第63話 二人旅1

「神様から、説教されました。それも延々と……」


 まあ、そうなるだろうな。

 土御門さんのこの世界に来てからの行動は、俺も問題があると思う。


「そして、翔斗さんを紹介されました。

 不器用な性格でも、他人の期待に応えて、信頼関係を築いて行く人だって。

 パーティーを組むようにも言われました。行動を共にして学べと。

 どんな方法を取ってでも、パーティーを組めと……。

 そうしないと、ペナルティーが発生して、この世界での生活に支障をきたすと脅されたりもしました」


 ペナルティ? 俺は聞いていないぞ?

 俺にも問題のある行動はあったはずだ。だがそれは、家族への送金額が減るだけだったと思う。

 契約内容と先ほどから言っているから、その辺が関係しているのかもしれない。


「それで、辺境都市クレスに来たのですね」


 土御門さんは、頷いた。


「王都で、クラウディア様の陣営に加えて貰いました。

 本当であれば、王都で貴族の護衛からだったのですが、私は魔物狩りくらいしかできなかったもので……。

 無理を言ってクレスに行かせて貰う事にしました。

 そして、翔斗さんと出会えたのです。まあ、神様のお導きですね。意味がかなり異なりますけど」


 なぜ個人で会いに来なかったんだろうか? それと、"クラウディア様の陣営"?

 神様経由での紹介でも良かったと思うのだけど。

 土御門さんの行動は理解できない。かなり遠回りしながら、この世界で生活をしているんじゃないのかな?

 神様が、導いている? 目的は何になる? 別に何かある?

 いやそれで、神託者に選ばれた? 余りにも不器用だから、常にダメ出しされている?

 土御門さんの言動は、俺には理解できない。余りにも効率が悪い。


「経緯は分かりました。土御門さんの問題点も。

 それと、始めの話に戻りますが、俺は肥満の女性でも友人にはなれると思いますよ?

 髪の薄い人や、歯並びの悪い人とも会いました。誰しもがコンプレックスは持っていると思います。

 外見とコミュ力は、関係ないというのが俺の見解です」


 土御門さんは、黙ってしまった。

 正論をぶつけられたのだ。そして、コンプレックスを克服しても生活は変わらなかった。


「まあ、神様からの紹介なのです。喧嘩別れしないことを念頭に置いて、互いに注意しながら行動を共にすればいいかと思います。

 それと、俺の欠点も把握しているのですよね?」


「……翔斗さんの悪い点は聞いていますが、私には欠点とは思えません。

 『異性の心を読めるようにしてあげてください』とのことでした。その……、私から友好関係も良好な翔斗さんに教えることなどないと思うのですけど……」


 ──ピロン


 ここでスマホが鳴った。

 ……。正直、見たくないな。

 土御門さんを見ると、固まっている。今回は見てもいいということだろう。

 少し躊躇って、カバンからスマホを取り出し、嫌々メールを開いた。


『末永くよろしくお願いしますね。神様より』


 ……どういう意味だよ。


「とりあえず、休みましょうか。俺が先に寝ますね」



 結界術を張って寝袋に入る。結界術に触れる物があれば、寝ていても感知できる。

 横になって、眠りに着く前に思ってしまった。


 俺と土御門さんは、正反対と言ってもいい。それでも、引き合わせられたんだ。

 互いの欠点を補うため……、なのだろうな。

 土御門さんは、神様からの過干渉が酷い。俺と比べればだけど。それだけ期待されていると考えるのがいいと思う。

 神様が俺達に何をさせたいのかは分からない。

 国宝となる魔剣の回収が終わっても、パーティー継続が希望と言っていたけど。


 俺も土御門さんに学ばなければならい事がありそうだし……。

 それと、異性の心か……。正直、恋愛感情は面倒だ。

 色々と思考を巡らせていたけど、そこで眠りに着いた。





 とりあえず、交互に3時間ほど寝た。

 この森では、午前中の襲撃が少ないので、今はまだ陽が高い。

 そして、陽が暮れるとアンデットが出て来る。今の内から準備をしたかった。したかったのだけど……。


「土御門さん。まだ時間はありますので、寝ていてください」


「……大丈夫です。行けます」


 一睡も出来なかった顔をしている。目の下のクマが酷い。

 ため息を吐く。


「一度、クレスの街に帰りましょうか?」


「大丈夫です!」


 これから12時間程度、襲撃があるんだ。

 体調は万全でなければならない。


「本当に死にますよ?」


「っ……」


 土御門さんの力が抜けた。諦めてくれたようだ。


「先ずは、キャンプに慣れましょう。"枕が変わったら眠れない"で、怪我したら元も子もないですからね。

 しばらくは、森の前の草原でキャンプですかね。野営に慣れてから森の奥に進みましょう」


 ここで、土御門さんの顔が真っ赤になった。頬を膨らませる。


「私だって、ーヵ月間草原を彷徨ったのですよ! キャンプが苦手というわけではありません!」


 そうなのか?


 ここで、俺も意識してしまった。

 あ~、そういうことか……。俺が鈍感過ぎたか。


「言い方を間違えましたね。二人旅に慣れましょう」


 ここで土御門さんの正拳突きが、俺の顔面を襲った。あまりの速さに反応できなかったのだ。

 マジで、ステータスに差があり過ぎる。AGI値を見直そう……。

 吹き飛ばされながら、少し後悔した。

 ちょっと、デリカシーがなさ過ぎたな。



「ご、ごめんなさい」


 さて、どうしようかな。

 フラフラの頭で考えながら、移動することにした。森の外へ……。


 土御門さんとは正反対の性格だけど、相性が良いかと言われると微妙といえそうだ。

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