第3話

 叩き出されてからその日の深夜にはガストロ海軍基地についた。

 貴族というものは便利なものである。一応、勉学もしているので海軍学校は出ている。任官は少佐であった。

だが、私の階級などお飾りである。

やはり軍隊で輝かしいのは歴戦の猛者であろう。叩き上げの軍人、経験を積んだ素晴らしい軍人こそが一流である。

 海軍基地の基地正門には情けないことに小枝の様にひょろっとしたひよっこが門番をしていた。とても規律がなっていない。

 私が勉学を学んだ海軍学校は下から数える方が早かったが、それでも門番はしっかりとしていたものだ。他校から押し寄せてくる烏合の衆を制圧し、きちんと後方の安全を確保してくれる。そして殴られて倒れた振りまでこなす。これには敬意を表さねばならない。これによって私に率いられたクラス連合は、相手方の学校に報復と言う正しい正義を遺憾なく発揮し、制圧し、蹂躙し、二度とあのような真似はせぬ、と誓わせて、正々堂々と凱旋することができた。

「気合いを入れてやらねばならない」

 門番の前まで、荷物を持ったまま、音を消し、私はそのひよっこの両肩を両手で思いっきり叩いた。とたんに大声を上げて泡を噴いたので、慌ててその口を拳で閉じる。

「なにをしておるか!」

 髭を生やし丸々と太った大尉が部下を伴って走ってくる。全くなっていない。走り方が新兵のようではないか!あまりにも腹がたち、門番を投げ飛ばして大尉にぶち当てる。

「貴様ら!なにをたるんどるか!」

 大尉は避けることもできず、その身で受け止めていた。だめだ。これでは実戦で直ぐに殺されてしまうではないか。

「大尉、2週間やる、30キロ痩せてこい。これは命令である」

 頭を押さえながら起きあがった大尉に私は大声で怒鳴りつけた。こう言う部類の偉ぶる奴は頭ごなしに否定してやらねばならない。馬鹿な男の馬鹿な死は普通なら許されるが、軍に置いて馬鹿な男も馬鹿な死も許されないのである。

 それから2週間、私は彼を鍛えに鍛えた。

「走れ、痩せたから休憩すれば良い」

「学べ、寝るのは終わってからで良い」

「撃て、正しい位置にあたればよい」

彼は涙を流し、血反吐を吐き、同僚に同情と小馬鹿にされながらもその猛訓練に耐えた。

「私も一緒にやってやる」

災厄な上司とは訓練を命ずるのみで実践しないものであると私は考えている。そんなもの誰がするかと皆思うだろう。だからこそ、上官ですらこの訓練に耐えれることを証明しなければならないのだ。

そして、2週間後に彼は命令を達成した。引き締まった肉体に精悍な顔つきをして、軍人としても、人間としても、見違えるほどの士官になった。これには満足であったので、私は貴族の特権で彼を私の副官につけた。彼の名前はゴグという。私はこれで背中を安心して預けることができる副官を得たのである。


 さて、基地司令のマルス中将から、2週間後に直ちに命令されたことは、この基地の補給大隊を精鋭にするようにとの重大な命令であった。軍の花形は戦闘兵だが、補給兵はそれよりさらに大切である。飯が食えねば、弾薬がなければ、衣服がなければ、戦はできないのだ。簡単な宅配便などありえない。弾雨降り注ぐ中を、炎渦巻く中を、死体が溢れる中を、行かねばならないのだ。

 私は大隊を即時に招集し、訓練に明け暮れることにした。

まずは1ヶ月、徹底的に体力の底上げをした。動けなければ兵としては役に立たないのだ。新兵の訓練を思い出せと言いながら、しごき倒し、私も一緒にひたすら鍛えた。ゴグも一緒に訓練を行い、そして兵達に何故か私の素晴らしさを解いた。ここだけは腑に落ちなかったが、訓練の結果として、36時間は連続戦闘できるほどの強靭な肉体と精神を兵は手に入れた。

ああ、ずっと戦闘ではない、適度な休憩と睡眠を入れての計算である。フルで働かせて使える人間など皆無なのだ。そんな兵が欲しければ、先ずは自分自身がやってみることだ。まぁ、出来るわけがない。

 次の2週間はひたすら屠殺場に連れてゆき、ブタ、牛、などの動物を屠殺させた。そしてそれを飯として食わせた。命あるものを奪うことの怖さと大切さも牧師に解かせた。戦になれば相手は人間である。それを殺した時に悩み抜かぬように、切り替えれる能力を育成した。戦闘では屠殺する様に、戦闘後は殺してしまったことを心の中で速やかに処理できる様にするためだ。週の終わる頃には、引き金を引くことを躊躇わない、そして引き金を引いた後のことも処理できる素晴らしい能力と感覚を兵達は手に入れた。

最後に射撃訓練を1週間ぶっ続けで行い、的を的確に、されど、間違わぬ様に訓練した。


これにより、ようやく、補給兵として及第点を私は与えることができた。


 マルス中将から、前線への補給命令を訓練後の翌週に受け、私たちは最も過酷なガル前線へ補給任務を開始した。弾雨降り注ぎ、補充された新兵が半月ともたぬ戦場だ。

古参の戦闘兵は前線に現れた真新しい装備の補給兵を笑っていたが、次第に笑顔が消え、恐れ慄くようになった。これは過酷な前線で危険を省みず補給に勤しむ我が大隊に敬意を表してくれたようだ。その甲斐もあってか前線は押し上げられ、敵の大部分は撃退できたようである。

 私は前線で補給を行う兵士に対して、ロングロケットランチャーを装備するように下命した。機関銃も装備はさせたが、なによりましてランチャーを多用するように指示も出した。弾頭は炸裂弾でこれは戦場で敵対象の後ろにも爆炎を撒き散らす派手なものである。私はこれこそが戦場の花ではないかと常々思っていたが、あまり多用されておらず、補給庫で埃を被っていたのだ。

 補給中に襲撃してくる連中に対して、訓練された兵は速射砲の如き素早で6人が発射して迅速に敵火力を制圧し、現地において補給任務を完遂している。shot and run も徹底しているので被害らしい被害もなく、実に素晴らしい。

 地獄の業火、災厄の炎、屍人の火、と敵兵を震え上がらせ、我が国の練度に恐れをなした敵国よりその後、和平の打診があり、3ヶ月後には講和が纏まった。

素晴らしい話である。迅速な補給により戦闘部隊の活躍が目覚ましいことは、私達にも大変名誉な話だ。 我が部隊は補給兵として最高位の勲章を得ると同時に、優秀戦闘兵としての勲章も授与された。我々より働いた兵がいるはずなのに、これは不公平であると参謀本部には文句を言ったが聞きれては貰えなかった。

私は大隊長から師団長へと戦時昇進し、補給大隊の兵達はこの師団の要所要所の指揮官と先任士官となって訓練を行い、師団対抗戦闘訓練では常に最強を誇った。これは私にとってとても嬉しいことであった。

その時も私は新兵と一緒に訓練に参加している。部下もまた同じように訓練に明けくれた。

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