第70話 進行3

 今は交互に寝てから、食事を摂っている。

 場所は塹壕跡を利用していた。結界石は、便利だな。


「翔斗さん。雷魔法を遠隔まで伝えることは、できますか?」


 ん? 何だろう?

 不意に言われた。


「もう少し、詳しくお願いします」


「実演した方が早いですね」


 そう言うと、華怜さんは、地面に剣先を突き立てた。

 その剣の先から、雷魔法が放たれる。

 一匹の蛇が地面を這うような形で、魔法が進んで行き、少しれた場所の岩に当たった。

 そして、その岩が割れた……。


「……凄いですね。そこまで自在に操れるなんて」


 今の俺ではできそうにない技術だ。

 俺の雷魔法の操作は、一方方向にのみ流れを変えるしかない。


「この技術に雷樹を組み合わせれば、視覚と聴覚へのダメージも減ると思いますよ? 雷鎚トールハンマーは、今のままでは使いづらくないですか?」


 ……なるほどね。さすが、上級職と言ったところだろう。

 俺に必要な技術ということか。それと覚えれば、雷鎚トールハンマーの応用の範囲が広がりそうだ。中距離に雷鎚トールハンマーが撃てるのであれば、命中の問題も解決できるかもしれない。


「理解しました。教えてください」


 華怜さんは、いい笑顔だ。





 とりあえず、塹壕跡を後にして、雑魚を居りながら森を進んで行く。

 全行程の半分は進んだと思う。

 華怜さんは、スキルを見せてくれるようになって来た。個人的な感想だけど、華怜さんは単独ソロ向きのスキルビルドの様だ。とにかく多才だ。

 近接のみならず、中長距離の遠隔攻撃、それとバフ・デバフ系のスキル……。何でもできると言っていい。回復がないくらいかな? まあ、薬品を大量に持っているので問題ない。

 今は、俺の動きに合わせて貰っているけど、攻撃力だけでも俺よりも上だし。

 いや、特執すべき点を上げるのであれば、機動力と体力なのかもしれない。


 華怜さんは、森林の木々を蹴って、縦横無尽に動いている。

 今は重鈍な俺に歩調を合わせてくれているけど、華怜さん一人の方が速く遺跡に辿り着けるんじゃないのかな?

 そう思えるほど、レベルが違う。

 それと、影魔法を習得しているので、魔石の回収も行ってくれている。

 自分の影を落とした所にある物は、影収納に収めてくれているんだ。この森の中の魔石は拾う価値があるみたいだ。

 俺は、華怜さんが足止めしてくれた魔物にハンマーを振るうだけ……。

 これだけでも、俺一人より10倍は効率が良さそうだ。



「……そろそろ陽が暮れますね」


 華怜さんが、木の枝から降りて来た。


「ここから先は、魔物が増えそうですか? 今までのように迎撃できるとは限らないのですが」


「昼間より、夜間の方が襲撃は多いのですよね……。魔物も変わって来ていますし」


 華怜さんが考え出した。


「……とりあえず、結界石にも予備はあります。今日は休みますか?」


「俺は日の出まで動けそうです。その後、結界術を使って数時間休めば、また動けるようになります。

 ただ……、囲まれるくらいの魔物が襲って来るので、その迎撃方法が決まっていないんです」


「まず、そこからですね。今日はここで足を止めて様子を見ましょう」


 俺に反対意見はない。

 華怜さんが、結界石を使用した。

 とりあえず俺は、保険として足元に結界術を展開した。これで万全だと思う。





 日が暮れると、魔物の大群が襲って来た。

 もう毎日同じだけど、今日は数が多過ぎる。結界石で安全地帯もあるのだけど、少しでも間引くことにした。

 とりあえず、ハンマーを振るう。


「……これ、どうしたら良いと思いますか?

 隠密スキルで抜けようかとも考えたのですが、囲まれてしまってスキルが解除されてしまいました」


「大規模魔法か、範囲攻撃があれば、対処できそうですけどね。

 地面に雷魔法を撃って、四方八方に電気を流すとかできませんか?」


 華怜さんは、目にも止まらない速さの剣で雑魚を屠っているけど、俺の質問にも答えてくれている。

 とりあえず、やってみるか。 俺は、地面をハンマーで叩いた。


 ──ボコ


「……」


 不発もいいところだ。ただ地面が陥没しただけとなってしまった。


「魔法はイメージですよ」


 それを見た華怜さんが、笑顔でアドバイスをくれる。


「……とりあえず、練習は襲撃の合間に行います。アドバイスをお願いしますね」


「了解です!」


 華怜さんは、屋敷で引き篭もっていた人と同一人物とは思えないほど、生き生きとしている。

 スイッチが入ったのかな? パーティーを組めなかったと言っていたけど、俺とであれば行動を共にできるんだろうか?


 まあいい。今は雑魚に囲まれている。とりあえず、掃討しよう。

 俺は、無心でハンマーを振るった。

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