第64話 土御門華怜1

◆土御門華怜視点



 とりあえず、3時間ほど翔斗さんが寝て、次に私が寝る番になった。

 マジックバッグより寝袋を取り出して、潜り込むようにして体を隠す。


『先日、あんなこと言っちゃったし、襲われても文句言えない状況なんだけど……』


 心臓の音が、とても高鳴っている。

 こんな状態で眠れるわけがない。

 寝袋から顔を出し、チラッと、翔斗さん見る。瞑想しているようだ。

 分かっている。

 そんな人ではないということを……。自分にも他人にも厳しく、節度ある行動を取る人なんだ。

 でも、期待してしまう私がいる。


『こういう場合はですね。後ろからそっと抱きしめるんですよ』


『うるさい! 駄女神ぃ!!』


 神様からのありがたくない神託が来た。

 どうにかして、この神様からの過干渉を遠ざけたい。

 そもそも、神託者とはなんぞや?

 まったくもって、ありがたくない突っ込みしか来ないのだけど……。

 前世の知識では、世界を変える人のことじゃなかった?


『翔斗さんを紹介したじゃないですか。あなたには、もったいないくらい良い人なのに』


 分かっている。目の前には、ハイスペックイケメンがいる。そして、相手から二人きりになる状況を作って貰ったんだ。

 この出会いが、私の人生を変えてくれる。最後の希望の人と思っていい。


『超優良物件なのは分かりましたけど、異性に対して厳しすぎですよ。もうちょっと優しくしてくれれば、デレることもできそうなんですけど……』


『そんなこと言って、前に異性の股間を蹴り上げたのは、誰でしたか?』


 うっ……。嫌な思い出が浮かんだ。

 この世界には、レベルがある。そして、私はサバイバルを経て人里に降りた時には、高レベル者だった。

 複数に襲われても、迎撃できてしまうスキル構成も持っている。

 何人か再起不能……、までは行かなくても、それなにり痛い思いをさせて街から追い出したこともある。


 いざと言う時に、拒んでしまう私が嫌になる。


『……翔斗さんは、異性の経験が豊富なのですよね。二人旅になっても全然動揺しないし』


『う~ん。友人は多かったかもしれませんが、他人と一線を引くところがありましてね。彼女とかはいませんでしたよ。家の問題もありましたしね』


『本当ですか? 信じられないのですけど……。あれだけ社交性があって、恋人がいなかったって……』


『あまり言いたくはないのですけどね。……顔に大きな傷がありました。見た目を気にする人は、それだけで離れて行ってしまっています。

 学業は、出席日数ギリギリでも全教科平均点以上取れいています。運動神経も抜群でした。モテてはいますよ。

 それと、極めつけはお弁当ですかね。両手に怪我を負っていたのですが、主婦顔負けのお弁当を自作していて。まあ何と言うかスキがなかったのですよ。

 異性受け、同性受けは良かったのですが、孤高でしたね』


 ……ちょっと怖いかもしれない。

 私と釣り合うんだろうか。


『それと、アドバイスです。なるべく我がままを言わない方がいいですよ。

 とても厳しい人なので、必要と判断されたら襲われることもあると思ってください。まあ、捨てられることはないでしょうけど……』


 それは感じている。

 街中での、『先に宿屋に行きますか?』は、本気だったと思う。

 あの時、無理に手を振り解いたらなにをされていたか……。


『……翔斗さんは、私の事どう思っていますか?』


『ぶ~。NGです。教えられません』


 ぐ……。必要な情報を得られない神託に意味などない。


『ダメですよ。自分の口から聞いてください』


 そんなことは、当たり前だ。魔法のある世界であろうと、ズルをしていい理由などない。

 ずっと失敗し続けたんだ。もう、嫌というほど味わった。

 もう、独りの部屋には戻りたくない。


『……翔斗さんの"願い"ってなんですか?』


『……まあ、いいでしょう。"元の世界に帰る"ことです』


 ……そっか。さっき家族の話もしたんだ。大事なものを持っている人なんだな。

 嫌なことから逃げ出したいだけの私とは正反対だ。



 寝袋から顔を出して、もう一度翔斗さんを見る。


『……かっこいいな~』


『うかうかしていると、取られちゃいますよ? ライサとだって良好な仲なんだし。

 今の状況が何時までも続くとは思わないでくださいね』


 分かっている。

 でも翔斗さんを、体で繋ぎ止めることはできないと思う。

 あさましい自分が嫌になる。


 再度、布団を被った。

 深呼吸をする。

 今は、寝なければならない。

 見捨てられたくない。


 とにかく今は寝よう。体調を万全にして期待に応えよう。今はそれだけでいいはずだ。

 翔斗さんの個人指名の依頼の手伝いを完璧に行って、その後もパーティー継続させるのだ!



 私は、目をぎゅっとつむった。

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