第59話 引き篭もり
この数日間は、クレスの街から出て、魔物狩りを行っていた。
しかし、レベルは上がらない。やはり、雑魚を狩っても経験値にはならないみたいだ。
次のレベルまで数字で確認できると楽だったのだけど、ないものねだりだな。
夜が明けたので、魔石と素材を回収してクレスの街に帰ることにした。
商業ギルドで、素材の換金を行う。早朝に換金の依頼を出すのは俺だけみたいだ。
ここで、商業ギルド長のユージさんが来た。
俺の前に座る。
「……ショート殿。この数日間、なにをしていた? 宿屋にもいなかったよな?」
挨拶もなしの突然の質問だ。こんなことは、初めてだな。居場所を聞かれるとか……。思い当たる節がない。
「街の外で魔物を狩っていましたよ? 何か問題がありましたか?」
「クラウディア様が、探しておられたぞ?」
また? そう頻繁に呼び出されてもな……。
「何か問題がありましたか?」
「あ~……。新しく上級職の人が来ただろう? その人の件で困っているのだそうだ。
この後、クラウディア様の所へ行って貰えないだろうか?」
土御門さんのことだよな?
トラブルでもあったんだろうか?
それと、今日はユージさんが内容を知っているんだな。それを言わない理由……。
「分かりました。行ってみます」
「助かるよ……」
助かる?
ユージさんが頭を下げて来た。本当に困っていそうだ。
◇
クラウディア様の屋敷に着いた。その光景に少し驚く。
大きな屋敷なんだけど、一角が吹き飛んでいたのだ。
何があったんだ? それと、修理中みたいだな……。
俺を見つけた、衛兵が駆け寄って来る。
その後、急いで屋敷に案内された。
少し待つと、クラウディア様とライサさんが部屋に入って来る。
俺は頭を下げて、一礼した。
「俺は考えが纏まらなかったので、街の外で魔物を狩っていたのですが、何かありましたか?」
「あの後、カレンさんが泣き出してしまって……。その後魔力の暴走が起きてしまいました」
え? 暴走?
「土御門さんは、今何していますか? いえ、怪我していませんか?」
「……部屋に閉じ篭っています。もう数日出て来ません。引き篭もりです」
「……案内してください」
その後、ライサさんに土御門さんの部屋まで案内して貰った。
ちなみに、クラウディア様は政務が忙しいとのことで戻って貰う。
ドアをノックするが、返事がない。
俺は、メイスを抜いて、ドアノブを叩き、ドアを破壊した。
──バキ
「ちょっ!? ショート、何してるんだい?」
「失礼します」
ライサさんの制止を聞かずに、ドアを開ける。
「え?」
土御門さんと視線が合った。
土御門さんは、ネグリジェ姿だ。薄着なのだな。下着が透けて見える。扇情的な衣装だ。
それと、土御門さんの顔が真っ赤になった。
「ぎゃあぁ~~~!」
布団を被って隠れるような仕草をする。異性には見せられない姿なんだろうな。
多分だけど、この態度から土御門さんも庶民だったんだと思われる。
俺は、宿屋では浴衣なのだけど、無理して貴族社会に合わせていると思う。
別に、ジャージとかスエットでも良いと思うのだが。上級職になると縛りもあるのかもしれない。
残念な感じしかしないが、俺はかまわずに、布団を引き剥がした。
「え? ちょっと!?」
土御門さんは、腕で体を隠すような仕草をする。
まあ、俺には興味がない。
「武器防具を整えて、下の応接室に来てください。10分待って来なかったら、その姿で外を歩いて貰いますからね」
それだけ言って、部屋を出た。
「ショート。強引すぎやしないかい?」
廊下を歩いていると、ライサさんから言われた。
「引き篭もりになられるよりは、多少強引でも連れ出した方がいいでしょう。それに原因は、俺にもありそうですし……。
とりあえず数日間は、行動を共にしてみます」
ライサさんが、いやらしい笑みを向けて来た。
「分かったよ。よろしく頼むね。でも、ショートの気を引くのに、ああいう方法もあったんだね~」
そう言って、バシバシと叩いて来た。
操られている感じはない。だけど、土御門さんと行動を共にすることを決めていた、俺がいる。
それと、今日は〈スキル:警報〉は鳴っていなかった。
◇
ライサさんと応接室で少し待つ。
ちなみにクラウディア様の護衛には、他の人が付いているらしい。
そうすると、土御門さんが部屋に入って来た。
俯いて、バツが悪そうだな……。
「カレン。何だいその顔は……。化粧も適当だし、髪も整ってないよ」
二日酔いの時のライサさんを見ている俺からすれば、突っ込みを入れたいのだけど……。
「手が震えてしまって……」
土御門さんは、俺が怖いのかな?
いや、少し強引過ぎたのかもしれない。恐怖心を抱かせてしまったか。
「もう少し待ちましょうか?」
そう言うと、ライサさんが土御門さんを部屋から連れ出した。
数人のメイドさん達が後を追う。
──ピロン
ここで、スマホが鳴った。見たくないな……。
少し躊躇ったけど、メールを開く。
『ビシバシと性根を鍛え直してあげてください。神様より』
残念な性格……、か。
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