第62話 昔の話2
頭が付いていかなかった。
あまりにも予想外過ぎる。
身長は良いけど、体重は肥満と言えると思う。
「……少し、大きすぎますね。重すぎかな?」
「……少しじゃなんですよ。医者に『死ぬよ』って言われたので」
それは病気じゃないのかな? 合併症が起きるほどの体格ということか?
「私も……、いえ、私は前の世界では普通ではない生活を送っていました。
小学校の頃にいじめを受けて、引き篭もりです。
親は、甘やかせてくれて、体重だけは順調に増えて行きました。
引き篭もり期間は……、五年以上に及んで……。
それで体調を崩しての、入院です」
引き篭もりか……。まあ、多少は聞いたことがある。
会ったこともない同級生もいたしな。
「奮起はしなかったのですね……」
「閉ざされた空間が、心地良すぎて。
親も甘えさせてくれるし……。でも、病院で外の世界を知ってしまいました。
私は、ダメ人間だったんだなって」
同情は出来ないな。逃げただけの人だ。
「それで、ダイエットをすることにしました。人目に触れない夜間に数時間歩くだけだったんですけど……」
ほう……。そこは感心出来るな。
「そんな時に、事故に巻き込まれて、神様に会いました。
私の提示した条件は、"美しく強い肉体が欲しい"でした……」
なるほどね。まあ、女性なら当然の望みだと思う。
「……希望は叶ったのですよね?」
「……はい。どんなに食べても太らない体。老いもしないみたいです。
この世界に来た時点では、喜んでいました……」
含みのある言い方だな。
「なにか不都合でもあったのですか?」
「……転移場所は、危険地帯でした。この森ほどの脅威度はなくても、絶叫を繰り返して逃げ回っていました」
土御門さんも、いきなりの危険地帯か……。
本当に転移場所はランダムなんだろうか? 商業ギルド長のユージさんは、『期待されている』と言っていた。
検証は出来ない内容だ。だけど土御門さんは、この世界で大成している。
どちらとも取れないな。
「追いつめられて……、初戦で大型の昆虫を倒せたのです。無我夢中でした。錯乱してたのかもしれません。
落ちていた石を拾って、殴りつけて……。
いえ、幸運だった……のかな?
でも、引き篭もりからいきなりのサバイバル生活です。やっぱり、無理があって……」
「……良く生き延びましたね」
「キノコを食べて痺れたり。毒蛇に噛まれたり。生水を飲んでお腹壊したり……。
一ヵ月程度だったと思います。とにかく草原を移動し続けて、街に辿り着けました」
血の気が引く……。すげぇな、おい。
俺は、とにかく怪我や病気には気を付けた。即詰みになると思ったからだ。
切られたので回復魔法すら取ったほどだ。
この話からすると、方向すらも適当に進んだんだろう……。
本当に知識のない人が、サバイバルしたんだろうな。
「想像を絶しますね。どんな道程だったも想像できませんよ」
「嬉しかったんです。綺麗な顔とスタイルを手に入れられて……。
心の底から"この体で死にたくない"って思えました。この体で生きて行きたいって。
でも、街に着いてからは、思うように行かなくなりました……」
「え?」
「……他人の視線に耐えられなかったんです。それと、厳しい言葉にも。
私に必要だったのは、容姿やスキルじゃなくてコミュニケーション能力だったんだって。気が付くのに一年かかりました」
ため息しか出ない。
「俺の同級生にも、肥満で悩んでいる人はいました。
でも、笑顔で生活していましたよ? ある人は、柔道部の主将もしていました。
いきなり、容姿の話から入ったから何かなと思ったのですが、コンプレックスを克服しても上手くいかなかったのですね?」
土御門さんは、小さく頷いた。
「言い寄って来る男性は、体目当てだったり。同性は、お金を毟り取ろうとして来たり……。
いい人間関係が、築けなかったんです。
……サバイバルを行ったので、レベルはカンストしていました。
良かった点を上げるのであれば、長いこと中級職に上がらなかったことですね。何処のギルドとも安易には契約しませんでした。
猜疑心の塊……。私の悪い点が、この世界で私の行動を慎重にしてくれました」
慎重なのは良いんだけど、猜疑心の塊か。
「幸いにも、レベルは高かったので、生活には困らなかったです。ユニークスキルも強力でしたし。
一人で魔物を狩り、素材を売って、家を買いました。そして、また引き篭もる……。
本当は、バーティーを組んで冒険するのが、楽しいことなんだって分かっていたんですけど……。できませんでした。
結局は、何年も
生活できているのであれば、誰からも文句を言われることはなかったと思う。
でも、土御門さん自身が、引き篭もりの生活から抜け出したかったんだろうな。
そして、できなかった……と。
それと、どこのギルドとも契約しなかったのは俺と同じだが、上級職もか。
土御門さんは、破格の待遇なのではないだろうか?
「そんな時でした。街が滅んだんです。
城門が破られて、魔物が街に侵入して来て……。私は逃げました」
少し嫌悪感を持ってしまった。
土御門さんは、戦える人であるはずだ。戦えない人を守るべきだったと思う。
最終的に逃げるのはいい。だけど、力ある人が戦いもせずに逃げるのは、道徳に反していると思う。
「それで、別の街に落ち延びたのですが、そこで神様と再会しました」
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