第9話 虐殺の狂宴(※ゴア表現注意)

 豚面なりの微笑みを貼り付けたまま、豚人の隊長オーク・リーダーの頸部に一条ひとすじの赤黒い線が浮かび上がる。

 その赫い筋はパックリと範囲を拡げながら、高い位置より低い位置へと擦れ動き始める。

 そして豚人の隊長オーク・リーダーの笑顔が変転し、キョトンとした疑問符を頭上に浮かべたような表情となった瞬間に……豚面を載せた頸部は地面にベシャリと水分過多な音を立てて血塗れで落下した。

 そう……恐らくはRiot agitatorリオタジ・テイターの鋭いにも程がある斬れ味に、自身の頸部が切断されたことに気付かぬまま、視界が擦れて動き出した時に『何が起きているのだ?』と感じた瞬間に絶命していたのであろう。


 豚人の隊長オーク・リーダーを突然喪った、残る三人の豚人の兵士オーク・ソルジャー達は口々に愛鸞の方を向いて罵り出す。


『オ前……隊長リーダーハ、オマ前ニ礼ヲ言オウトシテタダケジャネェカッ!!』


『オレ達ガ何ヲ……オ前ニ何ヲシタッテンダヨッ!?』


隊長リーダーノ仇ダッ!!

ナマスニ刻ンデヤルヨッ!!!』


 三人の豚人の兵士オーク・ソルジャー達は、銘々めいめいの得物である粗末な棍棒クラブや、錆びた小剣ショートソード、それに手造り感が満載の石斧ストーンアクスを握り締めて……ジリジリと愛鸞に向かってにじり寄る。


「いや……ちょっと待って!

あの……この剣がね……勝手にやったことで………俺の意思で君達の隊長リーダーさんをった訳やないねんて………って云うても無駄………なんやろねぇ……やっぱり。

何や……この展開は……完全に俺が悪の権化みたいな扱いになるやん………。

これがRiot agitatorリオタジ・テイターのハイリスクな部分なんやな、流石は……『暴動をRiot煽動する者』Agitatorの二つ名を持つ魔剣や………物騒にも程があるっちゅうねん。

見てみぃ……助けてやったお嬢ちゃんですら、この惨劇ゴア映像の連続にドン引きしてしもとるやんか」


 言い訳に始まり、自身の相棒である強力な宝具アイテムの分析、そして常に豚野郎オークの返り血を浴び続ける少女の観察までを一息に言い終えた愛鸞であったが……彼には時を止める能力タイムストッパーなど付与されていなかったので、喋っている間も三匹の豚人の兵士オーク・ソルジャーは武器を構えて近寄って来ている。


「アカンて……君ら……… Riotagitatorリオタジ・テイターの間合いに入ってしもたら………まだ古代魔道ルーン文字は赤いままやねんから………」


 そう云って三匹の子分豚オークソルジャー達を制止しようとした愛鸞であったが、その言葉を話し終える前に…… Riotagitatorリオタジ・テイター自動迎撃オートマーダーモードは動作し始めていた。


 横並びで立っていた豚人オークの内、一番手近にいた左端に居た錆びた小剣を構えた者からRiotagitatorリオタジ・テイターの指揮による死の舞踏Danse macabreを踊る羽目になった。

 無造作に突き出された漆黒の切先ポイントは縦向きでズブリと一匹目の豚オークソルジャー1鳩尾みぞおちに吸い込まれる。

 そのまま上方向に振り上げられたRiotagitatorリオタジ・テイターは、何の抵抗も感じさせぬ斬れ味で……肋骨から頭蓋骨までに収まっている臓物を全てと、骨格の全てをスパンと斬り裂いた。


 一頭の豚オークソルジャー1が躰の中心線から左右に別たれながら、切れ目に向かって血潮と臓物を打ち撒けるのを尻目に、Riotagitatorリオタジ・テイターの黒き牙は二頭目の豚オークソルジャー2の調理に取り掛かる。

 最初の一撃で振り上げられたRiotagitatorリオタジ・テイターの剣身を、効率的かつ合理的に二匹目の豚オークソルジャー2の頭上から振り下ろす。

 頭頂部から狙って振り下ろされた刃先カッティングエッジであったが、こちらも握った石斧を振りかぶろうとしていた為……少しだけ擦れて右の頸動脈を縦に割くように進入した。

 強い血圧に押された動脈血は、噴水のようにビュルビュルと噴き上がり……一瞬の内に二人目の豚オークソルジャー2の意識と生命を刈り取った。

 しかしてRiotagitatorリオタジ・テイターの軌跡は対象の生命と思考を停止させたのみでは止められもせず、そのままの勢いで上半身を斜めに縦断し……股間のど真ん中の付近で二番目の豚オークソルジャー2を分断してしまった。

 上から下に縦割りされた豚であった肉塊オークソルジャー2は、ドロドロの血糊ちのりと内臓の残骸を振り撒きながら……断面を上に向けて左右に開きながら倒れ伏した。


 一瞬の内に二頭の朋輩を奪われた格好の孤独な豚オークソルジャー3は、両腕で抱えていた木製の棍棒ウッドクラブを震える両手から取り落とすと……きびすを返して逃げ去ろうとした。

 しかしながら怯懦きょうだによる逃走など、Riotagitatorリオタジ・テイター追尾機構ホーミングシステムを忌避できるものではなかった。

 走り去ろうとする怯え切った豚オークソルジャー3の背に向かって、Riotagitatorリオタジ・テイターは横薙ぎに黒刃を振るった。

 艶のない絹めいた黒色シルキーブラック剣身ブレイドが、三頭目の生贄オークソルジャー3の右腰に差し込まれる。

 そのまま真横に刃が滑り、逃走する豚オークソルジャー3を腰で上半身と下半身に斬り割った。

 皮膚も筋肉も脂肪も内臓も脊椎も……全ての部位を無慈悲にかつ公正に、何の意思も感じさせぬ無関心さを同居させて寸断せしめたのだ。

 逃げの一手を打っていた最後の豚オークソルジャー3は、下半身だけが数メートル先まで走ってから横倒しとなり……斬り離された上半身だけが垂直に地面へと落下した。


 そして……転倒した三番目の豚野郎オークソルジャー3の下半身は、その断面を顔面蒼白でへたり込んだ少女に向けて倒れていた。

 数瞬後にその断面から、血と腸が入り混じった内容物が少女に向かって噴き出した。

 その血の深紅に染まった様々な汚穢おわいが、少女の頬に飛散した瞬間とき……少女の精神の深い部分で何かがと切れた音がした。


 顔面から鼻水と涙とよだれと下半身からは小便を垂れ流しながら、少女はけたたましくも激しく興奮しながらヒステリックに哄笑し始めるのだった。


「ヒィィーッ!

イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィッ!!

アハハハハハハハッハアァッハハハハハハァッ!!!」


 惨劇の一瞬の後に訪れた、鮮血と臓物と汚物と屍者の残骸に塗れた静寂の中で………少女の笑い声だけが密林の中で響き渡る。


 愛鸞が視線を下に落とすと、右掌にしっかりと握られたままのRiotagitatorリオタジ・テイター………その中央に刻まれた古代魔道ルーン文字は、静かにその色を青白く変じていたのだった。



【第9話 虐殺の狂宴:完】



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「お………おか……しいよ………こ……んなこと……………。

雑魚の豚軍団オーク共なんて……… チート武器の……… Riotagitatorリオタジ・テイターであっさり一掃して…………美少女と主人公は……………恋に……落ちて……………ハーレム展開が…………始まる筈…………だったんだよぅ……………。

ボクの……天才たる…………ボクの構想では………………美少女が………こ……んなことに……………なる予定なんかじゃ……………なかったんだよぉぉぉぉぉ…………………」


 狼狽うろたえて、泣き言を漏らす不快な声の調子に………愛鸞は殺戮した哀れな豚オーク達の返り血に塗れた凄惨な顔を苦々しく歪め、そして心の底から忌々しそうな表情を浮かべ…………その視線を声の主の方に定めて、吐き捨てるように呟いた。


「現実の……痛みも…………死に相対した人間の………途轍もない苦しみも…………殺し……殺される………生命の遣り取りで感じる恐怖も…………死の間際に…………生き物が見せる醜悪な汚らしさも………………想像することすら出来へんボクちんよ…………。

オノレが妄想で作り上げた世界なんか…………現実リアルの地に足を…………踏ん張って……生き延びようとしとる生き物の汚らしい………美しさに比べたら………何の価値もない………でしかあらへんのじゃ………………」

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