第71話 進行4

 森の奥深くへ進行して行く。

 華怜さんの動きもいい。不眠症は解消されたようだ。

 後は、赤面症かな? 自己肯定感が低いので、なるべく認めるような発言を心がければいいだろう。

 戦闘面では、俺よりもはるかに優れているのだし。

 対人恐怖症みたいな感じだけど、それさえ克服できれば、名を挙げられるはずだ。


 ここで、華怜さんが止まった。俺も慌てて、ストップする。


「何かありました?」


「蝶が見えます……」


 ついにここまで来たか。後少しだ。

 俺は、鼻と口を布で覆った。


「地面に鱗粉や花粉みたいなのが積もっています。これは、毒性がありそうです。

 それと、落とし穴もあります。落ちると、植物系の魔物に拘束されそうでした」


 華怜さんが、何かを考えている。


「……私は、毒耐性があるので、ここの毒は無効化できそうですね。

 それよりも、このエリアは一気に突っ切った方が良さそうです」


 この人、マジに万能だな……。


「方法は?」


「ショートさんの雷魔法を、私が速度に変換する……、かな?」


 分からないな。いきなり連携できるものなのか?


「具体的にお願いします」


雷鎚トールハンマーくらいの魔力量を保持してください。

 それを私が、土魔法で吸収します。そして、魔力をステータスに反映させてのダッシュが良さそうです」


 ……。嫌~なイメージしかわかない。

 だけど、それができるのであれば、連携の幅が広がると思う。

 他人の魔法の吸収か、試してみるか……。


 俺は、ハンマーの先端に雷魔法を充電させて行く。

 保持時間は、かなり短い。暴発させそうだ。


「……っぐ。もっとですか?」


「……行きます」


 華怜さんが、ハンマーの先端に触れた。

 一瞬で魔力が吸い取られる。

 そして、華怜さんを見ると、雷魔法を纏っていた。

 これで確定した。華怜さんに雷魔法は通じない。でも、不意打ちならいけるかな?


 華怜さんは、片手で俺を担ぎ上げた。今俺は、華怜さんの左肩に乗っている。

 片手で成人男性を担ぐ女性とか……。さすがステータスのある異世界と言った感じだ。

 そして、華怜さんは猛スピードで走り出した。

 これ、100メートルを何秒で走れる速度が出ているんだろうか?

 時速100キロメートル以上?

 とにかく空気抵抗が痛い。眼も開けてられない。

 そして、何より揺れが酷い……。


 体感として、数秒だったと思う。

 一気に、蝶のエリアを抜けた。

 後ろを振り返ると、鱗粉や花粉が舞い上がっており、視界を遮っている。

 前は、歩きで一日かかったというのに……。


「すごい技術ですね。スキルなのですか?」


「え? 魔力によるステータス変換ですよ? 魔力を持っている人であれば、誰でもできます。

 今回は、スピードが欲しかったので、雷魔法を使用しただけです」


 当たり前のように言っている。

 だけど、女王蟻討伐時には、誰も使用していなかった。ライサさんでさえもだ。

 本当に練習すれば"誰でもできる"技術なの……かな?

 今は置いておく。後で教えて貰おう。

 俺は前を向いた。


「ここから、蜘蛛の巣エリアです。その先は、猿の集団に襲われました。それと、コウモリとか虎とかもいました。

 そこを抜ければ、遺跡に辿り着けます」


 華怜さんが、また考え始めた。

 俺はしばらく待つ……。

 考えが纏まったのか、華怜さんが口を開いた。


「まだ、陽が高いですが、ここで休みましょう。明日は、一気に遺跡まで行きます」


「蜘蛛の巣エリアだけでも抜けておいた方が良くないですか?」


「その先が、危険地帯になります。結界石で安全地帯を作っても、数百匹の魔物に囲まれたら終わりですね。

 留まりたくないのが理由になります」


 毎度のことながら、凄い情報量だな。

 まあいい。従った方がいいことは分かっている。

 俺は頷いた。


 それを見た華怜さんが、結界石を使った。


「また魔物の焼肉になりますが、大丈夫ですか?」


「あ、食べられる植物性の魔物がいますね。捕って来ます」


 そう言って、華怜さんが蝶のエリアに向かって行ってしまった。

 さて、俺は火の準備をしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る