第76話 始まりの場所2

「華怜さんの持っている情報を、俺にも教えてください」


 目的の魔剣についてもなにか知っていると思うので、とりあえず聞いてみる。


「……神様からの情報になるのですが、リッチキングが持っているそうです。

 本音を言うと、神様も困っているみたいなんです」


「神様が困る?」


「翔斗さんのスマホに神託が来ますよね? それを盗み見してるみたいなんです」


 ほう? 人族だけではなく、神様にとっても今の状況は好ましくないのか……。


「方角は分かりますか?」


「分かるのですけど……、要塞を築いています。

 また、夜間にアンデットが出るのは、リッチキングが生み出しているからなんです」


 生み出してるのか……。操っても良そうだな。

 俺のスマホを盗み見しているんだし、場所は割れていたんだろう。

 だけど、アンデットは俺にとって相性のいい相手だった。

 ……神様が、俺をこの場所に転移させた理由がうっすらと見えて来たかな。


「この森の支配者という感じですか?」


「"支配者"は違いますね。さっきの兎の魔物もそうですし、オーガもいます。

 棲み分けが出来ているので、大きな争いには発展しなくなっているだけですね」


 ここで地図を取り出す。もう少し、正確な情報が欲しい。


「場所は分かりますか?」


「リッチキングは、この遺跡からみて南側にいます。この湖の先ですね。

 ちなみに兎の魔物は、遺跡の東側をテリトリーにしています。

 オーガの集落は、少し離れた北西になるのですが……、移住してながら生活しているみたいです」


 湖? 池じゃないのか。もしかしてかなり大きいのか?

 俺の地図の読み方が間違っているのか、もしくは地図が正確じゃないのか。多分、後者だな。

 それと、今の話には、かなり疑問が残るな。なぜなら、この地図には、街らしき記載がある。


「この遺跡から西にある、街の記載はなんですか?」


「……かなり昔、亜人と戦争をしていた時に作られた陣地ですね。

 街にする予定の土地だったと言ったところでしょうか」


 危ない! 西に進んでいたら、良くて餓死だったな。


「東は? 海に面した土地に街の記載がありますが? 山を越えてすぐに海となり、港町になる地形かな?」


「そこは開拓が済んでいます。港町として賑わっています」


 東は良かったのか……。


「最後の南は?」


「……人族の記録には残されていない種族になります。

 一時期友好的だったのですが、その後絶縁状態になっています。

 翔斗さんは、知らない方がいいでしょう」


「これから南に進むのに?」


「外見が私達とかなり異なります。リッチキングとは敵対しているので、出会うことはないでしょう」


「共闘の可能性もないと?」


「ありえませんね」


 教えたくないんだろうな。

 まあ、無理に聞き出す必要もない。


「それと、拠点はどうしますか? 毎回この池を渡るのであれば、南側に移動した方が良さそうなのですが。移動方法をどうするか……。筏や船でも作りますか?」


「そうですね。移動しましょうか。そこで砦を築いて拠点としましょう。

 ですけど、その前にすべきことがあるみたいです」


 なんだろう?


「内容は?」


「大型のスケルトンを倒しませんでしたか? その技能石の回収が必要みたいです」


 あれか……。回収は、考えもしなかったな。


「池に誘導して、溶かして倒しました。技能石は、池の底ですね……」


 ここで、華怜さんが装備を脱ぎだした!?

 腰紐も解いて薄着になりそうだ。


「ストップ! 池に潜るつもりですか?」


「え? そうですけど?」


「俺が行きます。防具を着てください」


 ちょっと警戒心がなさ過ぎじゃないかな?

 目のやり場に困ってしまう。


「……ふ~ん。翔斗さんは私の体には興味なさそうだったのにな~。

 後ろを向いてくれるだけで良かったのですけどね~」


 いたずらな笑みを浮かべる、華怜さん。

 ここは、先に動こう。

 俺は、篭手を外し、コートと上着を脱いだ。それとハンマーとマジックバッグも地面に置いた。

 そして、池に飛び込む。


 池の透明度はかなり高い。だけど、底は土砂と砂利だ。それと、幸いな点に水深は浅い。

 技能石は埋まっている可能性があるな。

 技能石の特異な点として、文字の様な模様がある。それは、薄く光ってもいる。

 それを目印にすれば、見つかるはずだ。

 10メートルほど進んで沈んでいると思われる場所で一度浮上する。大きく息を吸い込み、再度潜った。

 池の底に足が付くと、土砂が舞い上がった。視界が遮られる。

 俺は、両手で土砂をかき回して、堆積物をどかして行った。

 そして、再浮上。少し待てば、また透明度は高くなるはずだ。

 数分ほど待ち、再度潜る。

 技能石特有の光が見えた。だけど、三ヶ所ある?

 土砂が舞い上がらないように、静かに技能石と思われる石を全て回収した。

 ハズレだったら、もう一度かな。

 まあ、華怜さんに見て貰えば、分かるだろう。

 泳いで岸まで移動した。


「三個回収しました。確認をお願いします」


 岸に、技能石を並べる。

 華怜さんが技能石を〈鑑定〉し始めた。


「ありました。これですね。他の二個も有用な物です!」


 良かった。一回で済んだか。

 俺は、岸に上がった。


「焚火の準備をお願いできますか? 服を乾かしたいです」


 俺がそう言うと、華怜さんが右手で俺の胸を触った。

 そして、服が一瞬膨らんだと思うと、濡れた服は乾いていた。いや、服だけではなく、体も髪も乾いていた。


「風魔法の〈乾燥〉になります。回数を重ねると衣類を痛めるのですが、一回くらいならいいでしょう」


 華怜さんは、風魔法まで使えるのか。まじに万能型だな。


「他に必要なものは、ないですよね? 再度潜るのであれば、今だけにして欲しいです」


「本音言うと助かりました。私泳げないので」


 おう?

 笑顔の華怜さんが、またもやとんでもないことを言った……。

 池に入ってどうするつもりだったんだ?

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