第68話 進行1

 とりあえず、夜が明けたので警戒態勢を解いた。

 華怜さんも結界術の中に入って来てくれている。


「どうします? ここでも銀の認識票は手に入ります。

 目的の魔剣は、ここで待っていれば相手の方から来てくれるかもしれません」


「……いえ。遺跡まで行きましょう。

 銀の認識票を落とさないアンデットが増えて来ています。

 これは一度倒したということです。

 あの魔剣を装備しているアンデットは、遺跡付近まで行かないと動いてくれません」


 凄い情報量だな。


「この先に、塹壕跡があります。とりあえず、そこまで進みませんか?」


「……昔の先遣隊が全滅した所ですね。

 魔物の数が極端に多くなる可能性があります。

 あそこで立ち止まるのは、危険かもしれません」


「その先となると、蝶が飛んでいるエリアか……」


「……蝶と食虫植物のエリア? もっと危険ですね」


 頭をガリガリと掻く。


「え~と。その先となると、蜘蛛の巣の多いエリアですね。そして、猿の大群がいました」


「距離的に、そこまで進むのは無理がありそうです」


 結局は手詰まりなんだな。

 ここで華怜さんが、マジックバッグから何かを取り出した。影収納もあるのに、バックも持っているんだな。影収納に何かしらの問題があるのかもしれない。


「それは……、結界石ですよね?」


「結界石になります。上級が1個、中級が3個、低級が5個になります」


 女王蟻の時を思い返す。

 夜間の襲撃を避けられるのであれば、蜘蛛の巣エリアまでは問題ない。

 その先の猿のエリアは、俺と華怜さんであれば、迎撃できると思う。

 まあ、数の暴力は脅威だけど。

 その他の魔物も、まあ何とかなると思う。

 だけど、今使うべきか否か……。


「まだ、2回目なので焦っているのかもしれません。

 数に限りがあるアイテムをここで消費するのは、得策ではないと思います。

 一度、クレスの街に帰りましょう」


「帰って何をするのですか?」


「対策を練って、有効な技能石を貰うとか……」


 自分で言っていて分かってしまう。

 現状では、レベル上げ以外に有効な手段などない。


「遺跡までは、低級を3~4個使用すれば、無駄な戦闘をせずに行けると思います。

 残りは、ボス戦用ですね。

 クレスの街までの帰りは、必要ないかもしれません。保険に1個あればいいかな」


 まるで行ったことがあるような言い方だな。

 だけど、華怜さんがこの森に入るのは、初めてなはずだ。まあいい、置いておこう。

 今すべきことを考える。

 確かに今戻る意味はないかもしれない。

 影魔法が使えるようになる技能石も手に入れたけど、未使用のままだ。俺が、影魔法を覚えても何も変わらないと思ったからだ。

 結界石を使えば、遺跡に辿り着くことはできると思う。

 だけど、その先だ。

 先ほど、ボス戦と言った。

 遺跡で、手も足も出なかった巨大な骸骨を思い出す。

 それと、ゴブリン共だ。"任意の魔法が取得できる技能石"……。あれは、手に入れておきたい。

 それと、道中で〈スキル:空間障壁〉も手に入れた。

 同系の技能石が手に入る可能性もある。

 もしかしたらだけど、空間魔法の使い手だった過去の英雄は、複数の技能石を集めて"空間魔法"としたのかもしれない。


 それと、俺が華怜さんを知らないというのも問題だ。

 オーガを一蹴するほどの実力があることは分かった。だけど、今だにスキルは見せてくれない。

 拘束に土魔法を使用したくらいだ。


 ここから先に進むのであれば、万全を期したい。


 ──ピロン


 スマホが鳴った。

 華怜さんを見るが、止めには来ない……。今回は、神様からのセクハラではないんだろうな。


『もう遺跡付近じゃないと、レベルは上がりませんよ。神様より』


 ステータスを確認すると、レベルは15となっていた。

 確かにそうだ。ここで、毎日数百体倒してのレベル上げとなると、それこそ年単位の時間を費やすと思う。

 退路は確保したいけど、進むしかないか……。


「分かりました。進みましょう。結界石をお願いします」


 華怜さんが頷いた。

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