今日のノルマ達成です!
その後、耀たちは無事にもとの世界に戻ってきた。マキの悪夢の浄化は無事に完了し、店長から今日の分のお給料が手渡される。
「どうだった? 今日の悪夢は」
「めちゃくちゃ大変だったわ!」
のんびりした口調で尋ねてきた店長に、陸は前回同様に文句を言う。
「まあまあ、無事だったんだからいいじゃない。夢道具の使い方も、かなり慣れてきたみたいだしね」
「えっ! 店長、なんで知ってるんですか⁉」
「さぁ、なんででしょう」
店長はそうはぐらかしながら、ポケットから何かの券を取り出した。
「はい、これ君たちにあげる」
「なんですか、これ?」
耀たちは店長からもらった券をしげしげと眺めた。それは新しくできるラーメン屋の割引券で、なんとお店の看板メニューの味噌ラーメンが半額で食べられるというものだった。
「知り合いからもらったんだ。もしこのあと時間あるなら、みんなで行って来たら?」
「えっ! いいんですか! ありがとうございます!」
耀たちはそれをありがたく受け取った。
「それじゃあ、今日の仕事はおしまい! みんな、気をつけて帰ってね!」
鳩時計が六時を指したのを確認すると、店長は笑顔で耀たちを店の外まで送り出した。
「はぁ~、今日も大変だった…」
お店の前で、耀は大きなため息をついた。だが、やたら早く帰りたがる陸は、早速お店の自転車置き場へと急いだ。
「じゃあな。俺はもう帰る」
そして、すぐに手を振って帰ろうとする。だが、耀はそれを制した。
「待って! 時間あるなら、これからみんなでラーメン食べに行こうよ!」
「えっ!」
陸が心外だ、というように振り返る。
「それいいな。俺も腹減ったし行きたい」
「それに、このお店、意外とここから近いみたいですね」
仁も直生も意外と乗り気なようだ。だが、直生はすぐに顔をしかめた。
「でも、うちの母が、もう夕飯を作ってくれてるかもしれないし…」
「え~! そんなの、ラーメン食べた後、晩ごはんも食べれば問題ないじゃん! 俺たち、食べ盛りの男子高校生なんだからさぁ、それくらいペロリだって!」
耀は直生と肩を組み、「な‼ 一緒に行こ‼」と笑顔で圧をかけた。
「わかりました…なら僕も行きます…」
「やった! 俺、もうお腹ぺこぺこだわ~」
結局、耀に半ば強引に連れ去られるようにして、四人はその新しくできたラーメン屋へと向かった。陸が不機嫌そうに自転車を押し、三人に合わせて歩く。地理に強い直生が半券に書かれた地図を頼りに、道を案内した。
商店街を抜け、車通りの多い道路に出る。そして信号を何個か渡ったところで、耀たちはそろって「あ!」と声を上げた。
なんと、ラーメン屋がある通りが、マキの悪夢の世界に出てきた道路と全く同じだったのだ。日が沈みかけている山が遠くの方に見え、それをバックに緑色の歩道橋が建っている。それはさっき体験した世界と全く同じだった。
どうやら、ここがマキの悪夢のモデルの舞台だったらしい。
「あの場所って、こんな近くにあったんだ…」
耀はしばらく歩道橋を呆然と見つめた。だが、それよりも衝撃的な光景を目の当たりにし、三人に身振り手振りでそれを伝える。
「おい! あれ見ろって‼」
「あぁ? なんだよ」
「だから、あれ‼」
耀が指さす方を見て、三人はまたまた「あっ!」という顔をした。
息を合わせ、慌てて電柱の陰にみんなで隠れる。耀たちの近くを歩いていた歩行者が、四人のことを不思議そうに見て通り過ぎて行った。
歩道橋の上には、なんとマキとホノカが二人一緒にいた。間違いない、あの制服と髪型は、絶対に彼女たちだ。さっきまで一緒にいたので、二人の姿を見間違えるわけがなかった。
「そういえば、今日僕たちが行った悪夢って、昨日マキ先輩が見ていたものですよね?」
「ってことは、あの時言ってたみたいに、ちゃんと仲直りできたんだな」
「うん、そうみたい」
笑い合い、何やら楽しそうに話しながら歩いている二人を、耀たちは遠くからしばらく見つめた。マキは宣言通り、彼女ともとの関係を取り戻したのだ。
もしかしたらこの先、彼女たちはまたすれ違うことがあるかもしれない。悪夢を見てしまうほど、悩む日が来るかもしれない。それでも、彼女たちはきっと、これから先も友達でいるのだろうな、と耀は腑に落ちる思いがした。
一度壊れた友情は、さらに固い絆となってもう一度芽吹いた。人間はきっと、こうして何度でもやり直していけるんだ。
彼女たちのお互いを心から許しあった笑顔を見ていると、自然とそう思えた。
そして、やっぱりこの仕事っていいなとしみじみ思うのだった。
三人も、自分と同じようにどこかほっとした笑みを浮かべていた。きっとみんなも先輩のことが気がかりだったのだろう。全員、夕日が眩しくてもお構いなしで、彼女たちを見守っていた。
「さぁ、俺たちもこれから仲良くやろうって意味も込めて、早くラーメン食いに行こうぜ!」
「なんじゃそりゃ」
陸が訳がわからないとでも言いたげに、顔をしかめる。だが、耀はそんな彼に特に意味もなく笑顔を向けた。
(こいつらとも、これからすれ違うことがあってもやり直せる、そんな関係になれたらいいな)
耀はそんなことを思いながら、彼女たちから目を背け、ラーメン屋へと急いだ。
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