第75話 始まりの場所1

「はは……」


 苦笑いが出た。

 俺が異世界転移した場所に、戻って来たからだ。


「一ヶ月振りかな。でも、あの時のままなんだな……」


 遺跡と池へ歩いて行く。

 華怜さんも付いて来てくれている。

 地面には、回収しきれなかった武器防具が散乱している。

 俺が、灯り用に作った焚火も、崩れてはいるが残っていた。森の中とは違うんだな。

 そのまま進み、池の水を飲んでみた。


「ふう~。戻って来たって実感がわきました」


 地面に座り込んで、華怜さんを見る。


「っぷ。くすくす」


「なにか?」


「いえ、良くあんな危険な森を抜けられたなと。

 無職であり何のスキルもない状態で、ここからスタートだったのですよね?」


 華怜さんは、笑いをこらえている。

 俺は、地面に大の字に倒れた。


「その辺は、神様に聞いてくださいよ。

 それと、この遺跡に入って来る魔物もいるので、一応警戒しておいてくださいね。

 ゴブリンとかもいますから」


 ここで華怜さんが、俺の頭を触った。

 少し持ち上げられる……。


「……」


 膝枕の状態になったのだ。


「……結構、恥ずかしいのですが」


「いつも私ばかりなので、逆襲です。誰も見てないし、かまわないでしょう?」


 意識してしまう。

 綺麗な顔の前にある、大きい胸が視界を遮る。

 華怜さんが、俺の髪をなで始めた。


「あの……、魔物が入って来ますよ?」


「大丈夫です。しばらく襲撃はないそうです。仮眠を取ってください」


 そう言われて、気が抜けてしまった。

 正直、寝心地がいい枕だ。いや、良すぎる枕だな。

 この数日を思い返す。

 クレスで華怜さんに会った時のこと。

 その後、少し苛立ってしまっていたな。

 森に入った頃は、華怜さんの心配ばかりしていた。

 とりあえず、頭を撫でたり、手を握ったりして、旅に慣れさせようとしていたな……。

 俺への警戒心が薄れた華怜さんは、凄い実力の持ち主だった。

ここで思う。


「……そういえば、クラウディア様には、数日間森に入ると言って出て来ましたよね?」


 目をつぶりながら、質問してみる。


「そうなんですか? 私は森に行くとしか聞いてませんでしたけど?」


 ああ、そうだった。俺が屋敷から無理やり連れだしたんだったな。ライサさんには、伝わっているし大丈夫か。

 なんか、疲れがどっと出て来た。

 正直、俺も緊張状態だったみたいだ。

 二人旅など考えもしていなかった。

 五人くらいで行こうとか考えていた気がする。


 ……ダメだ。眠気に逆らえない。

 そのまま、意識を手放してしまった。





 目が覚めた。 陽はまだ高い。


「あれ? 何していたんだっけ……」


「起きました?」


 真上から、華怜さんの顔が出て来た。

 今の状況を確認する……。

 膝枕されていたのか。

 そうだ、気が抜けた上に、気持ち良すぎて寝てしまったのか。


「足は痺れていませんか?」


「うふふ。大丈夫です」


 目が覚めたのだ。さすがにこの状態を維持する言いわけは思いつかない。

 そっと起き上がった。


「え~と。どれくらい寝ていました?」


「2時間くらいかな? 気持ちよさそうでしたね。 なにか夢を見ていたのですか?」


「夢は見なかったかな。久々に深く寝れた感じです」


 マジックバッグより水筒を取り出して、水を飲み干す。

 飲料水に関しては、もう心配はいらない。

 というか、心を落ち着かせないといけない。

 表情には出してないと思うけど、結構動揺している。


「ふぅ~。さて、これからどうすればいいか、話し合いましょうか」


 ごまかすために、そして頭を切り替えるために話を切り替える。

 でも華怜さんは、ご満悦の表情だ。見透かされていそうだな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る