第72話 進行5

 また、交互に睡眠を取った。

 今回は、4時間ほどの睡眠時間が確保できた。

 それと、本当に夜間の襲撃はなかった。神託者って便利だな。あの神様に言いたい、この森を抜ける時に俺がどれだけ苦労したと思っているんだ。

 そんなことを考えていても、スマホは鳴らなかった。


 俺は、時間があったので鍋料理を用意していた。

 何時も移動に時間を取られていたので、食事はできるたけ簡単なものにしていたのだけど、今日くらいは手の込んだ料理でも良いだろう。

 コンソメもどきがあったので、ポトフとした。

 野菜、芋、肉と香辛料を煮込む。


「そろそろ火が通ったかな……」


 タイミング良く、夜が明けた。

 そして、華怜さんも起きて来た。


「おはようございます」


「……おはようございます」


「顔を洗って、目を覚ましてください」


「……はい」


 華怜さんは、先日まで、不眠症と思っていたけど、低血圧でもあるみたいだ。

 低血圧なのは、体質なのでどうしようもない。だけど、遠征となると問題があるかもしれないな。

 華怜さんだけは、十分な睡眠時間を確保して貰うのがいいだろう。


 華怜さんが、桶と水筒を出して、顔を洗った。

 また、桶の水を鏡代わりにして、化粧直しと髪を梳かしている。

 多少は余裕が出て来たのかもしれない。


 まだ、覚醒しきっていない顔だけど、戻って来た。

 俺は、料理をお椀に移して華怜さんに差し出した。

 華怜さんは、黙って受け取って一口飲んでくれる。


「……え?」


 どうやら、完全に目が覚めたようだ。

 料理と俺を交互に見ている。


「時間があったので、鍋料理としました。大量に作ったので食べてください。

 あと、パンもあります。保存用の固いパンなのでスープに浸して食べてくださいね」


 華怜さんが、勢い良く食べ出した。

 俺も食べてみる。

 何時もの味だ。妹が好んだ味。

 調味料が違うけど、調整次第でどうとでもなる。



 食事が終わった。

 華怜さんは、俺の三倍くらい食べている。

 満腹すぎて、ちょっと苦しそうだ。

 苦笑いが出てしまった。

 その後、 一時間程度食休みしてから、移動開始とした。


「ここからが本当の危険地帯になるのですよね。戦法は昨日と同じとなりますか?」


「……少し迷っています。翔斗さんに、魔力のステータス変換と遠隔攻撃を覚えて貰いたいのがあります。

 上手く行けば、雷鎚トールハンマーの範明攻撃化も可能になるでしょうし」


 かなり先を見ているな。


「ここで特訓しますか? 安全地帯みたいですし」


「完全な安全地帯ではないんです。条件により後方の蝶が襲って来ます。

 あと、結界石の数にも限りがありますし……」


 確かにそうだ。俺達二人であれば、遺跡の場所で休息もできるだろうし。結界術のみで十分なはずだ。

 消費アイテムである結界石は、残しておきたい。


「移動しますか」


「……私がなるべく迎撃を行いますので、翔斗さんは撃ち漏らしをお願いします。

 それと"蜘蛛の巣"ですね。"纏雷"で焼き切れるので、捕らわれたら焼き切ってください」


 なるほどね。

 だけど、纏雷は見せたことないと思うんだけど……。

 まあいい。こうして方針が決まった。



 移動を開始した。

 今は昼間なので、蜘蛛の糸が光っていて大体は見える。

 華怜さんは、迷いなく巣を回避しながら進んで行く。

 なぜ迷いなく進めるのか聞いてみたのだけど、華怜さんは〈スキル:探索〉で感じ取れるんだそうだ。

 かなりレベルが高そうだ。

 それと華怜さんは〈スキル:暗視〉も持っている。暗闇でも、見えるのだとか。

 〈スキル:暗視〉は俺も欲しいな。今度購入しよう。


 数匹の巨大な蜘蛛が襲って来たけど、難なく撃退。それと、この辺の魔物になるとレベルが上がる。

 美味しいかもしれない。

 レベリングも行いたいけど、今は移動を優先する。

 そして、蜘蛛の巣エリアを抜けた。


「……翔斗さん。囲まれそうです。 一点突破しますね!」


 俺の〈スキル:警報〉も、ここから先は、危険と警鐘を鳴らしている。

 とにかく、全力で移動する。止まると囲まれる。

 魔物が数匹突出して来たけど、華怜さんが一撃で屠った。

 俺は、後方を警戒して、〈空間障壁〉の準備をする。

 矢は飛んで来なかったけど、毒液などが真上から降って来た。

 事前に警戒していれば、造作もなく避けられるな。


「包囲から抜けられました! 全力で走ってください!!」


 今も全力ですよ。

 ステータス値を見直そう。AGI値は重要だな……。身を持って理解した。

 ここで音を拾った。


「!? 投石か?」


 〈空間障壁〉で傘を作りやり過ごす。

 上空を見ると、猿の魔物が樹の枝に群がっていた。


「上空からの投石か……」


 戦術としては、避けたい状況だな。

 華怜さんを見ると、投石を全て避けている。そして、止まる気配はない。

 俺は、華怜さんの後に続いた。

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