第60話 再出発

 また少し待っていると、ライサさんと土御門さんが部屋に入って来た。

 土御門さんは、下を向いている。

 ライサさんが、ため息を吐いてから口を開いた。


「ショート。待たせたね。それじゃ頼んだよ」


「分かりました。それでは行きましょうか」


「あの……、今日はこの後何処に行くのでしょうか?」


 土御門さんだけが、分かっていないようだ……。

 まあ、強引に部屋から連れ出したのだし、そうなるか。


「……今から森に入る予定です。同行してくれるのですよね?」


「え? え~~?」


 残念と言うか、面倒な人だな、この人。





 今俺は、土御門さんと二人で街中を歩いている。

 ライサさんには、街に残って貰うことにした。呪いを受けた傷の完治を目指して貰うことにしたのだ。

 同行はそれからだと言うと、笑ってくれた。

 まあ、動きが悪いのは見れば分かる。機動力重視のライサさんが、脚に大怪我を負ったんだ。

 ポーションで回復させたのだけど、運動機能はまだ戻っていないと思う。

 実績も経験もある人なんだ。俺に付き合わせて、無駄死にはさせられない。

 運動機能が戻らなければ、護衛として生きて行って欲しいとも思う。


「あ、あの……」


 少し思案していると、声をかけられた。

 土御門さんを見る。


「なにか質問ですか?」


「……手を離して貰えないでしょうか? その……、人目が気になって」


 今俺は、土御門さんの手を握って歩いてる。……離して欲しいのか。

 嫌がられているのか?


「街から出たら、離しますよ? 俺は、スピードがないので、逃げられると捕まえられません。

 なので街中では、手を繋いで貰います。これは、強制です」


「その……。噂とかが立ったりしたら」


「……森よりも先に宿屋に行きますか? 相手してくれるのですよね?」


 土御門さんは、更に顔を赤くして下を向いてしまった。

 今手を離したら、本当に逃げられそうだ。

 その後、城壁の衛兵からジロジロと見られながらクレスの街から出た。


 街から少し離れた所で、手を離す。

 土御門さんは、力が抜け切ったように座ってしまった。


「これから魔物の討伐ですが、できそうですか?」


「……はい。でも、少し時間をください」


 土御門さんが、体育座りになり固まってしまった。

 何か考えているのかな? 気持ちの整理?


 ──ピロン


 ここでスマホが鳴ったので、見ようとしたら土御門さんに止められた。

 真っ赤な顔と血走った眼で俺を見ている。

 正直、怖いなこの人。俺よりもレベル高いし。


「行けますか?」


「……スマホを見ないでくれるのであれば、行けます!」


「……では行きましょう」


 俺は、スマホをマジックバッグに入れた。





 その後は、順調だった。

 土御門さんは、戦闘のスイッチが入ると人が変わったように生き生きし出した。ライサさんと同じタイプだな。悪い時の状態は違うけど。

 土御門さんは、近接のみならず、中長距離の攻撃も可能なようだ。索敵の範囲も広い。

 俺は何もせずに、ただ歩くだけになってしまった。


「魔石は回収しなくていいのですか?」


 気になったので質問だ。


「街にいる低レベルの人達が拾うでしょう。初心者ギルドメンバーの仕事にもなりますしね。森に入るまでは、回収しません」


 なるほど、考えているんだな。

 スイッチが入った土御門さんは、実に頼もしい。屋敷でのことは、忘れてあげよう。

 ここで、蟻が出て来た。ラージアントだ。

 俺は、ハンマーを構えたのだけど、次の瞬間にラージアントの脚が吹き飛んでいた。

 今の俺には、土御門さんの攻撃すら見えない。

 それと動けないラージアントが、俺の目の前で痙攣している。


「翔斗さん。雷鎚トールハンマーを見せてください」


 断る理由もないので、俺はラージアントを吹き飛ばした。特大の魔力でもって。

 煙が晴れると、パリパリと放電の音が聞こえる。無職の時よりも威力は上がっていそうだ。

 それと、オーバーキルも良いとこだ。ラージアントは、粉微塵だ。


 とりあえず希望を叶えたので、俺は土御門さんを見た。


「……どう思いますか?」


「まず、スピードがないですね。ハンマーを振るのが遅すぎます。でも良いのかな……。拘束系の魔法が使えれば、不要とも取れます。それよりも、もう少し威力を高めて欲しいですね。

 それと、雷樹は確認できました。自然現象を操って威力の嵩上げですか。よく思いつきましたね」


 お、おう?


「オーバーキルじゃないですか?」


 少し驚いた。これでも威力が足らないというのか?


「私の知っている魔物ですが、今の攻撃力では、削り切れないほどのHPを持っている魔物がいましたよ?

 翔斗さんには、上を目指して貰いたいので、早めに上級職と組めるスキルビルドを考えましょう」


 ……土御門さんは、どんな討伐を行っていたんだろうか?

 それと、追い詰められた時に発現したスキルなので、考えてはいなかったりする……。

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