第30話 何とか混沌領域より帰還です。


 何とかウォーワゴンにまでたどり着いたエルネスティーネたちは、慌ててウォーワゴンに乗り込んで、そのまま即時にウォーワゴンを走らせる。

 オドントティラヌスの死骸に貪りついていた混沌の怪物たちも、コアの混沌の魔力に引き寄せられたのか、次々とウォーワゴンへと迫りくる。

 混沌領域への大侵攻を行うため、その兵站などのために辺境域にも関わらず、ノイエテール国から混沌領域にまではきちんとした街道が引かれていた。

 もっとも、その街道ももう用なしとして、メンテする人もいなく朽ち果てていくだけだと思われていたが、その街道をウォーワゴンが駆け抜けていく。


 それでも速度が出せる怪物たちは未だしつこくウォーワゴンを追いかけてくる。


「ああもう、しつこい。これ貸して!」


 デルフィーヌは、ウォーワゴン内部にあるロングボウを手に取ると、揺れる馬車の中で次々と矢を射かけて怪物たちを貫いていく。

 元々、スカウトである彼女は弓の扱いにも慣れている。

 次々と百発百中の腕前と言ってもいいほどの命中精度を誇っている。


「メイド!アンタはクロスボウの矢の充填!リューディアは、牽制でもいいからクロスボウ撃って!お嬢!私たちが時間稼ぐから後は何とかして!」


「了解しました。」


「ええ~。自信ありませんねぇ……。」


 そういいつつも、二人ともデルフィーヌの言う通りにテキパキと動く。

 エーファはクロスボウ用のウィンドラスというクロスボウ後部に装備できる両手回し式のハンドルを取り付け、クロスボウの先端を足で踏むと滑車の原理で弦を巻き上げて矢の装填を行う。

 激しく揺れる馬車の中で慣れない器具を使うのは大変ではあるが、そんな事を言っていられる状況ではない。

 ウィンドラス・クロスボウは強力ではあるが、巻き上げる時にあまりに無防備になってしまうのが欠点だが、ウォーワゴンに乗っている現状ではその問題は問題にはならない。

 エーファがハンドルでクロスボウの弦を巻き上げて矢を装填、そしてそれをリューディアが射撃する。

 元々、クロスボウは弓のような長期間の訓練は不要であり、素人でも強力な射手になれるのが強みである。射線も直線状であり、狙いを定めてトリガーを引くだけで誰でも射手になれる。

 他の神官たちも、次々とクロスボウに矢を充填して撃っていくが、それでも怪物たちは大量のためと、激しく揺れる馬車の振動のために外れてしまう事も多い。


 その間に、エルネスティーネは、馬車の中にあった鍋に目をつけて、その中におよそ十個の石を入れてその石に次々とルーンを刻み込んでいく。

 刻んでいくルーンは全て炎を象徴するケンのルーン。

 これを石に刻み込んで時間をセッティングする事によって、いうなれば手榴弾へと変貌する事になる。

 そして、ケンのルーンを刻み込んだ石を詰めた鍋を、ウォーワゴンから後ろへと勢い良く投げ捨てる。

 投げ捨てられた鍋は鈍い金属音と共に地面に当たり、その反動で中に詰め込まれていた石を縦横無尽にバラ巻く。そして、次の瞬間、ルーンに刻まれた魔術式が発動。

 魔物たちの群れの前に散らばった石は、次々と凄まじい勢いで爆発していく。


 爆発、爆発、爆発。


 一瞬のうちに爆発の花が咲き乱れる地獄の業火へと変貌したその場所は、それはまさに、地雷か手榴弾もかくや、という威力である。

 爆風だけでなく、高速で飛び散った破片も、強靭な魔物の皮膚を引き裂き、致命傷を与えるのに十分な威力を誇る。

 そんな威力を持ったルーンストーンがほぼ真横一列に一度に十個も同時起爆したのだ。怪物たちの死体、足などが爆破に巻き込まれて身動きが取れない怪物、傷だらけの怪物たちなどで、道は埋め尽くされ、後部の魔物たちは足止めを食らい、身動きが取れない状態になっている。

 街道も当然の事ながら被害を食らっており、街道が横一列に吹き飛ばされた形になってしまった。


 元々、この混沌領域に通じる街道は、大侵攻のための補給路として作られた道である。大侵攻によって魔神(アルコーン)たちが滅び、混沌の力が大きく減少した現在では、廃棄されるだけの道であり、整備もほとんどされていない。

 それでも存在しているのは、混沌領域には豊富な資源が山と存在しており、その資源の発見、回収のために荷馬車などが必要だからである。

 その道の一部を吹き飛ばしたとなれば、大姉様からお説教を受けるだろうが、ここで自分や仲間、オーレリアたちが死んでしまっては元も子もない。

 オーレリアたちも弁護してくれるはず、という判断の元行ったのである。

 その吹き飛ばれた魔物たちの死体は足止めになり、後方の魔物たちの侵攻は極端に遅くなる。


「よし!今です!全速前進!!」


 それを好機と見たオーレリアは、御者である神官に命じ、馬を全力で走らせる。

 それにより、みるみるうちに魔物たちの群れとの距離は離されていく。

 こうして、彼女たちは何とか危機を乗り越えたのである。


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