第85話 リッチキング5

 炎が広がって行く。視界は確保されているけど、状況は悪くなっている。

 正面に立ったら、瞬殺だろうな。

 俺はリッチキングを観察した。

 火炎放射器の燃料爆発に巻き込まれていたけど、何事もなく起き上がった。そして、また飛び上がる。

 突撃銃アサルトライフルを構えて、俺を探しているようだ。


『華怜さんは……、何処だ?』


 華怜さんを見失ってしまった。多分だけど、泳げないので、魔法で自分自身を吹き飛ばして、何処かに隠れているのだと思う。

 さて……、どうするか。

 森林火災も広がって行く。森に隠れているのも、そのうち限界が来るだろう。

 そうなると、池に飛び込んでみるか? いや、弾丸に当たって終わりだな。

 そうなると、壁になる部分がないな。

 真正面から打ち合ったら秒で死ねるだろうし。

 塹壕内を移動するだけで精一杯だ。

 特に俺は、近接戦闘のみだ。一方的に撃たれて終わりだろう。

 〈雷蛇〉を覚えたけど、飛ばれると効果ないんだよな……。


「地面に引きずり落とすのが、最優先か……。というか、どうやって飛んでいるんだ?」


 飛行に関しては、前世の知識にない方法みたいだ。魔法で飛んでいるんだと思う。雷魔法での飛翔方法があるんなら、俺も覚えたいな。


 ──ピロン


 ここで、スマホが鳴った。メールを開く。


『メイスを投げてください。中長距離攻撃が可能となりますよ。神様より』


 いきなり無茶を言うな……。事前検証なしかよ。

 それに武器を手放してしまったら、後はどうするんだ?

 俺が考えていると変化があった。


 華怜さんが動いたのだ。目にも止まらない斬撃でリッチキングの銃撃を弾いていた。

 どこぞのアニメで見た光景だな。あれが可能であれば、異世界に銃火器を持ち込む意味がなくなる。

 そして華怜さんが、リッチキングを落としてくれた。


『今しかない!』


 再度飛翔されたら、当てるのは無理だ。

 俺は、メイスを抜いた。そして、メイスに魔力を蓄える。

 メイスが真っ赤に焼けて行く。


「華怜さん! 離れて!」


 華怜さんが、飛び退いたのを確認して、俺はメイスを投げた。


「野球部で鍛えた、投擲の力を見せてやる!」


 メイスが回転しながら飛んで行ったが、途中から一直線にリッチキング目掛けて飛んで行く。

 そして、加速し出した。一筋の光を残して見えなくなる程の速度だ。

 その光が、リッチキングの頭を粉砕した。

 光の後には、パリパリと言う放電現象も見える。

 俺は、左手を真上に上げた。

 理解はしていなかった。感覚でこうすればいいことが分かったのだ。

 そして、メイスが左手に収まる……。


「なんだ……。俺にも中長距離武器があったのか」


 あの神様も事前に教えてくれればいいものを。

 ステータスを確認するけど、スキルの欄に変化はなかった。まだ、技として未成熟ということかな。これは……、考える必要があるな。

 とりあえず、警戒しながらリッチキングに近づいて行く。

 リッチキングは、頭を失っても動いている。まだ、倒し切れていないみたいだ。塵にならないし。

 観察していて分かったのだけど、どうやら武器を探しているようだ。


「……手加減する理由もないよな」


 俺は、ハンマーに魔力を纏わせた。

 ハンマーで地面を叩き、〈雷蛇〉で腰部分にある弾丸に雷撃を伝える。


「華怜さんに言われたことは忘れていない。雷魔法を吸収して回復されても困るんでね」


 リッチキングが爆発を起こす。リッチキングの予備の弾薬が誘爆したのだ。誘爆に飲まれてリッチキングが吹き飛ぶ。

 煙が晴れると、墜落しており、胴が千切れていた。


「これでも動くのか……、どうやったら倒したことになるんだ?」


 ここで華怜さんが、俺のそばまで来た。

 結構負傷が目立つ。


「大丈夫ですか?」


「……まだ、戦えます」


 手当てが必要そうだ。それと、リッチキングの止めは俺が刺さなければならない。


「池に落としますが、問題ありますか?」


「……ハンマーで砕いて欲しいそうです」


「雷魔法は?」


「使用しないでください」


 この制限付きというのが、面倒だ。雷鎚トールハンマーで一発で粉々にしたいところだな。

 だけど、指示には従おう。ここからの、逆転は避けたい。

 俺は、ハンマーを振り上げた。





 俺はリッチキングを跡形もなく叩き潰した。ここでようやく塵となる。

 とてつもない生命力だな……。さすが王を名乗るだけのはある。


「ふぅ~」


 大きく息を吐いた。

 ここで華怜さんを見ると、傷を抑えて膝を付いていた。出血が酷いな。


「大丈夫ですか?」


「さすがに疲れましたね。先ほどポーションを飲んだので、応急処置は終わっています」


 俺は、マジックバッグから、ポーションと包帯を取り出した。

 華怜さんは、全身に傷を負っており、服が破けていた。

 大きめの傷にポーションをかけて止血し、包帯で素肌を隠す。

 大きな傷は、全身十ヵ所にも及んでいた。傷跡が残らなければいいけど……。


「も、もう大丈夫です。それよりも、ドロップアイテムを回収してください」


 華怜さんが、顔を真っ赤にして治療を拒否して来た。

 ……余り触るのは、良くないかな。

 治療のためとはいえ、全身の傷を見てしまった。

 まだ、警戒されているみたいだ。だけど、治療しなければ命に係わる。


 俺は立ち上がり、リッチキングがいた場所に向かった。


「この剣が目的の物なんだよな……。それと、金属のベルト?」


 ──ピロン


 スマホが鳴った。メールを開く。


『その剣が"国宝となる魔剣"です。ベルトは身に着けてください。雷魔法の攻撃力が上がります。神様より』



 これで依頼完了か。

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