第42話 戦闘用スリヴァルディ開発
スリヴァルディの試験運用も終え、無事に街へと帰ってきたエルネスティーネたち。混沌の神殿から採取した大量の土から硝酸カリウムを取り出したり、切り出した木々を水酸化ナトリウムで溶かしてバルブに変換したりやるべき事は山のようにある。
実際、どちらの作業もできる人材がエルネスティーネしかいないのだから、現状さっさと仕事に取り掛かりたいのだが、そんな中、エルネスティーネはアーデルハイトの執務室へと無理矢理連行される羽目になってしまっていた。
しかも、そこには神官長である灰色のローブを身に纏って悠然と立っているオーレリアも傍に控えている。
しかも、執務室の机の上にはスリヴァルディの図面が書かれた羊皮紙が書かれているのだから、当然の事ながら、実戦運用を行ったスリヴァルディの話であると理解はできるのだが、何故自分がここにいるのかエルネスティーネには理解できなかった。
「そもそもこのスリヴァルディの発案者は貴女でしょティネ。
発案者から意見を聞かなくてどうするの?」
「えぇ……。(困惑)」
彼女的には、何となくアイデアを言ってみただけなのに、いつの間にか発案者扱いされていて流石に困惑してしまう。
まあ、前世のワナビ時代に確かにロボット作品の知識はあるし、この世界には無いその概念が何らかの役に立つ可能性もある。
渋々ながら、エルネスティーネは執務室に留まる事になった。
まず最初に行われた事は、スリヴァルディのデータの洗い出しである。
実際に搭乗した騎士たちに直接話を聞いてみたり、設計・開発した魔術師たちから話を聞いたり、アーデルハイトたちが実際に目にした事を元にして現状の評価を出す。
その結果、抑制柱を運搬・立柱するのには十二分な性能を有していると判断された。ただ、目下の最大の問題点としては、やはり作り上げるコストである。
実質、アイアンゴーレムを一機組み立てるような物なのだ。大量の金属素材と予算がかかるのは当然である。
神殿もスリヴァルディ三機を作り上げるのに、非常に多大なコストがかかってしまったので、神殿としてはこれ以上作り上げる予定は存在しない。
問題は、アーデルハイトが作り上げようとしている戦闘用スリヴァルディである。
これは通常のスリヴァルディより、さらにコストがかかるのは目に見えている。
そこをどうするかが大きな問題であるが、それはとりあえず置いておいて、スリヴァルディを作業用から戦闘用に改造するのに必要な点の洗い出しを始めた。
スリヴァルディの試作案について真っ先に必要とされたのは、やはり搭乗者を攻撃から守る装甲である。
まず提案されたのは、胴体部を金属板で覆う改修案、つまり金属の箱に巨大な手足がついているという状態と言えば分かりやすいだろう。
この案の利点はまず手軽に改修でき、しかもコストが非常に安いという大きな利点がある。しかし、同時に大きな欠点もある。顔の部分である。
コストカットのため、一機一機に非常に高価な外部を投影する魔道装置をつけていく事など到底不可能である以上、やはり自分の目での目視が基本となる。
そうなれば、顔の部分だけ金属板を取り外さなければならなくなるが、それは当然の事ながら槍やら矢やら攻撃魔術のいい的になり、あまりに危険である。
第二の案としては、胴体、並びに顔の部分にプレートアーマーを流用するという案である。つまり、形状としては、フルプレートアーマーにさらに巨大な手足がついているという形と言えば分かりやすいだろう。
いかに流用すると言っても、元のプレートアーマーの値段が高いため、前の案よりコストはハネ上がる事は間違いない。
アーデルハイトの見た感じ、頭部を守るヘルム、胸部と背部を守るプレストプレート、腰部を守るフォールド、臀部を守るキューリットなどは流用できそうだ、と踏んでいる。(当然、これだけでも高価なのは言うまでもない)
だが、その分搭乗者の安全性もハネ上がる事になる。
視界性も、通常のヘルムを流用する予定であり、その中でもバケツ型ではなく、バシネットと呼ばれる嘴がついている形状のヘルムを使用する予定である。
パシネットは、口の部分が犬面(フントスカル)と呼ばれる鳥のくちばしのように円錐状になっており、これによって呼吸がしやすく、正面からの攻撃を弾き返しやすいという利点がある。
第三の案としては、第一と第二の中間案、つまり、胴体部が金属の箱にして、完全密閉型にして頭部であるバシネットを装備させるというアイデアである。
胴体部は胸部から上が開け閉めできるようになっており、そこから内部へと乗り込むような形になる。つまり、強化外骨格というより、かなり皆がイメージする『ロボット』のイメージに近くなる。
ただ、この最大の問題点は「視界」つまり視認性である。
この場合、スリヴァルディの胴体部が邪魔をして、自分自身の足元が見えない危険性出てきてしまう。そこに敵兵士に入り込まれてしまって攻撃を受ける可能性は十分にある。
ともあれ、どの案にもデメリットはある、という事である。この点は技術の進歩などで革新していく他はない。
さらに、腕には自由性を保ちながらも防御力を高めるため、前腕部にバックラーを装備させる予定である。
スリヴァルディの前腕部はおよそ20ミリほどの鉄板で構築されており、いかに火縄銃といえど、20ミリの鉄板は撃ち抜けないため、前腕部を盾代わりにガードしながら敵陣に突撃していく予定である。
火縄銃は、火薬の量などにもよるが、かのデザートイーグルよりもさらに運動エネルギー、貫通力は高い。その前には大抵のプレートアーマーは貫通可能である。
この普及により、重い金属鎧は廃れていくのだが、そんな火縄銃であっても限界はある。それを遥かに上回る分厚い鉄板は貫くことができないのである。
そのため、スリヴァルディを盾代わりにして敵陣に突っ込ませて戦列を崩すという、所謂戦車としての運用をこの戦闘用スリヴァルディは期待されているのである。
逆に、脚部の魔導機関のホイールはコストカットのためリミットされる予定である。
さらに作業用のスリヴァルディとパーツを共有させる事によって、コストを少しでも安くする予定……ではあるがやはり限界はある。
流石に2体や3体程度なら何とかなるが、それ以上となると辺境伯の経済力を以てしても厳しい物がある。
「問題は、予算ですわね。後は、資材、つまりは金属ですわ。」
そうここで一番の大敵、予算という敵が立ち向かってきたのである。
何せ言うなれば、簡易的なアイアンゴーレムを量産しようというのだ。
そこにプレートアーマー(一部とは言え)を量産するのだから、当然の事ながら非常に高いコストが必要になる。さらに、それらを生産するための大量の資材、金属も必要だ。さらに、スリヴァルディ専用の武装も開発する必要もある。
いかに大きな権限を委託されている辺境伯とは言え、予算には限界がある。
いざという時は、国王や王妃に相談して予算を借りるという手もあるが、それは流石に最終手段にしたい。
それだけの金属、素材と金をどこからか引っ張りだしてこなくてはいけないのだ。
「と、いう訳で何か手軽に金を稼げる手段はないものかしら?
貴女なら何かあるんじゃなくて?ティネ。」
「えぇ……。大姉様。私を何でも解決できる魔法使いとか思っていませんか……?」
「まあ、流石に今すぐ思いつけ、と言っているのではありませんわ。
何か思いついたら、で結構ですわ。」
流石に、今すぐ金儲けの手段を思いつけというのはアーデルハイトも無茶だと思ったのか、思いついた時でいいと発言する。
そんなに簡単に金儲けの手段が簡単に思いつくのなら誰も苦労はしていない。
そして、領主であるアーデルハイトは、金を集めるというのがいかに大変であるかもよく知っている。金を取るだけなら、領民からの税金を上げればいいだけだが、それは彼らの生活を苦しめるという事もよく知っているのだ。
と、なれば別に金を稼ぐ手段、領地での特産品か何かを開発するのが一番手っ取り早い手段である。
ともあれ、ただでさえ忙しいのに、さらに仕事を増やされて、エルネスティーネははあ、と重い溜息をついた。
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