第65話 二人旅2
とりあえず、日暮れ直前に森の外に移動できた。
だけど、ここで魔物に囲まれる。
「……半分がアンデッドですね。とりあえず、倒して行きましょうか」
「戦術は?」
「俺は、魔法攻撃力と魔法防御力のみです。脳筋アタッカーと考えてください。
連携してくれるのであれば、足止めをお願いします。デバフ全般を期待しています」
「分かりました」
華怜さんは、嬉しそうだな。
聞いた話では、オールラウンダーだったと思う。でなければ、
さて、どうなるか……。
俺は、近づいて来たスケルトンにハンマーを振るった。
◇
朝日が昇った。アンデットや魔物共が帰って行く。
土御門さんは、土魔法で足止めをしてくれた。地面を砂にしたり、沼にしたり、アンデットの下半身を土で固めたりもしてくれた。多分だけど、討伐系スキルでは何一つ勝てないと思う。魔法もスピードも俺とは、段違いだ。
しかし、これで俺も安全に討伐が行える。結界術も空間障壁も必要ない。
それと、土御門さんはドロップ品を〈影収納〉で回収もしてくれた。
闇魔法の技能石があったので、一個貰う。とりあえず、これも保留としてマジックバッグへ。
しかし、土御門さんは優秀だな。
俺が受けた指名依頼だけど、土御門さん一人でも達成できそうだ。
いや、口に出すのは止めよう。また、拳が飛んで来そうだ。
「ふぅ~……。俺はこの後少し眠ようと思うのですけど、土御門さんが先に寝ますか?
結界術があるので、この草原であれば、完全な安全地帯を作れると言えます」
「私は、見張りをしていますね。先に休んでください」
「寝なくても大丈夫なのですか?」
「まあ……。2~3日くらいなら」
すごいなこの人……。
◇
交互に寝て、昼に食事を摂る。
このままだと、一日一食になってしまうかもしれない。
一人でのキャンプであれば、気にもしなかったけど、生活リズムは考えて行こう。
とりあえず、マジックバッグから保存食を取り出して食べる。土御門さんも食べている。
ここで、聞いてみるか。
「オーガって何だと思いますか?」
「え?」
ずっと考えていた質問をしてみた。回答は期待していないけど、土御門さんであればと言う期待はある。
土御門さんは、少し考えてから答えてくれた。
「……魔物の進化の終焉。知性を持った魔物……、と言ったところでしょうか」
「警戒はした方がいいと聞いたのですが、討伐した方がいいですか? 俺は二体倒しています」
「いえ……。関わり合わないのが最善です。
棲み分けができると、神様が喜ぶかもしれません。
それと、怒らせて群れで来られたら、クレスの街は一日も持たないでしょうね」
……群れか。それだけの数がいるんだな。
そんな話をして、今日は先に寝て貰うことにした。
◇
二人旅を始めてから4日目の朝日が昇った。
土御門さんは、疲労困憊と言った感じだ。初日の動きは、もはや見る影もない。
俺は、結界術を発動させて安全地帯を作った。
「食事は後にして、とにかく寝てください」
「……はい」
大丈夫だろうか? 不眠症みたいだけど、このままでは森に入れない。
──ピロン
スマホが鳴ったので、見ようとしたら止められた。ガッシっとスマホを鷲掴みにされたんだ。
血走った眼が怖い……。
今日は見て欲しくない内容なのか。
「……分かりました。今日は見ません。とにかく寝てください」
俺もスマホを握り潰されたくないし。
「……お願いがあります」
ん? 何だろう?
「聞ける範囲でお願いします」
「肩を貸してくれませんか? それと、手を……」
何だろう? どういう意味だ? 本当に分からない。少し考える……。
とにかく、今は土御門さんを寝かさなければならない。
まず俺は、倒木を椅子代わりにして座った。その後、土御門さんの手を引っ張って隣に座らせる。
左手で、髪を撫でて、土御門さんの頭を俺の肩に乗るように傾けさせてみた。
それと、右手で土御門さんの手を握った。
『嫌がっていないし、これでいいのかな?』
土御門さんが、恋人繋ぎをして来た。結構恥ずかしいが、拒否はできない。
一分ほどだろうか。その状態で固まっていると、土御門さんの力が抜けたのが分かった。
そして、『スースー』と寝息が聞こえて来た。
「……父親にでもなった気分だな。幼児を寝かしつける感覚だよ」
そして、この状態を維持しろというのかな?
今俺の心臓は、高鳴っているのだけど。かなり緊張している。
そっと、寝顔を見る。
とても、綺麗な女性が無防備で俺の肩で寝ている。意識してしまった。
『むず痒い……。異性の心を読めるようになれと言われても、この状態をどうしろというんだろうか?』
土御門さんは、熟睡できているようだ。
マジックバッグより、寝袋を出して、その上に寝かせる。
そして、毛布をかけてあげた。
とにかく、静かに。起こさないように……。
ゆっくりと繋がれた手を離す。
「ふぅ~。緊張した」
これから、毎日この繰り返しになるのかな?
俺自身が耐えられるのか、自信がない。
いや、触られるのは嫌だけど、華怜さんから触るのは安心するということだろう。
ここは、自制心を求められる場面だと思う。
指名依頼の達成のためにも、何より"元の世界に帰る"という俺の本来の目的のためにも、この人は手放せない。
一時的な欲求で、破滅する気などない。
ため息を吐いて、スマホのメールを開く。
『キスぐらいしてあげては? そうすれば、熟睡できるようになりますよ。神様より』
これが、神託かよ……。土御門さんと出会ってから下ネタしか来ないのだけど?
土御門さんが、哀れで仕方がない。
ため息が出た。
「二人旅か……」
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