第58話 教会2

 教会に着いた。

 シスターさんにお布施を渡して、女神像の前で敬礼のために跪く。

 眼を開けると、白い世界にいた。



「良かった。今日は神託ありか……」


「良く来てくれました。いやね、まさかスマホを握り潰されるとは思っていなかったので……」


 何の悪気もなく、笑顔の神様が目の前に現れる。

 今日起きた不祥事の原因は、あなたでしょうに……。


「……修理は可能ですか? もしくは、新しいスマホが欲しいです」


「あ、修理できますよ? 回復魔法をスマホに施してみてください」


 機械も再生できるということかな? スマホが生物? それと回復魔法は、この世界で取ったんだよな。もし取らなかった場合は、どうしたのかな?

 それと、魔法は凄いな。発想力次第だ。

 そうなると、折れた剣とかも修理できそうだ。後で試すか。


「分かりました。今日はそれだけです」


 まだ、前回から日が経っていない。妹と母親に大きな変化はないと思う。確認は不要だと思う。


「あ、華怜はどうですか? 綺麗な娘だったでしょう? 少し年上ですけど、お似合いだと思いますよ? 実力も保証します」


「……パーティーを組むのは、少し考えさせてください」


「う~ん。ここは、二つ返事で受けて欲しいところですね」


 先日は、この世界での俺の行動を縛らないと言ったと思うのだけど……。


「それと、個人情報を流したり、煽るのは良くないですよ?」


「本当は、感情の起伏の激しい娘なんですよ。でも翔斗さんの前では、キャラ作りしていたので……。初めはクールビューティーとも思えたでしょう? あんなのすぐにバレちゃうのにね。それでも、可愛いと思ってくれると嬉しいです」


 ため息しか出ない。


「土御門さんは、この世界に来てどれくらい経っているのですか?」


「八年くらいですね。実力・実績共に世界最高峰の一人です。ただ、ちょっと性格に難がありまして……。異性は寄って来ても、逃げて行っちゃいました。さっきの場面では、何時も『こんの駄女神ぃ~!!』と言って絶叫してたのです……。発狂して叫ばなかっただけ、成長しているとも取れるのですが、スマホを握り潰すとは思わなかったです。いえ翔斗さんの前であったので、自分を抑えられたのかもしれませんね」


「……性格に難ですか。そうなると、俺も組めそうにないですね。俺も性格がいいとは言えないので……」


「う~ん。この世界の今の時代の物語を書くのであれば、彼女が主役の一人なんですけどね。パーティーさえ組めれば、百年後に伝説として語り継がれる人物になれるのに。本当に残念な娘なんです」


 神様の顔に、陰が出来た。

 しかし、意味が分からない。肝心な部分を伏せている。

 だけど、優秀な人物みたいだ。


「それと、神託者ってなんですか?」


「常時、私と会話できるスキルというか称号ですよ?」


 こればかりは、可哀相としか言えない。常に監視されているようなものだ。

 それも、性格の良くない神様に……。


「今、失礼な事を考えませんでしたか?」


「いえ……。実力がある人だと言うことは分かりました。国宝となる魔剣の回収だけでも、手伝って貰らってもいいかもしれませんね」


「う~ん。ずっと組んで欲しいというのが、希望なのですが……」


 この神様の意図が読み取れない。

 少し思案する。


「教会のシスターさんに、転移転生者は少なからずいると聞きました。でも、ライサさんは違うのですよね?」


「ライサは、転生者でこの世界で生まれた人ですよ? 少しだけ、前世の記憶を持っています。若干有利くらいかな?」


 分からないな。


「神様と会えるのが、転移転生者の特典となるのですか?」


「違いますね。神託を授けるのは数人だけです。転移転生者の特典は、特にありませんよ? ユニークスキルは、後天的にも取れるようにしていますしね」


 本当に、ため息しか出ないよ。異世界から呼んでも、特典なしか。

 そうなると、人口を増やしているだけにしかならないだろうに。


 それとユニークスキルだ。シリルさんは取れなかったと言っていた。

 条件が明確になっていないことが、想像できる。


 今日は、ここで意識を失った。





 気が付くと教会にいた。神様との会話は終わりということか。

 その後、スマホに回復魔法を施してみると、時間が巻き戻ったように直って行った。

 スマホが、生物のように思える現象だな。

 その後、アプリを開いて動作を確認する。


「問題ないな。グループチャットアプリもデータが残ってる」


 ここで、シスターさんが来た。

 少し試したいことがあるので、協力して貰うか。


「壊れた道具は、何かありませんか? 少し魔法の実験をしたいのですが」


「……え?」


 いきなりの質問はまずかったかな? そんなに親しくないし。

 それでも、シスターさんが、何かを考えて奥へ走って行き、鍋を持って来てくれた。


「穴の開いた鍋ですが、塞げますか?」


 鍋底に、小さい穴が空いていた。これで試してみるか……。


 結果として、鍋の穴に回復魔法を施しても変化はなかった。だけど、雷魔法を指先に集めて、鍋の金属を一瞬溶かすことによって、穴を塞ぐことは出来た。雷魔法の熟練度は上がっているのかもしれない。

 水を入れて、漏れのない事を確認すると、シスターさんは喜んでくれた。

 最後に挨拶をして、教会を後にする。



 歩きながら考える。


「多分だけど、神様に貰ったハンマーや篭手は回復魔法で直せるんだろうな。でも、他の無機物は無理なのかもしれない」


 まあ良いか。スマホが壊れても直せると分かったのだから。

 ここで、スマホの送金額が気になったので見てみた。


「何もしてないのに、少しだけど送金があるのか。土御門さんに会うことがこの世界への貢献とみなされているのか?」


 独り言が出た。

 そのまま、宿り木亭に入る。

 ここで、今日もウラさんと目が合った。


「ショート。今日も休みかい? 働き者の兄さんだったけど、この数日珍しいね?」


「悩んでいます。でもそうですね、レベル上げだけでもした方が良いかな? あ~でも、街の周辺の魔物を狩ってもレベルが上がらなかったのですよね……」


「あはは。慎重だね。いいことだよ」



 その後、少しだけ話をして、自室に篭った。

 正直、疲れたよ。

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