第4話 開発しちゃった?
なめらかな背中を、指で撫でおろしていく。
「くすぐったい」
蓮が笑う。
俺の手は、蓮の双丘を撫でた。しつこく撫でまわした。
この奥に、どんな秘密が潜んでいるのだろう。
俺は、知りたかった。
蓮は、俺の意図を察したらしく、
「いいですよ。俺も興味あるんで」
と、なんでもなさそうに言った。
「やさしくしてくださいね、はじめて、だから」
蓮は小声で言った。
「うん」
と答えたものの、どう「やさしく」すればいいのだろう。こっちも初体験なのだ。
この行為についての知識といえば、そこは狭くて良く締まる、受け入れる側は相当に痛いらしい、といった程度のもの。
すさまじい苦痛、だったと思う。あまりに苦しそうな様子に、途中でやめようかと思ったくらい。だが、蓮は耐えてくれた。
蓮の痛みと引き換えに俺がもらった歓びは、たとえようもなくて、俺は思わず、
「ありがとう」
と蓮を抱きしめ、何度もキスをした。
一方、香織との交際は、順調だった。三度、食事をしたあと、ベッドイン。部屋にも遊びに来るようになった。
香織は料理上手だった。今は実家暮らしだが、学生時代は関西にいて、自炊の腕を上げたらしい。
「小さいキッチン」
一口コンロしか置けない狭いキッチンで、香織は器用に何品もおかずを作ってくれた。
プレセント、と、ネット通販で炊飯器を買って、部屋に届けてくれもした。自炊をほとんどしない俺は、自分の部屋で、炊き立てのご飯を食べられることに感激した。おかずも味噌汁も、全部おいしい。
結婚するなら、こんな女性がいいなあ。
家庭の平和は胃袋から、という、どこかの国のことわざが、ふっと頭に浮かんだ。
その週末は、香織が友人と旅行に出ていて、俺は予定がなかった。意識的に、香織が訪ねてこられない日を選んで、俺は蓮を呼んた。
「炊飯器、買ったんですか」
蓮が目ざとく見つけて、言った。
「いや、彼女が買ってくれた」
「そうですか」
うまくいってるんですね、と蓮は喜んでくれた。
ちょうどいい機会だと思い、俺は、
「それでさあ。これからは、おまえの部屋で会うようにしたいんだけど。いいかな」
「いいですよ。そうしましょう」
香織と蓮が、この部屋でばったり、は無いだろうが、用心するに越したことはない。
翌月、俺は。はじめて蓮の部屋に行った。
広くはないが、家具が少なくて、モノトーンでまとめた室内は、すっきりしていた。俺の汚部屋とは違って、きちんと片づけられ、掃除が行き届いている。
密会の場所が蓮の部屋に変わっても、俺たちの関係は続いた。
いいかげんに止めなくては、香織もいるのだし、と思いつつ、女とは違う歓びをくれる蓮を、俺は手放せないでいた。
全く、いい気なものだった。
香織とうまくいっている時は、楽しくデートを重ね、家庭の味を堪能した。
ちょっとしたケンカや感情の行き違いがあった時は、憂さ晴らしに蓮の部屋を訪ね、その肉体を、いいように扱う。
蓮から連絡してくることはなかった。言い寄る女は後を絶たないはずで、その対応に忙しいのだろう、と、俺は勝手に想像していた。
会うたびに、蓮はバックを許してくれた。
絶妙な締まりは禁断の蜜の味で、求めずにはいられなかった。
「あっ」
蓮が、せつなげな、甘い声をあげた。
蓮の反応は、明らかに以前とは、違っていた。痛みだけではない、不思議は感覚が芽生えたのだ。
「感じた?」
「うん」
蓮が、小さな声で、恥ずかしそうに答えた。
そっか、俺、蓮を「開発」しちゃったのか、と、つい頬がゆるんでしまう。
「もう一回、いい?」
俺は、完全に調子に乗っていた。
さらに1年が過ぎた。5月、俺は26歳。7月、蓮は24歳に。酔った勢いで始まった関係は、3年以上になる。
「なんで、こんなに続いた?」
香織が掃除してくれるお陰で、すっかり小ぎれいになった部屋を見回し、俺はつぶやいた。
何かが変わりそうな、予感した。
秋の日曜。夕食を食べながら、香織が切り出した。
「ケンちゃん。そろそろ、一緒にならない?」
「ん?」
結婚話を、香織が持ち出したのだ。
「子供を持つなら、早い方がいいと思うんだよね。30過ぎると子育て、しんどくなるって、先輩たちが言ってるの」
「そうだなあ」
香織は2歳上の、28歳。いますぐ結婚して子供ができたとしても30代、目前だ。公的機関に勤めているから産休などはしっかり取れるはず。
結婚はまだ先、と思っていたが、確かに、考えてもいい頃かもしれない。香織以外に、結婚相手は考えられなかった。下手に引き伸ばして、愛想を尽かされては困る。
香織はさらに続けた。両親はまだ50代で健康だ、孫の面倒もみてもらえる。子供ができても自分は仕事を続ける、家も買いましょう、なんて具体的な話をする。
「ごめん、先に言わせちゃって」
本当は、俺の方からプロポーズすべきだった。
だが、いまいち自分に自信がなく、給料も大したことないから、もう少し先、と思い込んでいた。
が、確かに、実家のバックアップがあれば、結婚生活も楽だろう。香織は経済観念もしっかりしているし。
俺は、香織の目を見て言った。
「結婚しよう、香織。俺、ご両親に挨拶に伺うよ」
都合のいい日を聞いておいて、と言うと、香織は心から喜んで、
「ありがとう、ケンちゃん。大好き!」
俺に抱きついてきた。
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