第84話 リッチキング4

「そろそろ、日が暮れますね」


 今は、華怜さんと軽めの食事を摂っている。

 華怜さんが食べ過ぎないように、量は少なめに作った。

 かなり不満そうだけど、今晩が決戦になると思う。

 『満腹で動けませんでした』は、避けたい。


「一応、塹壕を作っておきました。遠距離からの射撃戦になる場合は、退避してくださいね」


 辺り一帯に、背丈くらいの高さの道が掘られていた。これは、土魔法だと思う。しかし、短時間で地形が変わってしまったな……。本当に戦場と言った感じだ。

 まあ、相手はリッチキングなんだ。魔法戦になると想定しているのかな。

 でもそうなると、俺には攻撃手段がないんだよな……。


 考えていると、華怜さんが食べ終わった。

 後片付けをして、灯り用の焚火を灯す。

 情報が少ないので、できることも限られている。

 だけど、挑発してしまったんだ。やるしかない。


 日が暮れた。俺と華怜さんは、索敵に集中している。

 しかし、何もこない。驚くほど静かだ。


「……来ました」


 華怜さんの言葉に反応する。

 池の方向を向く。俺の〈スキル:警報〉が鳴った。

 間違いなくリッチキングだな。


「どんな方法で向かって来ていますか?」


「……飛翔していますね」


 飛べるアンデットか。鳥型のスケルトンでもいるんだろうか?

 そんなことを考えていると、小さな光が見えた。

 あれかな?


 その光が徐々に大きくなって行く。

 ここで分かった。プラズマ発光の光だったのだ。

 そして、リッチキングが目視できる距離まで近づいて来た。その姿に驚く。


「なんですかあれ? 迷彩服にロケットランチャー?」


突撃銃アサルトライフルも持っていますよ。手榴弾とかもね」


「……魔剣は持って来ていますか?」


「腰に装備している直剣になります!」


 ありがたい。目的の物を持って来てくれている。

 これで、探す手間が省けた。



 ここで、リッチキングが止まった。ホバーリングしているみたいだ。飛翔の方法は分からないけど、雷魔法を纏っている。

 パリパリと帯電しているし、プラズマの発光も見える。雷魔法で飛んでいるのか? ありえるのだろうか? いや、俺の前の世界で確立されていない技術かもしれない。常識に囚われ過ぎだ。

 俺が観察していると、リッチキングがロケットランチャーを構えた。


 俺と華怜さんは、反射で塹壕に飛び込んだ。

 そして、塹壕内を移動する。


 ──ドッカーン


 塹壕の一部が吹き飛んだ。遺跡も僅かに残っていた痕跡を消されてしまった。


「……嫌な相手だな」


 まず飛べるというのが、面倒だ。制空権を取られてしまったか。

 それと、近代兵器だ。

 魔法戦と思っていたけど、そうはならなかった。

 次は、上空からの狙撃だ。


 ──パラパラパラ……


 始めは弾丸を避けていたけど、無理と判断して〈空間障壁〉を展開する。

 そうすると、手榴弾が落ちて来た。

 俺は、〈空間障壁〉を複数展開して、立方体を形成する。その中に入った。

 手榴弾が爆発したけど、〈空間原壁〉は物理的に破壊不可能なんだ。今のところ無傷だ。


 上空を見ると、リッチキングと視線があった。

 外見はスケルトンそのままだな。ヘルメットとゴールのすき間から頭蓋骨が見える。

 服の下も、骨だけだと思う。


「さて、次はなんだ? てっ……、火炎放射器かよ!?」


 劫火が襲って来た。あれはまずい。まともに受けたら酸素を焼かれて窒息するだろう。

 いや、喉や肺が焼けてしまい、一発でアウトだ。

 俺は、逃げた。とにかく塹壕内を逃げ回る。

 炎は、森にまで届いている。森林火災が起きているけど、消火などできない。

 ここで華怜さんが動いた。空中を駆け上がっている。

 死角からの一撃で、火炎放射器の燃料タンクを切断した。リッチキングが大爆発を起こす。

 華怜さんは、そのまま池に飛び込んだので無事だと思う。

 俺は吹き飛ばされて、森に入った。


 正直、火力が違い過ぎる。

 前の世界の武器を持ち出されるとは、思っていなかった。


「あれを討伐するのか……。武器弾薬を補充されると無敵じゃないのか?」


 攻城戦を選ばなかったのだけは、正解だな。高所から、マシンガンでも撃たれたら、気が付いた時には終わっていただろう。それと、戦車なんかが出て来た場合……。近代兵器を装備したアンデットの軍隊……。

 最悪は、避けられたと思う。

 後は、どう対処するかだけだ。

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