第3話 どうして、そこまでするんだ

 土曜の午後。蓮は、前と同じウィスキーを持って、俺の部屋にやってきた。

「遅くなったけど、誕生祝いです」

 5月の俺の誕生日を、覚えてくれていた。しかし、その後、蓮は就職が内定したのだし、こっちが祝う側だろう。

「いいよ。内定祝いもしなくちゃ、だし。松橋、誕生日は?」

「7月です」

「過ぎてんじゃん。2か月遅れだけど、何かプレゼント」

 2年続けて高級ウィスキーをもらうだけでは、と思ったが、

「一緒に飲んでくれるだけで、十分ですよ」

 蓮の言葉に、俺は、そうか、と納得してしまった。


 一番聞きたかったのは、なんといっても華音を振った話だ。

「なんで、ダメになったん?」

 俺は、ずばり訊いた。

「山縣さん。話が合わなかったですね」

 さらっと答える蓮。

「もっと楽しい人かと思っていたけど。退屈でした」

「退屈、かあ」

 モテる奴は、あんな美女でも、あっさり振って平気なんだ、と感心。


 俺たちは、ベッドの上に並んで腰かけていた。間に、グラスを置いたトレイを挟んで、だが。

「松橋は、どんな女なら満足すんだって、皆で言ってたんだ」

「正直、よくわかんないです」

「結婚したいとか、思わないの」

 蓮は笑って、

「まだ早いですよ。それに、うちの両親、離婚してるんで。ちょっと考えちゃいますね」

 表情を曇らせる蓮。

「だよな」

「先輩は、早く結婚しそう。娘が欲しいって言ってましたよね。その後、彼女は?」

 年明けに美穂とけんかして、それっきり。華音には鼻であしらわれ、夏のバイトで出会った子もダメだった。

 俺は正直に話し、ため息をついた。

「今年は3連敗だよ。ひどいもんだ」


「今後に期待、ですね」

 蓮の言葉に、そうだな、と応え、なんか甘えたい気分になり、

「なぐさめて」 

 と、蓮の肩に頭を乗せた。いつの間にか、二人の間のトレイは、消えていた。

 蓮は立ち上がり、俺の前に立ち膝をつくと、ズボンのボタンに手をかけた。白い指がジッパーを下ろしていくのを、茫然と見守る。


 口に含んだ白濁液を蓮はティッシュに出した。くしゃっと丸めたそれをゴミ箱に入れ、ユニットバスに向かう。トイレ、洗面所も一緒の狭い場所。口をゆすぎに行ったのだろう。


 なんで、あんなこと。

 俺は茫然としていた。

 なぐさめて、とは、頭をなでて、とか、肩を抱いてくれ、とか、その程度で。ムスコをどうこう、という意図はなかった。

 正直、気持ちよかった。女にしてもらうのと同じか、それ以上。テクがあるわけではないが、丁寧に、熱心に舌を使ってくれた。あの形のいい唇が俺のモノをくわえている、と思うだけで興奮した。


 戻ってくると、蓮は、俺に抱きついてきた。あとは春の夜と同じ展開。「1度きり」では終わらなかったのだ。



 年が明け、春から、俺は社会人になった。仕事は覚えることだらけで、一日があっという間に過ぎ、くたくたに疲れ果てて帰宅するとベッドに直行、気づけば朝。


 ゴールデンウィークは、1日だけ実家に帰った。地味に24歳を迎え、蓮からはお祝いメールが届いた。相変わらず彼女はいなかったが、まず仕事に慣れることが先決だ。

 残りの連休は、自分の部屋でのんびりした。よく寝て、疲れが取れてくると。蓮に会いたくなって、連絡した。


 明るいうちからカーテンを引き、ベッドになだれこむ。俺の下で、蓮の体がしなる。限界まで硬くなったものをこすり合わせ、それで足りなければ、蓮は俺のを口で愛してくれた。


 自分が同じことを望まれたら、応えられるだろうか。ちょっと勘弁してくれ、というのが本音だった。

 蓮のモノをさわり、手コキするくらいは、できる。いつも自分のに触っているし。だが、口に入れて、となると腰が引ける。


 蓮は何も言わず、黙々と奉仕してくれた。そんな蓮が、可愛くて仕方なかった。

 モテまくりの超イケメンが、俺の下で声をあげる。女には決して見せないかおを、俺だけが知っている、そんな歪んだ優越感があったのだ。



 また1年が過ぎ、蓮も社会人になった。勤め先はお堅い出版社。学術書を出しているそうだ。

 互いの誕生日を共に祝った。俺たちは、25歳と23歳になっていた。


 ある日、俺は裸のまま椅子に腰かけ、ベッドに横たわる蓮を見ていた。

 ワンラウンド終え、うっすら汗ばんだ肌。

 体毛は淡く、腋毛でさえ品がある。手も脚も、もちろん股間のシンボルも、形がよい。

 きれいなヤツってのは、顔だけでなく、全身がそうなんだ、と今更ながらに気づいた。


「そんなに見ないでください、恥ずかしい」

 蓮は身をよじって股間を隠し、うつぶせになった。お尻が、これまた美しいカーブを描いている。

「おまえが女だったらなあ」

 俺は、思わずつぶやいた。

「女だったら?」

 蓮が、いたずらっぽい目で、俺を見る。

「プロポーズしちゃうよ」

 蓮の顔に、ゆっくりと笑みが広がっていった。



 その年の秋、兄が結婚した。

 二次会で、俺は香織かおりという女性と知り合った。ふたつ年上で、花嫁の友人だった。特に美人ではないが、とても気さくで感じがよく、一緒にいてなごむタイプ。

 今後は長続きするといいな。

 近いうちに会おうと俺は香織に連絡し、快諾をもらっていた。



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