第82話 リッチキング2
華怜さんに抱えられて、拠点まで戻って来た。
「はあはあ……」
ここで降ろされた。
全速力だったみたいだ。華怜さんは、息が切れていた。それにしても、凄いスピードだったな。
「まずかったですか?」
華怜さんは、血走った目で俺を見て来た。
「あと数秒で、リッチキングが出て来ていましたよ?」
笑顔で青筋を立てている。器用だな。
「勝てそうにないですか?」
「翔斗さんは、MPが枯渇していたじゃないですか!」
「華怜さんならと思ったんですが……」
「翔斗さんが倒さなければ、意味がないのですよ?」
そうなのか?
俺が倒すことに意味がある?
華怜さんではいけない理由……。
神様の言っていた、"貢献度”が頭を過る。
「魔剣を回収して、クラウディア様に献上する以外に意味があるのですか?」
「はぁ~。考えてください!」
まったく分からないんだけど。
その後、俺はマナポーションを貰い、周囲を警戒することにした。
華怜さんには、睡眠をとって貰う。
疲れてはいるけど、先ほどまで寝ていたので、俺の睡眠は足りている。
というか、MPは睡眠で回復するのではないんだな。体力とは異なる。
魔力……。まだ、なんとなくでしか理解していない。
──ピク
なにかが俺の警戒網に引っかかった。周囲を見渡す。
「……ゴブリンか」
10匹かな? その程度の数のゴブリンが森から姿を現した。
でも、池の対岸で出会った個体とは異なるな。正直大きい。2メートルくらいありそうだ。
ホブゴブリン……、であっているのかな?
それと、ロープを着たゴブリンもいる。あれは見たな。
昔俺が、ボスゴブリンと呼んだ個体と近い。
そして、"任意の魔法が取得できる技能石"を落とした個体でもある。
俺は、立ち上がった。
華怜さんは、結界術の中で休んでいる。被弾はないと思う。
ゴブリン共を一瞥するが、近寄っては来ない。
数分の対峙。時間の無駄だな。
俺は〈雷蛇〉を放った。
まずは後方に控えているローブを着たゴブリンからだ。
上手く当たってくれたけど、倒すまでには至らなかった。
魔法防御力が高いのか、HPが多いのかは分からない。だけど、レベルは高そうだ。痺れて動けないでいるので止めを刺しに行かなければならないな。
そうすると、一斉にホブゴブリンが襲いかかって来た。
遺跡の石垣だった場所を飛び越えて襲って来たのだ。こいつらは知能があるのか?
〈空間障壁〉を複数展開する。
数匹が着地に失敗してコケてくれた。それと、足を挫いた個体もいる。
だけど、俺の〈空間障壁〉をすり抜けて、三匹が距離を詰めて来る。
俺は防衛の構えを見せた。
ここで、ホブゴブリンがトラップを踏んだ。
地面に敷き詰めた、壊れた武器防具だ。
落雷のような音が響き渡り、ホブゴブリンにスタンガンのような効果が襲う。
俺にはその一瞬で十分だった。
俺はハンマーを振るいホブゴブリンを爆発させる。
ホブゴブリンは、塵になって消えた。
その光景を見た他のホブゴブリン共は、足を引きずって逃げ始める。
俺は、一歩で間合いを詰めて一番後ろのホブゴブリンに一撃を入れた。
AGI値を上げた効果だと思う。昨日とはスピードが明らかに違う。
他のホブゴブリン共は、驚愕の表情でその光景を見て震えている。
「応援を呼ばれると面倒なので、全滅とさせて貰う」
静かな宣戦布告。
理解されるわけもない、無意味な言葉。
だけど、俺は無心でハンマーを振るった。
◇
「う……ん」
「起きましたか?」
まだ日は高い。夜までは時間がある。
もう少し寝ていて貰っても構わないのだけど、華怜さんが起きてこちらに近づいて来た。
匂いに釣られているようだ。
俺の目の前には、鍋がある。
今日は、おじや鍋とした。
これから決戦になると思う。クレスの街で手に入った、少量の米をここで使うことにしたんだ。
華怜さんにお椀を差し出すと、無言で食べ始めた。半分寝ていそうだな。
俺も食べてみる。
「まあ、キャンプ料理としては上できだろう」
その後、覚醒した華怜さんに技能石の〈鑑定〉を依頼した。
「え……。これって」
「未発見の技能石になりますか?」
「……はい。"任意の魔法"の取得など聞いたことがありません」
これで、クラウディア様の功績が一つ増えそうだな。
まあ、無事に帰れたらだけど。
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