第60話 再出発
また少し待っていると、ライサさんと土御門さんが部屋に入って来た。
土御門さんは、下を向いている。
ライサさんが、ため息を吐いてから口を開いた。
「ショート。待たせたね。それじゃ頼んだよ」
「分かりました。それでは行きましょうか」
「あの……、今日はこの後何処に行くのでしょうか?」
土御門さんだけが、分かっていないようだ……。
まあ、強引に部屋から連れ出したのだし、そうなるか。
「……今から森に入る予定です。同行してくれるのですよね?」
「え? え~~?」
残念と言うか、面倒な人だな、この人。
◇
今俺は、土御門さんと二人で街中を歩いている。
ライサさんには、街に残って貰うことにした。呪いを受けた傷の完治を目指して貰うことにしたのだ。
同行はそれからだと言うと、笑ってくれた。
まあ、動きが悪いのは見れば分かる。機動力重視のライサさんが、脚に大怪我を負ったんだ。
ポーションで回復させたのだけど、運動機能はまだ戻っていないと思う。
実績も経験もある人なんだ。俺に付き合わせて、無駄死にはさせられない。
運動機能が戻らなければ、護衛として生きて行って欲しいとも思う。
「あ、あの……」
少し思案していると、声をかけられた。
土御門さんを見る。
「なにか質問ですか?」
「……手を離して貰えないでしょうか? その……、人目が気になって」
今俺は、土御門さんの手を握って歩いてる。……離して欲しいのか。
嫌がられているのか?
「街から出たら、離しますよ? 俺は、スピードがないので、逃げられると捕まえられません。
なので街中では、手を繋いで貰います。これは、強制です」
「その……。噂とかが立ったりしたら」
「……森よりも先に宿屋に行きますか? 相手してくれるのですよね?」
土御門さんは、更に顔を赤くして下を向いてしまった。
今手を離したら、本当に逃げられそうだ。
その後、城壁の衛兵からジロジロと見られながらクレスの街から出た。
街から少し離れた所で、手を離す。
土御門さんは、力が抜け切ったように座ってしまった。
「これから魔物の討伐ですが、できそうですか?」
「……はい。でも、少し時間をください」
土御門さんが、体育座りになり固まってしまった。
何か考えているのかな? 気持ちの整理?
──ピロン
ここでスマホが鳴ったので、見ようとしたら土御門さんに止められた。
真っ赤な顔と血走った眼で俺を見ている。
正直、怖いなこの人。俺よりもレベル高いし。
「行けますか?」
「……スマホを見ないでくれるのであれば、行けます!」
「……では行きましょう」
俺は、スマホをマジックバッグに入れた。
◇
その後は、順調だった。
土御門さんは、戦闘のスイッチが入ると人が変わったように生き生きし出した。ライサさんと同じタイプだな。悪い時の状態は違うけど。
土御門さんは、近接のみならず、中長距離の攻撃も可能なようだ。索敵の範囲も広い。
俺は何もせずに、ただ歩くだけになってしまった。
「魔石は回収しなくていいのですか?」
気になったので質問だ。
「街にいる低レベルの人達が拾うでしょう。初心者ギルドメンバーの仕事にもなりますしね。森に入るまでは、回収しません」
なるほど、考えているんだな。
スイッチが入った土御門さんは、実に頼もしい。屋敷でのことは、忘れてあげよう。
ここで、蟻が出て来た。ラージアントだ。
俺は、ハンマーを構えたのだけど、次の瞬間にラージアントの脚が吹き飛んでいた。
今の俺には、土御門さんの攻撃すら見えない。
それと動けないラージアントが、俺の目の前で痙攣している。
「翔斗さん。
断る理由もないので、俺はラージアントを吹き飛ばした。特大の魔力でもって。
煙が晴れると、パリパリと放電の音が聞こえる。無職の時よりも威力は上がっていそうだ。
それと、オーバーキルも良いとこだ。ラージアントは、粉微塵だ。
とりあえず希望を叶えたので、俺は土御門さんを見た。
「……どう思いますか?」
「まず、スピードがないですね。ハンマーを振るのが遅すぎます。でも良いのかな……。拘束系の魔法が使えれば、不要とも取れます。それよりも、もう少し威力を高めて欲しいですね。
それと、雷樹は確認できました。自然現象を操って威力の嵩上げですか。よく思いつきましたね」
お、おう?
「オーバーキルじゃないですか?」
少し驚いた。これでも威力が足らないというのか?
「私の知っている魔物ですが、今の攻撃力では、削り切れないほどのHPを持っている魔物がいましたよ?
翔斗さんには、上を目指して貰いたいので、早めに上級職と組めるスキルビルドを考えましょう」
……土御門さんは、どんな討伐を行っていたんだろうか?
それと、追い詰められた時に発現したスキルなので、考えてはいなかったりする……。
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