力を引き出す事のできる魔術師は基本的に存在しない。天秤は自分の意に従うと判断した魔術師のみに力を与えるのが基本である。
そのため、自分の研究や実験が大事な魔術師たちは、好き勝手ができない法や天秤に従う事は稀である。
最も、裏道もあることはある。
つまり、魔術を使用せずに、道具などを使用して様々な物質を作り出す者たち、錬金術師と呼ばれる者たちである。
当然、この世界でも錬金術師は金を錬成するという詐欺師集団、山師として扱われているのが一般的な風習ではあるが、そんな彼らがこの世界の技術的発達を促してきたのは事実である。
実際、エルネスティーネの使用している単発蒸留器も、錬金術師が開発した物である。当然の事ながら、錬金術師たちは蒸留のやり方にも長けている。
エルネスティーネからしてみれば、喉から手が出るほど欲しい存在である。
さらに、魔術師たちは、自分たちの知識を蓄えるために魔導書を書くため、大量の紙を必要とする。
本を普及させたいエルネスティーネにとっては、まさに喉から手が出るほど欲しい人材たちである。
だが、領地を運営するアーデルハイトはまた違った見解を持っていた。
アーデルハイトは、困ったように執務室の机をトントン、と指で叩きながら言葉を放つ。
「けどね、ティネ。魔術師というのは基本的に多かれ少なかれ混沌に関与しているわ。それゆえ、魔術師たちは一般市民から恐れられている。その中でも危険思想な領地に危害を加える魔術師もいるでしょう。
一般市民からの反感を買うのは領主として避けたいわ。」
それは領地を保つアーデルハイトからしたら当然だと言えた。
いかに役に立つとは言え、魔術師や錬金術師を大量に領地に入れるなど、一般市民からの反感を買うし、アーデルハイト自身も認められない。
世間一般からすれば、魔術師は混沌の力を振るう恐ろしい存在、錬金術師たちは胡散臭い山師たちに他ならない。
それは、魔術師たちの力を借りてスリヴァルディを作り上げているアーデルハイトもほぼ同じだった。
「けど、大姉様。戦闘用スリヴァルディが早期に実用化できたのは魔術師たちの功績でしょう?魔術師たちは、並べて攻撃魔術を纏めて使用すれば、銃の代用にもなるし、その中には錬金術師など様々な役に立つ物質を作成できる人間もいる。
それらの人間をただ混沌に属しているという理由で迫害するのは……。
これから、火薬の製造や、戦闘用スリヴァルディの量産体制に入るのに、魔術師たちは絶対に必要になりますし……。」
困ったように、自らの頬に手を当てるアーデルハイトに対して、エルネスティーネはここぞと言わんばかりに説得にかかる。
元々、蒸留や蒸留器は黄金へと変換するための錬金術から生み出された技術である。
当然、魔術師や錬金術師ならば使い慣れているのが普通である。
彼らを雇い入れる事ができたら、いちいちエルネスティーネが新物質を開発する必要もなくなり、さらに仕事に集中できる。
そもそも、彼女は本を世界に広めたいのであって、今の蒸留器に張り付いているだけの生活はまっぴらなのである。
困ったアーデルハイトは、頬に指を充てて考えた後で一つのアイデアを出す。
「うーん……。ならオーレリア様と一緒に一人一人魔術師たちを面接を行いましょうか。いかに魔術師とはいえど連続の”嘘探知(センス・ライ)””邪悪診断(センス・イービル””敵感知(センス・エネミー)”を潜り抜ける事は難しいでしょうし……。
その辺は、天秤の神官たちに任せましょうか。」
一般市民たちも、オーレリアとアーデルハイトのお墨付きの魔術師なら……。と敵意を和らげて受け入れる事に一定の理解を示してくれるはずだ。
それでも何かしでかす魔術師がいるのなら、辺境伯の名の元に排除するまでである。
そうアーデルハイトは決意していた。
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