第83話 リッチキング3

「それでは、俺は少し休ませて貰います。リッチキングが来るのは、日が暮れてからでしょうし、それまで寝かせてください」


「……リッチキングがここまで来ると?」


「来なければ、明日も要塞の破壊を行います」


 華怜さんは、絶句している。


「……翔斗さんは、器用そうなイメージがあったのですが、結構過激な発想をしますね」


雷鎚トールハンマーの所有者に器用さを求められても……。でもそうですね。効率重視と、昔言われた事があります」


 華怜さんは頭を抱えている。


「問題点があれば教えてください」


「リッチキングの属性は、闇と雷になります……。雷鎚トールハンマーは、あまり効きません。下手をすると、魔法を吸収されてしまいます」


 ほう……。ナメクジ以上に相性の悪い相手だな。


「確認なのですが、俺が倒さないといけないのですよね?」


「私が倒してしまうと、この後、翔斗さんが困る事態が起きます」


 良く分からないけど、華怜さんは手が出せないのか。案内までという縛りがあるのかもしれない。

 いや、推測できなくはないな。

 多分、称号がなにか付くのかもしれない。

 それと、経験値だ。一気にレベルが上がる可能性がある。


 華怜さんを見ると、かなり困った表情を浮かべている。

 さて……、どうするべきか。


「一度、逃げましょうか」


「えっ?」




 今は筏に乗って、対岸まで移動している。

 推進力は、華怜さんの風魔法だ。


 スマホを見るけど、着信はなかった。

 このところ、送金額を見る余裕がなかったので確認すると、先月の平均額より多めの金額が、毎日送られていた。

 華怜さんと出会ってからの評価は高いみたいだ。


「この後どうするつもりですか?」


 顔を上げて、華怜さんを見る。


「リッチキングが、要塞から出て来るか否かで、対応が変わります。出てくるのであれば、この池の水を利用して弱体化を図るつもりでいます。籠城されたり、要塞を修復するのであれば、また壊しに行くだけですね」


「……雷鎚トールハンマーが効かないのですよ? 今の翔斗さんに勝算があるのですか?」


「俺の攻撃は、本来打撃武器による内部破壊ですよ? 魔法は適当に属性を決めてしまったので、あくまでも補助です。まあ、リッチキングを見てから、考えます」


「……翔斗さんは、脳筋なところがありますよね」


「華怜さんがいれば、逃げることは可能でしょう? 相手の得意不得意分野を見分けて、対策を考えるだけですよ」


「……即死しないことが前提での、考え方ですよね」


 即死攻撃もあると言っているのか?

 そんな話をしていると、対岸に着いた。俺が異世界転移した場所だ。


「翔斗さん。一応先に渡しておきます」


 そう言って、華怜さんが魔石を差し出して来た。


「これは……、なんですか? 白い魔石?」


「光属性が宿った魔石になります。使えば、リッチキングは逃げるでしょう」


 ほう? そんな魔石もあるのか。


「属性が宿った魔石ですか……。便利な物があるのですね」


「翔斗さんも、色が付いた魔石を取得したはずです。知らなかっただけですよ?」


 そういえばそうか。今まで、千個くらい魔石を拾っているけど、色違いの魔石もあった。

 でも、白い魔石は見たことなかったな。


 魔石に魔力を送ってみる。眩しい光が俺を包んだ。

 クレスの街の周辺は、闇属性の魔物が多いのだと推測される。その対策として、光属性なんだろう。

 でも、これは保険だな。一応、何時でも発動できるように、服のポケットに入れておく。


「それでは、俺は休ませて貰います。日暮れ前に起こしてください」


「……分かりました。私は、防衛の準備をしておきます」





 まどろみの中で考える。リッチキングは、闇属性と雷属性を持っているみたいだ。

 池に落とすのが、戦術として最上のはずだ。

 水属性の魔石とかあれば、使えたかもしれないけど、俺は雷魔法を使えなくなる可能性がある……。

 そして、俺が倒さなければならないという理由……。

 相性の悪い相手という情報。

 雷鎚トールハンマーは、あくまで俺の攻撃の一つでしかない。

 俺の代名詞になっているんだろうけど、メインで使うには扱い辛いのが本音だ。


 もう一手、なにか欲しい……。

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