第78話 さらに進行2

 とりあえず、順調だった。順調以外の言葉が出ない。

 一番の危険地帯を抜けたんだし、それもそうか。


 夜間に迎撃を行い、午前中に寝て、午後に移動するのは、変わらない。

 それと、レベリングの為に、俺が魔物を屠っている。

 華怜さんは、土魔法で足止めをしてくれているので、とても簡単だ。俺は、特化型なので、パーティーを組めればそれなりに活躍できる。ステータスの割り振りをどうするか……。正直、単独ソロ向きに変えるのは、考えてしまう。

 魔物は正直雑魚なんだけど、レベルは順調に上がって行った。


 神様に言いたい。

 ここは、中級職になってから来るべき場所だったと。

 転移場所はランダムとか、期待されているとか言われたけど、死んでしまっては意味がない。

 もう少し考えて欲しかったな。



 そんなこんなで、数日が過ぎた。

 今は、夜が明けて食事を摂っている。


「華鈴さん。後どれくらいか分かりますか?」


「ふぁい? もうぼっとだぼほほほいばずもうちょっとだとおもいます


 食べながら答えなくてもいいんだけど……。

 先ほど、なぜか芋をドロップする魔物がいた。

 今日も煮鍋だ。乾燥野菜をお湯で戻して、とっておきのソーセージを加えた。

 少し辛み調味料を加えて味を整える。


 醤油と味噌が欲しいけど、クレスの街にはないとのこと。

 まあ、砂糖と胡椒があるだけでも助かっている。

 それと、トマトはないらしい。転移転生者が、人族の土地を探し回ってみたけど、見つからなかったとのこと。

 亜人の土地にあるのではないかとも推測されているらしい。

 クレスの街での食事は、満足とは行かなくても、特に味を気にすることはなかった。

 素材は少ないけど、不満を言うレベルじゃない。


 聞くところによると、昔住み着いた転移転生者が食事の改善を図ってくれたのだとか。

 今王都では、揚げ物が人気らしい。

 そういえば、クレスの街では肥満体の人は見かけなかったな。

 まあ、辺境都市なんだ。肉体労働が多いのかもしれない。


「何を考えているのですか?」


 不意に華怜さんから質問された。


「いえ、その……。科学技術と食事のレベルが合っていないかなって」


「う~ん。江戸時代でもこれくらい美味しい物は食べられたそうですよ?」


「それは、輸入があったからでしょう?

 戦争していて、他の土地に行けない状態でのクレスの街の食糧事情は、少し異常かなと……」


「東の海を渡れば、新天地があるそうです。

 それと、地図を作る際に種を探してもいたそうです。でも手に入らない物も多いですよ?」


「例えば?」


「珈琲は飲みたくありませんか?」


 なるほどね。 確か、赤道付近の標高の高い土地でしか、栽培はできなかったはずだ。

 まだそこまでは、版図を広げられてはいないんだろうな。

 その後、少し雑談をして交互に休む。





 太陽が真上に昇ったので、移動再開だ。

 たまにだが、魔物が襲って来る。

 だけど、俺には〈スキル:警報〉があるし、華怜さんの索敵能力も高い。 問題なく進めている。

 しかし一日に4~5時間という制約があると、余り距離を稼げない。

 慌てすぎかもしれないけど、少しもどかしいな。



 その後、数日この単調な作業を繰り返していたのだけど、変化があった。


「華怜さん。遠くに遺跡みたいなのが見えませんか?」


「あ! あれです。あそこがキャンプ地になります!」


 ようやくか。

 走って、目的地まで向かった。


「俺が転移した場所と同じですね。

 何かがあったのは分かるのですけど、崩されている……」


「神殿だったみたいです。それを他種族が踏みにじった……」


 この土地にも歴史があったのか。

 少し探すけど、何もないな。魔石すら落ちてはいない。


「枯れ枝を拾ってきますね。それと飲料水の残りは大丈夫ですか?」


「飲料水は大量に持って来たので、まだ心配はいりません。

 それよりも、保存食が切れて来ましたね。今後は現地調達の肉や野菜を多く食べることになりそうです」


「野菜ですか……。植物系の魔物がいたら教えてください」


「え~と。〈スキル:鑑定〉で食べられる植物は、見分けがつきます」


「……便利ですね」


「まあ、転移直後に死にそうになりましたからね。

 魔眼系スキルより、〈鑑定〉を優先しました」


 そういえば、前に少し聞いたな。それとだ。


「〈魔眼〉ってなんですか?」


「バフ・デバフ系のスキルですね。一人一個まで取得できます」


「クレスの街に戻ったら教えてください。一人一個までなら、皆取っていそうだ」


「うふふ。翔斗さんにとても役に立つ技能石を、先日取りましたよ。今取得すると、視覚情報に異常をきたすので、街に戻ってからにしましょう」


 選んでくれていたのか? まあ、後で聞こう。

 とりあえず、日が暮れる前にキャンプの準備をしなければならない。

 話を聞くのは、明日の朝でもいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る