第10話 終焉の開始(※自虐表現注意)

「な………何を………言ってるんだっ!!

お前なんか…………ボクが書いてる物語ラノベの……登場人物キャラクターに過ぎないじゃないかっ!!

作者のボクに向かって、現実リアルを知らないだぁ?

ボ……ボクが構想して作り上げた世界が………妄想のゴミ以下だってぇ?

もし…………ボクのが妄想の塊でゴミ屑なんだとしたら…………その世界で生きてるお前は、ボクの妄想からり出された…………糞便クソみたいなモンじゃないのかよぉぉぉぉっ!!!」


 世界の何処かで『ドンッ』と云う轟音と、地響きが同時に発生し………愛鸞は蹌踉よろめきながらも、視線を一点に定めたまま鋭い視線で睨み付ける。


「あぁ…………確かにそうなんやろ。

オノレが妄想で創り上げた世界に生きて、オノレが考えた脚本シナリオ通りに動かされる運命しか持ち合わせとらん、俺らみたいな物語ライトノベル登場人物キャラクターなんか………正味の話で云うたら、オノレのり出したみたいなモンなんやろな……………。

そやけど………オノレは俺らみたいなにはとか、オノレの自慰行為オナンの罪みたいな薄らみっともない性癖を満足させる………人間を人間とも思わん所業を押し付けても構わへんとか、創作フィクションやから誰も傷付かへんとか…………ドタマの悪い勘違いをしとらへんか?

オノレが閉じた世界オフラインで自己満足するだけなんやったら、それはそれで仕方しゃあないことなんかも知れんけどな…………オノレは俺らを産み出して、この薄っぺらで、浅はかで、奥行きのない書き割りみたいな箱庭世界を………オノレと同じ現実に生きとる人間に垂れ流すことオンラインをしとるんやろ?

その時点でオノレには、俺らをどうやってって云う物語ライトノベルを、オノレの独りよがりだけやのうて………他の人間に見せるみたいなモンが付帯事項として存在しとるんやないか?」


 愛鸞の指摘に『グゥゥ』と唸り声を上げた人物は、興奮の余りに甲高く耳障りな声で反論し始める。


「そ………んなのっ!

たかが……虚構の世界ラノベで起きた………出来事フィクションの一つに過ぎないじゃあないかっ!

他の………転生チーレム無双だって……ざまぁ系だって……スローライフ物だって……学園ラブコメだって……どんなに売れ線の非現実物語ラノベの作者だって…………PL法製造者責任みたいなモノを負わされちゃ居ないじゃないかっ!

なんで………なんでボクだけが…………お前みたいな異世界転生して………神からチート武器まで貰って………後はハーレムを作って…………無双するだけの…………羨ましいヤツになじられなきゃならないんだよぉぉぉぉっ!

逆に………なんで……お前こそが…………ボクの世界で…………主人公メインキャラに選ばれたことを…………光栄に思ってくれないんだよぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 泣き言と繰り言………支離滅裂で我儘放題の叫び声に、愛鸞は首を軽く振りながら深い溜め息を吐いた。


「ハァ………………オノレの言い訳は………俺の娘……三歳児の駄々イヤイヤ以下やないか。

なんで………?

なんで…………お前が羨ましいと思っとる…………俺の現状について……と望んだと思うんや……………?

俺は……病気で苦しかろうが、治療やら手術で痩せようが、ハゲ散らかそうが、吐き散らかそうが………その現実から逃げたり眼をつぶったりせんと、妻と娘の傍で生きて生き抜くことを望んどったんや。

オノレが……孤独で、社会不適合者の烙印らくいんを押されて、チビで、デブで、不細工なオタク野郎やとしても…………生きて成し遂げたい目標だの、明日に起こる筈の楽しみだの………ほんの些細なことでもっちゅうモチベーションになり得るモノはあるんとちゃうんか?

それを拒否してでも……死んで転生したいんやったら、オノレだけが勝手に死んで…………転生しさらして…………チーレムでも、スローライフでも、ざまぁでも…………自助努力のない他力本願みたいなお話の世界ライトノベルの中でシコシコやっときゃエエんちゃうんか?

でもな………そのオノレの欲望も、目標も、報復も、一切合切がオノレの所有物であって………それを望んでへん他人を巻き込むなっちゅうこっちゃ。

その辺の想像力が欠如しとる時点で…………オノレには世界小説を創造する資格が無いんちゃうか?…………って俺は思うわ」


 愛鸞の指摘にワナワナと肩を震わせ、自称創作者はまだ持論を展開しようとする。


「お……お前に……ボ………ボクの………何が判る………って云うんだ…………?

ボクが生きてる………この…………現実世界リアルライフに、一体全体どんな………良いことがあるって………云うんだっ……………。

学生時代には『キモオタ』だの『カースト下位』だの云われ続けて………死んだ方がマシみたいなに遭って…………。

就職氷河期を乗り越えてやっと社会に出たら出たで………『ゴミ』だの『ポンコツ』だの『役立たず』だのって…………年下の上司からパワハラされて……………。

社会から逃げ出したドロップアウトしたら…………『自宅警備員』だの『引きこもりニート』だの『子供部屋おじさん』だのってレッテルを貼られて…………。

この「カケヨメ」で…………現実逃避ラノベ文学を書き続けることで…………やっと………やっと…………ボクの存在価値を…………ボクを馬鹿にし続けた社会に……………示して………作家として認められる場所までやって来れたんだっ……………!!

そんなボクの………ボクがボクで居られる大切な場所を…………どうしてお前みたいな…………ボクの創造した……………ただの登場人物キャラクターごときに…………全否定されて………馬鹿にされなきゃ………いけないんだよぅっ!!!

もう………お前みたいな生意気で……ボクの云うことも聞かないような…………邪魔者キャラクターなんて…………ボクの………大切な世界ラノベには必要ない…………。

お前も………お前の居る場所も…………みんなみんなしてやるよっ!!

お前なんて………お前みたいなヤツなんて…………消えちゃえば良いんだっ!!!」


 愛鸞の立つ世界に暗雲が垂れ込み始め、脚元は大きく揺らぎ………創造主が世界に介入し、一つの世界を消し去ろうとする気配がひしひしと伝わって来る。


「おい………オノレが今からやろうとしとることは………今までオノレがやられて来た事柄と全くおんなじことの意趣返しやないんか…………?

学生時代にオノレを虐めて死の一歩手前まで追い詰めた奴等と、社会に出たオノレを糞味噌に扱って働く意欲すら奪い去った奴等と、全てを投げ打って自分を守る為に自分の殻に閉じ籠ったオノレを馬鹿にした世間やマスコミ達と………オノレが今からやろうとしている、俺の存在を排除するっちゅう行為に…………そこに何か違う部分はあんのんか…………?

答えられるモンなら答えてみろやっ!!」


 崩壊しそうに揺らぐ世界と、創造主が存在している現実世界の間隙すきまから、小さく息を呑むような音が聞こえる。


「ハハハッ!

ここまでボクを小馬鹿にしていたクセに…………この後に及んで命乞いをするのかい?

もう………遅いんだよ………今更ボクに…………偉大な天才創造主たるこのボクに……………謝ったって…………お前のことなんか許してやるわけないだろうっ!!

これが………これが本当のって展開なんだよっ!!!」


 世界が崩壊寸前までに大きく揺らぎ、暗雲の向こうから全ての存在を呑み込み……覆い尽くすような虚無の暗黒が迫って来る最中、愛鸞は哀しげに……そして全てを諦めたような溜め息を一つ吐いた。


「オノレは………ホンマもんのダボくれやったんやな……………。

オイッ!

創造主やったら俺が佩いとるこの剣が………リオタジ・テイターがどないな剣か識っとるやろ?

これはなんや、オノレが描いたこの世界に存在しとるっちゅうことは…………オノレの現実世界リアルワールドにも同時に存在可能なんとちゃうか?

俺がオノレに引導を渡したるから、オノレがこれまで無意味に奪い去った…………数多の無辜の民の生命と、数多の踏み付けにされた無辜の民の人生を…………その腐れ切った性根と生命であがなったらんかいっ!!!」


 愛鸞は喉も裂けよとばかりに叫んで、リオタジ・テイターを思い切り虚空に向かって突き出した。

 その禍々しき漆黒の剣身ブレイドは、ヒルトのみを残して中空に吸い込まれるように消失した。

 そして…………愛鸞の眼前から消え去った、混沌の力を正義の法によって鍛えられし魔剣リオタジテイターは、創造主の操るノートPCの液晶画面モニターを突き破り…………自室で物語世界ライトノベルを支配していると勘違いしていた男の喉に深く、致命傷となり得る深さに突き刺さった。


 そして最後に激しい振動と何かが崩れ落ちる轟音…………それに闇よりも昏い暗黒の虚無に包まれ、創造の産物である世界を、怒れる愛鸞を、狂気に苛まれた少女を、死してたおれた者どもを引き摺り込むと…………全ての存在が世界から解放され、同時に全ての存在が世界から隔離されたのだった。



【第10話 終焉の開始:完】



_________________



「おぉ………成し遂げた…………個体名アラン・ウグモリが…………彼の者の使命を成し遂げ…………創造主をしいし…………我々……………ことわりの宿願を………果たしおおせたぞ……………おぉ………………」


 時間も空間も存在せず、神すらも其処には存在せぬ白き虚無の中…………何者かの声が、歓喜に覆われたような声が聞こえて来た。

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