第86話 帰還

 警戒のため結界術を発動させる。

 今日は、雷鎚トールハンマーを使用しなかったので魔力に余裕がある。昨日は連発したけどね。

 とりあえず、森が燃えているので視界は確保されている。

 これでは、魔物も来ないだろう。

 というか、鎮火するのかな?


「……派手に燃えているよな」


 多分だけど、気化した燃料に引火している。そういう近代兵器があることを聞いたことがあるし。

 まあ、ガソリンをまき散らしたようなものだろう。

 あれでは、燃料が尽きるまで延焼は広がると思う。


「……気になりますか?」


 華怜さんを見る。


「何処まで延焼が広がるか……。消火は無理にしても、延焼を食い止めた方がいいのかなって」


「大丈夫だそうです。この平地付近のみが燃えるだけで、明日中には鎮火するそうです」


 この規模の延焼が、鎮火する?


「……理由は?」


「これから雨だそうです。嵐みたいです」


「嵐が来るのであれば、もうこの地に留まる理由もないので移動しましょう」


 俺の提案に華怜さんが頷いた。クレスの街へと向かうべく、一番高い山を見た。


「他の街には寄らないのですか?」


 ここで、華怜さんが意外な事を言い出した。


「クレスの街に直帰する予定ですが、なにかあるのですか?」


「この遺跡から北に進むとクレスの街ですが、西に進むと獣人の街があります。東は、人族の港町ですね。南は……、お勧めできないです」


 この話は、前にも聞いた。勇者なら南に進むんだろうな。依頼を受けて、それ以上の成果を持ち帰る……。

 だけど、今は、指名依頼を終わらせたい。俺は、慎重派だ。


「国宝となる魔剣を盗られる心配をしてしまいます。納品してから見に行くのはいいのですが、今は寄り道したくないですね」


「……分かりました」


 何かあるんだろうな。

 だけど、今は嵐が来る。それに備えなければならない。

 覚えておく程度に留めておこう。

 いや、指名依頼が終わったら、案内を頼むのもいいかもしれない。


 獣人の街と、港町。それと、お勧めされない土地……、か。





 森の中を移動する。幸いにも魔物はいなかった。


 ──ポツポツ、ザー


 雨が降って来た。これで鎮火すると思う。

 その前に、俺達のキャンプ場所を探さないとな。

 夜になる前に決めないと、今晩は雨降る中で魔物の相手をしなければならない。


 とにかく移動だ。

 華怜さんはと言うと、木の幹を蹴って飛び回っていた。

 空中に足場を作って方向転換もしている。斥候だな。

 あれは、俺の"空間障壁"に近いと思う。今度内容を教えて貰おう。

 でも、もしかすると風魔法かな……。


 このエリアは、猿の縄張りだったけど、今のところ現れない。

 というか、夜中だと言うのに魔物の襲撃が極端に少なかった。


 ここで、華怜さんが降りて来た。


「何かありました?」


「……移動しましょう。リッチキングが倒されたので、遺跡付近で留まっていた魔物が、侵攻して来ました。今は、魔物同士で戦っています」


 魔物同士?


「アンデット類が、進行して来ているのですか?」


「そうなります。でも、朝日と共に消滅もしていますね。統率を失った軍など、そんなものです。知能も低いし」


 日の入りと共に巣から出て、日の出前に巣に戻る程度の知能もないのか……。

 リッチキングのみが、知能が高かった可能性もあるんだな。

 アンデットだし、そんなもんか? アンデットの巣は、また要塞になるのかな?


 まあ、この場に居続ける意味もない。俺達はクレスの街へ向かった。



「この先の、蜘蛛の巣エリアと、蝶のエリアはどうしますか?」


「今の翔斗さんであれば、雷魔法で糸を焼き切れます。鱗粉は余り吸い込まないでください」


 華怜さんが先行して、蜘蛛の巣の糸を切って行く。

 蜘蛛は、襲いかかっては来なかった。これは、前回も同じだな。

 その後、蝶のエリアへ。


「"空間障壁"を足場にして進んでください。それと、口に布を当てるのを忘れずに」


 指示に従う。

 連続で、"空間障壁"を展開して、その上を走る。こんな方法もあったんだな。

 蝶も襲いかかっては来なかった。



「はあ、はあ……」


 今は、中間地点の塹壕跡にいる。

 空は白んで来た。魔物の襲撃も収まると思う。


「翔斗さんは、基本ステータスが低すぎますね。MP以外にも振ってください。VITには、スタミナ向上の効果もありますし。それに特化型はパーティーを組まないと、生き残れませんよ?」


「……お勧めは?」


「スピードとスタミナが欲しいですね。アタッカーなのだし」


 レベルも大分上がっているのだけど、ステータスポイントを振っていなかった。

 今回は全体的に上げようか。



「ステータス」


-----------------------------------------------------------------------

名前:ショート・シンドウ

職業:魔導闘士

レベル:803

HP:800(+500)

MP:1251(+750)

STR(筋力):700(+500)

DEX(器用さ):660(+500)

VIT(防御力):775(+515)

AGI(速度):700(+500)

INT(知力):1086(+750)

スキル:スマホ所持、結界術、生命置換、空間障壁、

    身体強化、隠密、鑑定阻害、警報、MP自動回復、献身

ユニークスキル:裏当て、雷鎚トールハンマー

魔法:雷、回復

称号:異世界転移者、大物食いジャイアントキリング、不死王討伐者

スキルポイント:0(-4015)

-----------------------------------------------------------------------



 こんなもんだろう。

 これで華怜さんに付いて行けるかと言われると難しいけど、クレスの街に着いたら上級職に上がろう。

 そこからが、本番のはずだ。


「先に休んでください」


「すいません。さすがに疲れました。俺に移動は不向きですね。結界術だけ張って休ませて貰います」


 それだけ言って、横になった。

 本当にスタミナ切れを起こしている。

 起きたら何か食べよう。その前に服を乾かしたいな……。

 火は……、任せるか。


 色々とやらなければならないことがあったけど、そのまま眠りに付いた。





 目が覚めた。

 太陽の位置とスマホの時間を確認する。

 3時間程度経過していた。大丈夫だ、体内時計は狂っていない。


 目の前には、焚火が用意されていた。

 服が濡れていたので、少し寒い。

 焚火に近寄ると、華怜さんが白湯を渡してくれた。


「ありがとうございます」


 白湯を一気に飲み干す。

 白い息が上がった。


「さて、移動しちゃいましょうか」


「華怜さんは、寝なくても平気なのですか?」


「一昨日は長時間寝れたので、今日はまだ平気です」


 昨日は、一昼夜走ったと言うのに……。タフだ。

 焚火に土を被せて、火を消す。

 華怜さんを見ると、服を取り換えていた。

 昨日までの服は、戦闘でかなり破けていたけど、新品に着替えたみたいだ。


「どうしました?」


「怪我は大丈夫ですか?」


 華怜さんが、リッチキングに大きく切られた太ももを見せる。

 俺が止血をして、包帯を巻いたのだけど、傷跡すらなかった。


「神様との契約で、傷跡は残らない事になっています。手足欠損はしたことないので分からないですが、もしかしたら自然に治るかもしれません」


 不老の体と言っていたけど、負傷耐性もあるんだな。

 俺の知る限り最強系のスキルだ。即死しない限りは、何度でも蘇れるのか。

 だけど、麻痺や拘束系には弱いと思う。理解していなさそうだし、後でそれとなく教えよう。

 『死ぬまで動けない』状況を作られた時に、華怜さんは窮地に陥ると思う。


「分かりました。移動しましょう」


 俺達は、立ち上がりクレスの街を目指した。

 ここから先は、雑魚しかいない。

 オーガが出てきたら危ないけど、華怜さんが遭遇しない道を選んでくれると思う。



 あと少しだ。

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