耀の気づき
「はぁ~、疲れた~」
耀は、自室のベッドにぼふっと倒れこんだ。
そして、今日あったことを思い出す。
カナトのホールからお店に戻ると、店長はえらく張り切って、耀たちにたくさんの料理振舞ってくれた。
カレーライスにオムライス、ミックスサンドにナポリタンと、店長は四人のテーブル席にがっつり系のメニューを次々と置いていき、食べ盛りの男子高校生四人でも食べきるのが大変なくらいだった。しかし、どれも昔懐かしい素朴な味でおいしかった。耀はあのお店が地元のお客さんで賑わっている理由がわかった気がした。
耀は枕元に置いていたスマホを取り出すと、画面を開いた。
無料通話チャットアプリであるレインを起動させ、新たな友だちに登録された文字を見てにやにやする。そこには、虎谷陸、京崎直生、桐生仁のそれぞれ下の名前があった。三人とは店長から出された料理を全部食べ切った後、連絡先を交換したのだ。
「あのさ、お前らのこと、下の名前で呼んでもいい?」と聞くと、三人は特に反抗することなく了承してくれた。(陸は少し嫌そうな顔をしていたが)。
耀は、友だちのことはできれば下の名前で呼びたい派だったので、心の中でガッツポーズをした。
スマホの画面を消し、仰向けになって天井を見る。
「昨日、今日と、本当にいろいろなことがあったなぁ…」
人間ではない店長、夢の世界、カナトの笑顔、新しい友達…。
今まで体験したこともないような未知の世界に突然踏み込むことになり、耀の心臓はトクトクと好奇心に速く波打っていた。
「あ」
そこで、耀は気がついた。
(俺、人生で初めてやりたいことができたかも…!)
まるで、長い間喉の奥に刺さっていた魚の小骨が取れたような感覚だった。
ずっと、やりたいことを見つけられない自分にもやもやしていた。
たくさんいる友人たちは、みんな何かしら好きなものを見つけているのに、自分だけは見つけられなくて、それが歯痒かった。
どうして、自分には何もやりたいことがないんだろう。そうやって悶々としていた。でも、その気持ちに自分で蓋をして、なかったことにしていた。
でも、そんな劣等感から今、ようやく解放された気がする。
やっと夢中になれそうなことを見つけることができたんだ。耀は自分の中に芽生えた気持ちを、大切に育てようと決めた。
そして、部活動届は出さないことを決意したのであった。
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