第67話 国の歴史

 暗闇から姿を現したのは、オーガだった。

 今は、多数の魔物に囲まれている。この状態で相手などできない。

 俺は、オーガを視認した瞬間に結界術の中に入っていた。


「華怜さん。今度は俺がサポートに回ります。結界術の中に入ってください」


「……いえ、大丈夫です」


 華怜さんは、そう言ってオーガに突撃した。


 ──ガキン


 耳障りな金属音が鳴った。高周波かな? その衝撃波で雑魚の魔物が体勢を崩す。

 もはや俺には、華怜さんの動きが見えない。

 これが華怜さんの本来の力か……。ステータスに差があり過ぎだ。

 オーガを見ると、次々に傷を負っていた。

 反撃とばかりに、斧の様な武器を振るうけど、華怜さんには当たらない。

 そればかりか、両腕を大きく切られて、武器を落とした。

 ここで華怜さんが、距離を取る。


 周囲を見渡すと、魔物は逃げて行ってしまっている。俺達と、オーガだけの状況になってしまっていた。

 一分にも満たない攻防だけど、状況は大きく変化してしまっていた。

 ちなみに俺は、何も出来ていません。


 華怜さんは、警戒を解いていない。獲物である日本刀を構えている。

 オーガを見ると、足元が崩されていた。

 どうやら、土魔法まで発動していたようだ。バランスを崩してからの連打か……。戦術の参考になる。


『どうする? 空間障壁でも発動してオーガの隙を作ってみるか?』


 だけど、スピードが違う。躱されて終わりだろうな。

 まずいな、俺が足手まといだ。できることがない。

 そんなことを考えていると、変化があった。


 オーガが後退したのだ。そのまま、森の闇に消えて行ってしまった。

 それを見た華怜さんが、武器を下げた。


「……良かったのですか? 討伐しなくて」


「……今は人族にも脅威になる者がいると思わせる程度で十分です。

 前にも言いましたけど、不干渉としたいのです」


 ……良く分からないな。


 その後、魔物による襲撃はなくなってしまった。

 少し警戒をしていたのだけど、華怜さんも結界術の中に入って来て、岩を椅子にして座った。

 ……少し聞いてみるか。


「この国の歴史に詳しいですか?」


「……まあ、多少は知っています」


「この地で起きた戦争については?」


「あ~。翔斗さんは何も聞かされていないのですね。

 どっちだろう? 知っておいた方がいいのかな? でも、クラウディア様は、話さなかったのですよね……」


「教えてください」


「……別の話からになります。

 先々王の時代に、領土拡大政策が執られました。ここは、人族の領土から見て南に位置するのですが、まず西に向かったそうです。そこで、亜人族と遭遇して領土の奪い合いになったそうです」


「なったそう? 断言できないのですか?」


「大惨敗だったそうで……、歴史として残されていません。先々王も病死になっていますしね」


「……亜人族は攻めてこなかったのですか?」


「攻めて来たみたいですけど、強固な防衛戦を行って侵攻は防ぎました。その後、絶縁状態になっています」


「分からないですね。戦争をして、痛み分け?」


「互いに得る物がないと判断したのですよ。

 亜人族は、深い森の奥を好みます。人族は、農耕の土地を探していました」


 開拓には不向きだったのかな?


「それで、今度は北と南に遠征です。

 あ、東は海ですので、大型船を作って外洋まで出たこともあります」


「クレスの街は、南なのですよね?」


 華怜さんが、頷いた。


「北と東の話は、置いておきます。

 先王の時代に南を調査したら、平地が見つかりました。今のクレスの土地になります。そこで、野戦陣営の設置から始まって、今は城塞都市にまで発展しました」


「……なるほど」


「それでですね。もっと南に向かったんです。そして、この森に入りました」


 この後のことは、想像できるな。


「この先に、塹壕跡がありました。そこに陣地を築いてこの森を調査したということでしょうか?」


「そうなります。この辺一帯、目視できる範用まで踏破したそうです。

 それこそ、東西南北に見える山の山頂まで行ったそうです」


「……すごいですね」


「地図は、大幅に広がりました。でもある日、調査隊が全滅しました」


「亜人族にでも攻められたのですか?」


「こればかりは、分かりません。襲撃を受けた跡だけが残っていたそうです。

 大規模な集団戦が行われたみたいです」


「オーガではなく?」


「……不明なんです。そして、森に飲み込まれた兵士の死体が、アンデットの魔物として確認されました」


「銀の認識票ですね」


「そうです。そして行方不明になった、先王の魔剣の回収依頼に繋がります」


 確かに話は繋がるが、不明点が多い。

 特に全滅に追いやられた相手が不明な点だ。神託を受けている華怜さんが知らないとなると、人族では誰も知らない事になる。


「求めている魔剣の特徴は分かりますか? 何も聞かされていないんです」


「……魔剣を装備すると、神託が受けられるそうです。いえ……、盗み聞きかな? 翔斗さんのスマホみたいな感じですかね。他人のメールを見れるとか」


「……人類に害が出るのでは? 回収しない方が良さそうなんですが」


 華怜さんが笑った。

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