第74話 強敵2

 日が暮れた。

 アンデット系の魔物がわいてくる。

 今俺達は、結界の中にいる。結界石で作った結界だ。

 そして、目の前には、兎の魔物……。


 華怜さんは、俺の隣で寝ていた。

 とにかく、今は休むように言った。何もできないからだ。

 俺が足手まといなのだから、華怜さんには休める時に休んで貰う。

 華怜さんは、俺の肩に頭を乗せて、熟睡していると思う……。

 それと、安心させるために手を繋いでいだ。毛布もかけてあげた。

 要するに、今の俺は身動き取れない状況なのだ。


 まあ、それはどうでもいい。

 アンデットが、結界を取り囲んで来た。

 見える限りで数十体はいる。この後もわいてくると思う。

 下手すると、今晩だけで千体を超える魔物が、襲って来るんじゃないのかな?

 だけど、予想外のことが起きた。

 兎の魔物が、アンデットを蹴散らし始めたからだ。

 目にも止まらないスピードで跳躍して、体当たりをしていると思う。

 リビングアーマーに大きな穴が空いているし、スケルトンなど粉々だ。

 グールは、血肉を地面にまき散らしている。


 そういえば、異世界転移直後に結界術の外で魔物の死骸があったな。

 たしか、ゴブリンが他の魔物を倒していたんだと思う。

 目の前の、虐殺を見て確信した。


「魔物同士でも、戦うことはあるんだな……」


 だけど、アンデットの数も次々に増えて行く。

 倒されても、倒されても、次々に現れる。

 足場が徐々に魔物の装備で埋め尽くされて行った。

 遺跡で俺が取った戦法だけど、今の状況は、アンデット達にとっても、兎にとっても良くないんじゃないかと思う。


 兎に疲れは見えない。

 とにかく近づいて来るアンデットを屠っていた。



「う……ん」


 華怜さんが起きたようだ。まあ、ここまで騒がしいんだ。それは起きるか。


「……休めましたか?」


「……少しは眠れました。ですが、凄いことになっていますね」


「どうしましょうかね、これ。身動きが取れないですね」


「う~ん。無理やり倒してもいいんですが、今はリスクを取りたくないですね」


 驚いてしまう。華怜さんには、倒す方法があるのか?

 それと、リスクか……。

 多分だけど、〈スキル:献身〉のようなものを持っているのだと推測する。


 ここで華怜さんが、影魔法を使用した。

 地面に落ちている、魔石を影収納に入れ始めたのだ。

 兎は、一瞬こちらを見たけど、危険なしと判断されたのか、アンデットへの攻撃に戻った。


「かなりの数の魔石を回収できそうです」


 華怜さんは嬉しそうだ。

 まあ、それはいい。

 俺としては、今の結界の効果が切れた場合に、どうしようか考えている。

 多分だけど、12時間程度は持つと思う。

 そうなると、結界の効果が切れるのは、夜明け前だと推測できる。

 その間に対策を考えておかないとな……。





「そろそろ、結界の効果時間が終了となりませんか?」


「そうですね。あと少しです」


 まだ、夜は明けていない。

 だけど、アンデットは来なくなってしまった。

 多分近場に潜んでいたアンデットは、兎が全て倒してしまったんだろう。

 今兎は、俺の目の前で座っている。


 華怜さんは、戦利品を確認している。

 魔剣が数本手に入ったようだ。目的の魔剣があれば、帰れるけど……、今はそれどころじゃない。

 どうするべきか……。


 ここで異変があった。

 兎がどこかへ行ってしまったのだ。

 俺は、驚いて華怜さんを見た。


「っえ、なんですか?」


「いや、兎が……。どういうことか分かりますか?」


「多分ですが、お腹が減ったので巣に帰ったのですよ」


 力が抜けてしまった。一気に緊張の糸が切れた。

 多分だけど、華怜さんはこうなることを予想していたんだろうな。

 事前に教えて貰いたかったよ。


「……もう会いたくないですね」


「う~ん。クレスへ帰る時に襲って来そうですね。でも……、回避できなくはないかな。注意が他に行っている間に……、ぶつぶつ」


 目を付けられてしまったか。


「遺跡付近には、現れませんか?」


「あれは現れませんが、同レベルの魔物は出ますよ?」


 前回は運が良かっただけなんだな。

 その後、回収した戦利品をマジックバッグに入れて出発することにした。

 目的の魔剣は、なかったのだ。


 昨日と同じように、華怜さんが先導して、俺が追従する。

 まだ夜中だけど、魔物には出くわさなかった。


 魔物が出ないと移動が楽だな。

 そして、朝日が昇る頃に遺跡に辿り着いた。

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