第66話 二人旅3

「華怜さん。今日から森に入ろうと思います」


「は、はい!」


 俺は、まず呼び方を変えることにした。

 それと、華怜さんが顔を真っ赤にしたら、手を繋ぐことを提案した。とりあえず、赤面症(?)の克服からだろう。

 俺も気恥しいが、足踏みよりはいいと思った。


 目の前には、魔物の肉の串焼きが焼かれている。

 街を出てから数日の間、保存食ばかりだったので、ドロップ品の肉を調理することにした。

 でも、穀物も欲しいな。穀物を落とす魔物……いるのかな? 麦や米は無理にしても、芋ならいるかな……。森で蝶のエリアがあった。あの時に、植物系のモンスターを見かけた気がする。これも調査対象だな。


 調味料は街で購入済み。

 塩胡椒を振って、華怜さんに肉の串焼きを差し出した。

 華怜さんは、熟睡できたみたいだ。目の下のクマが消えていた。

 華怜さんが、肉を受け取って口に運ぶ。


「え? 美味しい!?」


 なぜ、驚く?

 俺も食べてみる。

 いい火加減だと思う。生焼けはないし、焦げもしていない。

 塩胡椒の分量は、人それぞれだ。少なければ後から足せばいい。

 多すぎない程度の分量とした。

 華怜さんを見る。二本目に取りかかっていた。良かった。気に入ってくれたみたいだ。

 それと、乾燥野菜も取り出した。

 これは、宿り木亭で俺が作った保存食だ。ビタミンとミネラルの不足を危惧して作っておいた。

 壊血病を避けるための手段でもある。まあ、果物も持って来ているので、大丈夫だとは思っている。


 華怜さんは、凄い勢いで食べている……。気に入ってくれたらしい。



「さて、行きましょうか」


「あ、あの。私だけいっぱい食べてしまったのですが……」


「必要以上に焼いたので、問題ないですよ。でも、全部食べ切るとは思いませんでした」


 また華怜さんが、顔を赤らめる。

 俺はため息を吐いて、手を握った。


「……ごめんなさい。私、大食感なもので」


「調理して貰った物を、"美味しい"と言って、いっぱい食べてくれるのは嬉しいものですよ?」


 華怜さんは、視線を逸らした。


「……両親と同じことを言ってくれるのですね」


 俯いてしまった。

 ……まったく分からない。なんと言って欲しいんだろうか?

 華怜さんが、落ち着くまで手を握る。

 その後、俺達は森に入った。





 森の中からも東西南北に高い山が見える。

 時々視界が遮られる場所がある場合は、樹頭に登り位置の確認を行う。

 逐次、自分の位置を確認しながら、森を疾走した。


 今俺は、〈スキル:隠密〉を発動させていない。

 たまに、魔物とエンカウントするけど、それらは華怜さんが屠ってくれている。

 体調万全の華怜さんであれば、森の外周部の魔物など雑魚なんだな。

 いいペースで進むことができた。



「あ! ここだ……」


 見慣れた大きい岩があった。

 前回俺が引き返した場所に辿り着いたんだ。

 俺の独り言に反応したのか、華怜さんが寄って来た。


「ここに何かありますか? もしくは、あの岩ですか?」


「前回は、ここまで来ました。ここから、魔物が強くなるみたいです。

 俺の〈スキル:警報〉が、前回はここまでと判断しました」


 大きい岩の前で、立ち止まった。

 華怜さんは、何かを考えている。


 その間に、俺は周囲を見渡した。


「戦利品が落ちていない……」


 魔石や、折れた剣、壊れた鎧すら落ちていなかった。

 かなりの数をここで迎撃したのだけど……。違和感がある。森が、吸収したのか?

 もしくは、魔物が持ち帰った可能性もあるな……。

 考えていると、華怜さんが口を開いた。


「……日も暮れそうですし、今日はここで迎撃を行いましょう」


 俺は華怜さんに頷いて、結界術を発動させた。





「数が多いだけで、魔物の代わり映えはしないのですね」


 華怜さんの感想だった。まあ、俺もそう思う。

 魔物は、華怜さんが拘束してくれている。索敵も精度が高い。

 俺は余裕があるので、考えながら、ハンマーを振るった。


「ここから先が問題みたいです。それと、俺の〈スキル:警報〉がなにか言っています。

 危ない魔物が近づいているのかもしれません」


「……いえ、デバフ系に気を付ければ、問題ないかな?

 危なそうな魔物が出てきたら、翔斗さんは結界術の中に入ってください。

 その場合は、私が前に出ます」


 まあ、そうなるか。

 正直、ここの魔物であれば、華怜さん一人でも問題ない。


 次々に迎撃を行って行く。

 連携の精度も上がって来た。順調に討伐数を稼いで行く。

 その時だった。

 俺の〈スキル:警報〉が鳴った。

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