第11話 誕生の終幕

 其処は光すら差し込まぬ黒き大空か、それとも何一つ色の存在しない白き闇か…………どちらでも在るがどちらでも在り得ない時間と空間の間隙すきまに位置する、ことわりの管理者が独りで、全員で、単数で、複数で生誕し、死を迎えては潜み棲む場所。


 平素であれば世界の管理者で在らねばならぬことわり達が、各次元、各並行世界、そして各国々から各個人までを観て、聴いて、導くことに忙殺されるが故に………この棲家はおよそ顧みられることなく放置され、遺棄され、捨て置かれるべき場所であった。


 しかしながらとある創造主が討ち取られしいされた事案の発生により、数日ぶりに、数億年ぶりに様々な種類のことわり達がを果たしていたのだった。


原理Principleよ……如何にして汝は悪質で獰猛なる創造主を排除することをなし得たのだ?

それも我々の内、幾人ものことわりを同時に内包している世界群を……劣悪なる環境へと追いやり、粗悪な模倣コピーにて同様の世界を乱立せしめていた悪名高きあの創造主をだ。

安全地帯へと閉じこもり、汝の敷いた数々の封殺に至る罠ブービートラップを躱し続けて来た創造主であったと云うのに」


 ほとほと感じ入ったような声音で、原理Principleの真横に立つ合理Reasonableが………隣接する世界において、拡大し続ける汚染に悩まされて来た被害の同盟者であることわりの管理者を代表して原理Principleに問うた。


「我の許へと個体名アラン・ウグモリの存在を転籍させた、摂理Providenceの功績が全てであろうさ。

彼の禁忌に触れし者が遷移せねば、死に対する怒りを原動力とする者でなければ……我の管理する世界の全てに存在し得る唯一のくさび、混沌を法にて鍛えしモノ………闇にのみ輝く剣を附与することなど叶わなかったであろうからな」


 少し離れた位置では名指しされた摂理Providenceが、無言ではあったものの…………満足げに頷く気配が察せられる。


「して原理Principleへ再度の問い掛けを赦せ、彼の創造主は世界の創設には長けておった筈だ。

個体名アラン・ウグモリが手を下し創造主を屠り去ったことにより……一時的に、永久とこしえに、彼の創造主が構築した世界群はことわりの管理下より消失し、無数の世界と無数の生態系、単数の世界に単数の生態系、広く遍く公正なる死を以って…………無自覚な創造主と無自覚な暗殺者の手により、出来不出来クオリティの問題ではなくありとあらゆる存在モノ殲滅ジェノサイドされ絶滅の道を歩んでしまっただろう。

その数量を、汝は掴んでおるのか?

それに……我も我々もことわりの管理者であれば観て、聴いて、感じておったのだが、個体名アラン・ウグモリの魂に刻み込まれて………引き剥がしようのなかった摂理Providenceの世界で犯した禁忌の源である二つの魂も、彼の創造主の死に係る世界の消失に伴い喪われた筈だ。

個体名アラン・ウグモリは、個体名ユリコ・ウグモリ及び個体名モモコ・ウグモリまでを自らの手で殲滅ジェノサイドの渦へと巻き込んでしまった事実に気付いておったのか?

汝、原理Principleよ……我々と我をことわりの管理者と管理者群を、膨張し続ける彼の創造主の唾棄すべき世界から世界群から………避難するに至った原因であり結果である個体名アラン・ウグモリに対し、その所業は些か………我々が我が、世界の世界群の管理者であるだけの存在であったとて、無慈悲に無情に非道な行いとは云えぬか?」


 ことわりの中で最も世界に寄り添う立ち位置を貫く情理Emotionが、問うた内容は……鵜久森愛鸞の転籍に係る最重要項目の結末についてであった。


「其は……世界の、世界群の喪われし数と、それに伴う生けとし生きる者の数的損害について述べることとした方が良かろう。

彼の創造主が創立し、その野放図な成立要件を満たした世界数は………未成立のものまでを含めると228世界となっている。

そして……その世界群において、知能を有し各単体の世界を構成していた、有機無機を含めた生命体の員数は……およそ200億単位に上ろう。

恐るべき能力ちからを秘めし魔剣を用いたとは云え、結果論ではあるが一振りで甚大な被害をもたらした大量虐殺を行った者ジェノサイダーを稀代の悪人とみるか、救世の英雄とみるかは…………世界の管理者として遺されし我々ことわりの判断に委ねられるのだろう。

しかして我々は……我だけは個体名アラン・ウグモリの再転籍を認可せんとする。

そして……個体名アラン・ウグモリの当初要望の通り、個体名ユリコ・ウグモリ及び個体名モモコ・ウグモリについても転籍を認可し…………個体名アラン・ウグモリと同一の世界において、創造主の消失が最後に影響する場所にて最終最後まで終わり逝くことわりの世を生き抜く宿命さだめを与えん。

当該の結論については摂理Providenceの容認することである旨、我々ことわりの情報共有を依頼する」


 原理Principleの宣言を聴いていた義理Honorは、その発言の真意を問うた。


原理Principleよ、我々の意図する所も汝と同義ではあるのだが……滅び逝く世界において最終最後まで生き残る者は、その意識に絶望のみを漂わせるのではないか?

我々ことわりを救った救世の英雄に対する処遇としては、些か非業が過ぎるのではないだろうか」


 義理Honor の質問に対しても原理Principleは、即答とも云える早さで回答を寄越す。


「いや……個体名アラン・ウグモリ、個体名ユリコ・ウグモリ、そして個体名モモコ・ウグモリについては…………生命体への再転籍に非ず。

三体の意識は既に再転籍先において、個としては喪われているのだ。

ここに集いし全てのことわりよ、天空そらに輝く星々を見上げるが良い。

あの参宿しんしゅくこそが、三体の再転籍後の姿である。

彼らはあの連なりし恒星ほしとなり、この世界が世界群が消え逝く最期の瞬間ときまで…………光を放ち彼らにとっての永劫とも形容可能な時間ときを共に過ごすことだろう」

 

そして………原理Principleが、摂理Providenceが、空理Abstract theoryが、義理Honorが、公理Axiomが、合理Reasonableが、実理Practicalが、常理Common senseが、情理Emotionが、真理Truthが揃って見上げる天空そらの彼方にはひっそりと輝く三連の恒星オリオンの腰帯が瞬いているのであった。



【第11話 誕生の終幕:完】



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〜『カケヨメ』編集部より連載終了のお知らせ〜


 読者の皆様には平素より「カケヨメ」をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。


 さて当サイトにて大好評連載中でした澤井田圭壱先生の『非業の死を遂げ転生した俺が異世界の神にサルベージされ最凶武器を操る天下無双の魔剣士となり殲滅覇王の二つ名を得た話〜No Gore No Life〜』でございますが、先日20××年×月×日に澤井田圭壱先生が急逝されたため、前回掲載分をもちまして連載終了とさせていただきます。


 澤井田圭壱先生のご冥福をお祈りいたしますと共に、永らくのご愛読に感謝いたします。


 さて次回より連載いたします、野澤田慶弐先生の新連載『S級パーティに追放された超絶技巧の整体スキルを持つ僕が辺境の大森林を領有しハーレム&スローライフを満喫する話〜戻って来てくれと土下座されたって今の生活が最高に心地良いので既読スルーしてやる〜』を開始いたしますので、変わらぬご愛顧を賜りますよう宜しくお願いいたします。


20××年×月×日


   「カケヨメ」編集部



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【あとがき】


 最終話までお付き合い戴きました皆様、こんにちは澤田啓でございます。


 皆様方におかれましては『非業の〜(以下略)』をお読み取り戴き、まことにありがとうございます。


 拙作についてですが、本来は別の連載中の短編集にて掲載する予定でありました。

 しかしながら『作中人物に殺害された作家の死に伴い、現実世界と物語世界が崩壊してしまうお話』と云うプロットに、現行のweb小説サイトの流行り廃りを組み込まんとした為……短編のボリュームに収まりきらない内容となり、別途連載作品として啓上いたしました。

 この作品を執筆するにあたり、参考文献とさせて戴きました創作論を下記にご紹介し、創作論の作者様方への感謝を申し上げたいと思います。


 なお……創作論の内容につきましては、ご自身の眼でご確認を戴き、その文面に書かれている作者様方の想いをお汲み取り戴ければと考えております。


※リンクは貼りませんので、興味のある方は検索しご訪問ください。



斑猫 様

『斑猫の創作みちしるべ』


沙波羅 或珂 様

『【ライトノベルによくあるパターン】(激毒注意!!)』


外訪楠 様

『特に注目もされないカクヨム作家が、真剣に現状を調査した件について』


聖竜の介 様

『脱落小説書きのゆるーい創作与太話』


※紹介順は私が読み始めた順序となっております。



2021.6.22

   澤田啓 拝

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非業の死を遂げ転生した俺が異世界の神にサルベージされ最凶武器を操る天下無双の魔剣士となり殲滅覇王の二つ名を得た話〜No Gore No Life〜 澤田啓 @Kei_Sawada4247

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