第23話 (12/10更新)何としてものし上がる!それがアタシよ!見てなさい!

「だから!私たちは何もしてないってーの!無罪よ無罪!冤罪よ!

 この国の奴らは何もしてない人間を処刑するの!?

 きちんと調べてもらえば何もしてないって分かるって!!

 情報も全部吐いた人間を処刑なんて野蛮すぎるわよ!!」


「ふぇ~ん。短い人生でしたぁ……。」


 あのまま地上に出たユイカとエレボスは、ためらう事無く中立神の神殿に逃げ込んで、情報を全部中立神の神官たちにブチまけた。

 そのあまりの情報に驚いた神官たちは、嘘探知や敵感知などの魔術を用いてそれを確かめたが,全て真実であると判断。

 手に余ると考えた彼らは、神官長であるオーレリアと辺境伯であるアーデルハイトに至急連絡したのである。


「……という訳なのですが、どうしましょうか。

 アーデルハイト様もご存じだとは思いますが、本当に調べても何もしていなかったようで……。彼女たちの証言によって混沌過激派の拠点を暴けたのも事実。

 そんな彼女を処罰するのは流石にちょっと……。」


 この街の地下に、混沌過激派が潜んでいるという重要な情報に慌てて駆け付けたオーレリアとアーデルハイトは、直接彼女たちを尋問。

 彼女たちの言っている事は嘘ではないと判断した。

 しかし、ここで問題になるのは彼女たちの処分である。

 流石に何もしていない者たちを混沌に属するからと言っていきなり処刑するわけにはいかない。


「うーん……。とりあえず、監視をつけて保護観察、という事でいかがですか?

 しばらく様子を見て、大丈夫そうなら監視下の元、暮らさせるという事で……。」


 流石に名目上は法と混沌のバランスを保つ天秤の国、という事で、単に混沌に属しているからと言って何もしていない人間を即処刑という訳にはいかない。

 混沌は、人間たちにとっては危険な存在ではあるが、世界の維持のためにも必要だとアーデルハイトたちは知っているのだ。

 こちらに危害を及ぼす可能性が少ない穏健派ならば、置いておいてもいいのではないか、というアーデルハイトとオーレリアの共通した判断である。


「それに、彼女たちの話によると、秩序過激派たちの強硬なやり方によって、自由を求めて混沌を信仰する人々はどんどん数を増しているとの事。

 そして、そうした穏健派の人々が次々と過激派に取り込まれていく。

 これはこの領地の守護を担う私にとっては見過ごす事のできない重大な事態ですわ。」


「追いつめて過激派を増やすよりも、穏健派を増やしてこちらにとって無害な存在でいてくれた方が遥かにマシ、と。確かにそちらの方がこちらにとってもありがたいですが……。そういえば、ケイオス・カルトの検挙の方は?」


「検挙は行いました。最も、トカゲの尻尾切りで中枢部は逃げられましたが……。

 半怪物と化した人間たちはもう救う手はなかったので、もう命を奪うしかありませんでしたが……。過激派があれほどおぞましい存在だとは……。何としても過激派どもを根こそぎにしませんとですわ。」


 検挙するためにケイオス・カルトの拠点に急行したアーデルハイトたちだったが、過激派たちは混沌を体内に打ち込まれ、半分怪物化した中毒者たちを狂暴化させて暴れさせ、その隙に中枢部は脱出していずこかへと逃れていった。

 体内に混沌を打ち込まれ、怪物と化した人間たちを救う事は不可能である。

 説得も捕らえる事もできず、無差別に暴れ回る彼らは、もはや混沌の怪物と判断され処断するしか方法はなかった。

 そして、拠点の惨状から知る事になった過激派の悪辣なやり方を断固として許すわけにはいかない。


「溢れだした混沌の処分はこちらで行っておきます。まさか街の地下で混沌を作り出すとは……。恐るべき奴らですね。」


 アーデルハイトの表情も暗いものがある。

 あんなおぞましい、人の命を何ともおもっていないカルト集団が地下に蔓延っていたなどという事は、治安を預かる彼女にとっても見過ごせない事態である。

 混沌を打ち込まれ、半怪物と化した人間たちは全て命を絶つしか対応のしようがなかった。そのやり方は、まさしくカルト教団そのものである。


「あの……。ところで、どうして私が?」


「あの子がいうには、何でもニホン?という所から時空を超えてきたらしいですわ。

 ティネも魔術の知識があるのだから、何か知らないかと思いまして。」


 その瞬間、エルネスティーネの脳裏に衝撃が走った。

 日本。現代日本から流れてきた人間。

 事実上、たった一人きりで孤独な自分に対して、故郷を知る人間がもう一人存在するのだ。そんなの合わないという選択肢がなかった。


「あ、会います!会わせてください!!」


「取り調べ中の人間に一般人を会わせるのはよくないのですが……。

 まあ特別という事でですわ。」


 その必死のエルネスティーネの願いに、アーデルハイトも許可を出し、エルネスティーネはユイカたちが取り調べを受けている部屋に恐る恐る入り込むと、ユイカに向けて言葉を放つ。


「あ、あの……。貴女、日本人ですよね。」


 そのエルネスティーネの言葉に、ユイカははっと顔を上げる。

 この異世界で日本人という言葉を放つという事は、間違いなく相手も日本人(もしくは転生者)だとユイカは踏んだのである。


「アンタ……。日本人ね。というか元日本人よね?異世界転生ってヤツ?

 アンタ、アタシを助けなさい!っていうか助けてくださいお願いします!

 同じ日本人でしょ!アタシを切り捨てたらアンタの夢見に出てやるわよ!!」


 そんな風にガンガンと来るユイカに対してエルネスティーネは、まあまあ、と落ち着かせる。しかし、ユイカにとってみれば目の前に垂れたまさに救いの糸なのだ。

 これに必死で縋り付くのは当然だろう。

 ともあれ、エルネスティーネはユイカたちにアーデルハイトたちの決定について伝える。つまり、保護観察処分。監視は付くが、処刑もなしで衣食住は保証する、という決定である。


 それを聞いて、ユイカもエレボスも安堵のあまり床に倒れ伏す。

 最悪、このまま処刑も覚悟していたのだ。

 命も救われて衣食住もつくとなれば、泣き出すのも当然だろう。


「あ……。ありがとう……。ありがとう……!

 アタシ、アンタの事崇め奉るわ……!神って呼んでいい……!?」


「ふぇ~ん。よかったですぅ……。」


 思わず泣きだす二人に対してエルネスティーネは困惑しながらも二人を落ち着かせる。確かに、エルネスティーネは辺境伯の三女という恵まれた転生だったが、ユイカは身一つでこの世界に放り込まれ、しかも下手すれば処刑されるかもしれない状況だったのだ。そこから救われたら感涙するのも当然である。


「お、落ち着いて……。ともあれ、貴女たちの処刑はありませんし、私がさせません。貴女たちの身の安全は、私と大姉様たちが保証します。監視はつきますが、この街で暮らしてもらいます。それでいいですか?」


 こくこくと頷く二人。危機的状況から安全を保障してもらって、思わず安堵した二人は落ち着くのにしばらくかかったが、ようやく落ち着いてエルネスティーネに疑問をぶつける。


「というか……元日本人で異世界転生という事は、アンタは死亡したって事でいいの?」


「そうですね……。元の私は死亡して、辺境伯の三女として生まれ変わったので、ユイカさんとは立場が違いますが……。」


 そう言って、エルネスティーネは自分の状況についてユイカに説明した。

 それを聞いたユイカは、自分との立場に違いに思わず激高してしまう。


「あーもう!なにこれ!辺境伯の家族で!?混沌の加護も受けてチート持ち!?

 アンタが主人公で私が脇役って訳!?なにそれ納得いかないんですけれど!!」


 先ほどと一変して、ユイカは思わず床を地団駄を踏んで悔しがる。

 確かに、自分もユイカの立場に立ってみれば同じ事を考えてしまう。

 同じ日本人なのに、一方は何のチートもなしで追われて、一方自分は辺境伯の身内で恵まれた環境では不幸を呪って仕方ない。

 だが、ユイカは悔しがっても呪うのではなく、あくまでも前向きである。


「このままタダじゃすまないわよ。アタシはね、何としてものし上がってやるわよ!

 生きてるのに何もしないなんてまっぴらなの!

 せっかく生きて、異世界に来たんだから一旗上げてやるのよ!

 何でもいいから成り上がって、この世界にアタシの名前を刻んでやるのよ!

 もう二度とワナビなんて言わせないんだから!」


 その溌剌とした生命力は、流石に混沌に見込まれた存在だけある。

 一度死亡したエルネスティーネにとっては、まるで太陽のように眩しい物だ。

 それに感銘を覚えたエルネスティーネは、自分の考えや状況について説明する。


「ハァ!?なにそれ!ラノベ作り!?そんな楽しそうな事私も混ぜなさいよ!

 っていうか混ぜろ!これはチャンスよ!アタシは、絶対それでのし上がってやるんだから!!」


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