第7話 最初の戦闘
臨戦態勢に入り
先刻までその剣身を収めていた、光すらも吸い込まんとする漆黒の鞘……その棲家から抜き放たれた剣自体もまた混じり気のない、いや……この世界にある総ての色を混ぜ込んだかのような、混沌をこの世に具現化したとも形容できる黒一色の姿であった。
その禍々しくも黒い剣身の中で唯一の、黒を否定する部位はその
「何や……この剣は…………敵を前にして抜いただけやのに、それだけの事で
剣道の心得も、西洋剣を用いた武術にもまるで縁のなかった愛鸞ではあったが……前世で観た時代劇の主役のように、多少へっぴり腰ではあったものの、
「ブグオォォォォォォォォッ!!!」
左眼に向けて突き付けられた
どちらかと云えばそれは豚の雄叫びではなく、野生の猪が吠える咆哮のようであった。
「あーそんな感じかぁ、やっぱり豚の頭骨には……豚っぽい発声が似つかわしいってコトね。
カタコトの言葉を無理して喋るんやなしに、そのお口からは獣人
ふ〜む……やっぱり
どうにもこうにも……底が浅いっちゅうか、作り込みが脆弱っちゅうか……何やろなぁ……幼稚で考えのない
「グモォォォォォッ!!」
猛り狂った闘牛の如き叫び声と同時に愛鸞の許へと殺到する
「キィーーーーーーーッン!」
振り下ろされた
その右回転の遠心力を利して、
その結果が先程の甲高い金属音であり、
「
俺はただ握っとっただけやったのに、自分勝手に重心移動だけで人のことを振り回した上に……鉄の棒をスパッと断ち切りよったで。
ハイリターンの話については間違いが無さそうな勢いはあるよな……でも、
眼前の敵よりも、世界の成立要件についての憂慮を優先する愛鸞に……
「ブギィィィィィッ!!」
得物を失い徒手空拳となった
その巨躯と膂力を活かして、自分よりもちっぽけな人間を圧殺しようと目論んでいるのだろう。
「そやねぇ……やっぱり豚頭は『プギィ』とか『ブギィ』系の鳴き声やないと締まらんなぁ。
やっぱりさっきの『モォォォォォォ』っちゅんは、俺の聞き違いやったんかいな?」
のんびりとした声を出しながら、迫り来る
そして自身の眼の前を通り過ぎる敵の両腕を、真上から撫でるような柔らかい動きで
「プギィヤァァァァァッ!!」
両腕を斬られた痛みよりも、眼前の小さな人間を掴む筈だった両手が視界より消え去ってしまったことに驚いた
それはまるで屠殺場まで無理矢理に引き摺られ、食用肉に加工されることを理解している……頭を拳銃で撃ち抜かれる直前の家畜が上げる、現世との別れを惜しむ辞世の悲鳴にも似た声であった。
「取り敢えず危険は去ったかな?
この
っ…………!!
って、ちょいっ!
ちょっと待てって!!!」
慌てたように制止の声を叫びながら上げる愛鸞の意に反して、剣身に掘り込まれた
そして愛鸞の声など聞こえておらぬ様子のまま、彼の右腕を背中側へ大きく振り被らせ………
【第7話 最初の戦闘:完】
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「な………何が………
底が浅いだぁ?
作り込みが脆弱だぁ?
幼稚で考えなしだぁ?
ふ……ふざけたことを言ってるんじゃあ………ないっ!
豚が……動物の頭をした亜人が、どんな鳴き声を上げても………誰も気にしてやしないし、誰もそこまで精読なんて……していないんだよっ!!
こっちの事情なんて何も知らないクセに………まともそうな言葉を吐いてるんじゃないぞっ!!!」
歯軋りの音すら聞こえて来そうな、何者かの憤怒の声を耳にした愛鸞は………片頬を意地悪そうに歪ませると、声の主を小馬鹿にするように薄く嗤った。
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