第59話 引き篭もり

 この数日間は、クレスの街から出て、魔物狩りを行っていた。

 しかし、レベルは上がらない。やはり、雑魚を狩っても経験値にはならないみたいだ。

 次のレベルまで数字で確認できると楽だったのだけど、ないものねだりだな。

 夜が明けたので、魔石と素材を回収してクレスの街に帰ることにした。


 商業ギルドで、素材の換金を行う。早朝に換金の依頼を出すのは俺だけみたいだ。

 ここで、商業ギルド長のユージさんが来た。

 俺の前に座る。


「……ショート殿。この数日間、なにをしていた? 宿屋にもいなかったよな?」


 挨拶もなしの突然の質問だ。こんなことは、初めてだな。居場所を聞かれるとか……。思い当たる節がない。


「街の外で魔物を狩っていましたよ? 何か問題がありましたか?」


「クラウディア様が、探しておられたぞ?」


 また? そう頻繁に呼び出されてもな……。


「何か問題がありましたか?」


「あ~……。新しく上級職の人が来ただろう? その人の件で困っているのだそうだ。

 この後、クラウディア様の所へ行って貰えないだろうか?」


 土御門さんのことだよな?

 トラブルでもあったんだろうか?

 それと、今日はユージさんが内容を知っているんだな。それを言わない理由……。


「分かりました。行ってみます」


「助かるよ……」


 助かる?

 ユージさんが頭を下げて来た。本当に困っていそうだ。





 クラウディア様の屋敷に着いた。その光景に少し驚く。

 大きな屋敷なんだけど、一角が吹き飛んでいたのだ。

 何があったんだ? それと、修理中みたいだな……。


 俺を見つけた、衛兵が駆け寄って来る。

 その後、急いで屋敷に案内された。

 少し待つと、クラウディア様とライサさんが部屋に入って来る。

 俺は頭を下げて、一礼した。


「俺は考えが纏まらなかったので、街の外で魔物を狩っていたのですが、何かありましたか?」


「あの後、カレンさんが泣き出してしまって……。その後魔力の暴走が起きてしまいました」


 え? 暴走?


「土御門さんは、今何していますか? いえ、怪我していませんか?」


「……部屋に閉じ篭っています。もう数日出て来ません。引き篭もりです」


「……案内してください」


 その後、ライサさんに土御門さんの部屋まで案内して貰った。

 ちなみに、クラウディア様は政務が忙しいとのことで戻って貰う。


 ドアをノックするが、返事がない。

 俺は、メイスを抜いて、ドアノブを叩き、ドアを破壊した。


 ──バキ


「ちょっ!? ショート、何してるんだい?」


「失礼します」


 ライサさんの制止を聞かずに、ドアを開ける。


「え?」


 土御門さんと視線が合った。

 土御門さんは、ネグリジェ姿だ。薄着なのだな。下着が透けて見える。扇情的な衣装だ。

 それと、土御門さんの顔が真っ赤になった。


「ぎゃあぁ~~~!」


 布団を被って隠れるような仕草をする。異性には見せられない姿なんだろうな。

 多分だけど、この態度から土御門さんも庶民だったんだと思われる。

 俺は、宿屋では浴衣なのだけど、無理して貴族社会に合わせていると思う。

 別に、ジャージとかスエットでも良いと思うのだが。上級職になると縛りもあるのかもしれない。


 残念な感じしかしないが、俺はかまわずに、布団を引き剥がした。


「え? ちょっと!?」


 土御門さんは、腕で体を隠すような仕草をする。

 まあ、俺には興味がない。


「武器防具を整えて、下の応接室に来てください。10分待って来なかったら、その姿で外を歩いて貰いますからね」


 それだけ言って、部屋を出た。



「ショート。強引すぎやしないかい?」


 廊下を歩いていると、ライサさんから言われた。


「引き篭もりになられるよりは、多少強引でも連れ出した方がいいでしょう。それに原因は、俺にもありそうですし……。

 とりあえず数日間は、行動を共にしてみます」


 ライサさんが、いやらしい笑みを向けて来た。


「分かったよ。よろしく頼むね。でも、ショートの気を引くのに、ああいう方法もあったんだね~」


 そう言って、バシバシと叩いて来た。

 操られている感じはない。だけど、土御門さんと行動を共にすることを決めていた、俺がいる。

 それと、今日は〈スキル:警報〉は鳴っていなかった。





 ライサさんと応接室で少し待つ。

 ちなみにクラウディア様の護衛には、他の人が付いているらしい。

 そうすると、土御門さんが部屋に入って来た。

 俯いて、バツが悪そうだな……。


「カレン。何だいその顔は……。化粧も適当だし、髪も整ってないよ」


 二日酔いの時のライサさんを見ている俺からすれば、突っ込みを入れたいのだけど……。


「手が震えてしまって……」


 土御門さんは、俺が怖いのかな?

 いや、少し強引過ぎたのかもしれない。恐怖心を抱かせてしまったか。


「もう少し待ちましょうか?」


 そう言うと、ライサさんが土御門さんを部屋から連れ出した。

 数人のメイドさん達が後を追う。


 ──ピロン


 ここで、スマホが鳴った。見たくないな……。

 少し躊躇ったけど、メールを開く。


『ビシバシと性根を鍛え直してあげてください。神様より』



 残念な性格……、か。

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