第57話 神託者

「私は、"神託者"なんです。常時、神様の声が聞こえると考えてください」


 土御門さんは、真剣な表情で異常な発言をした。神託者? 神様の声が聞こえる?

 だけど、俺も神様とは会っている。


「土御門さんが信仰している神様とは、ヒストリア様でしょうか?」


「……信仰はしていません。付きまとわれているだけです!」


 とても怒っている。何だろうか?

 良く考えよう。核心から話し始めたのだと思う。そうなると、神託者と言うことを、俺に知って欲しい? 神託者の意味が分からないんだけど。

 まあ良いか。話を進めよう。


「俺と組むように、神様からの指示でも受けたのですか? 命令?

 正直、異性との長旅は気が引けますね。間違いが起こりそうだ」


「良いですよ、襲ってくれても。それとも、今晩の相手をしましょうか?」


 真剣な表情で言われてもな……。

 さて、困ったぞ。


 ──ピロン


 ここで、スマホが鳴った。こんな時に神託があるのか? 緊急性?

 テーブルに置いたスマホを取って、メールを開く。


『華怜の話は本当です。"念話"で私こと神と会話出来るスキルを持っていると考えてください。神様より』


 ふむ……。


「俺にも神託が来ました。確証が取れたので信じましょう。ですが、あの女神様と常時話すというのは、疲れませんか? 俺は、スマホのメールだけで、精神を削られています」


「……今までに女神像を三体ほど破壊しました」


 ……怖いことを言い出した。

 それと、土御門さんは、怒りで震えている。固く握られた手……。

 よっぽどのことがあったんだろうな……。


 ──ピロン、ピロン、ピロン、ピロン……


 次々にスマホが鳴る。メールでの着信が続いているみたいだ。

 メールを開き読んでみる。


『強がっていますが、華怜は異性を知りません。優しくしてあげてくださいね。神様より』


『翔斗さんは、華怜のドストライクなのです。本当は関係を持ちたいだけなんですよ。神様より』


『良いじゃないですか、一緒に冒険したって。若いのだし間違いも起きますよ。神様より』


『土御門さんを止めましょう。"カレン"と呼び捨てにすると喜びますよ? 神様より』


 ポリポリと頬を掻く。

 下ネタばかりだな。こんな神託は欲しくない。この後もこの内容が続くのか?


「……神様は何を伝えたいんだ?」


 メールを読みながら、独り言が出た。

 まだ全てのメールを読み終わっていなかったのだけど、ここで土御門さんが俺からスマホを取り上げた。


「あ、え?」


「すいませんが、失礼します!!」


 そして、土御門さんがメールを読み出した。神託の内容が気になるんだな。

 でも、他人のスマホを見るのは、マナー違反だと思うのだけど。

 ここで、土御門さんの顔が真っ赤になった。先ほどまでのクールなイメージが崩れる。

 数秒後……、俯いてしまった。まあ、個人情報をバラされたようなものなのだし、気持ちは分からなくもない。

 それと、プルプルと震え出した。


 ──パキン、バキバキ……


 あ……。気が付いた時には、スマホが握り潰されていた。





「ご、ごめんなさい!」


 土御門さんが、頭を下げて来た。

 さて、どうしようか。俺の元の世界との唯一の繋がりを断たれてしまった。

 とりあえず、ステータスを確認するけど、〈スキル:スマホ所持〉は消えていない。まだ、なんとかなるはずだ。

 ここで、ライサさんが仲介に入ってくれた。


「ショート。許してやりなよ。こんなに反省しているのだし」


「俺は、怒ってすらいませんよ? どう考えても悪いのは、ヒストリア様ですしね。あの神様とは、俺も関わり合いたくないんで、気持ちは分かります」


「私は会ったことがないのだけど、人望のない女神様なのだね……」


 人じゃないんだけどね。柱望がない? いや、信仰を集められないか。

 女神像を破壊しようとする人は多いのだし……。

 土御門さんを見ると、上目遣いで俺を見ている。

 ため息が出た。


「とりあえず、今日はここまでとしましょう。俺は、教会に行ってみます。修理方法がないか聞いて来ますよ」


「……許してくれるのですか?」


「許すもなにも、怒ってすらいませんよ?」


 俺は立ち上がり、スマホを返して貰った。

 ここで、クラウディア様も立ち上がる。


「ショートさん。カレンさんの同行は考えて頂けるのですか?」


「……俺も手詰まりの状態ですからね。一つの手段だとは思います。でも、俺にも考える時間をください。

 それに、土御門さんのスキルも知らない状態でパーティーを組むとは言えないです。長期間組むことになりそうですしね。

 それと、どうせパーティーを組むのであれば、四~五人程度のパーティーの方がいいとも考えています」


 そう言うと、クラウディア様とライサさんの表情が明るくなった。

 土御門さんは、まだ顔が赤い。視線が合うと、外された。

 横を向いて、手をパタパタと動かして顔に風を送っている。少しは、冷静さを取り戻せて来たのかな?


「カレンさんの実力は、私が保証します。数日だけでも行動を共にしてみてはいいかがでしょうか?」


「とりあえず、スマホが直ってからですね。数日くらいなら、一緒に森に入るのもいいかもしれません」


 その後、軽い挨拶だけして屋敷を後にした。



「土御門華怜さんか……。ヒストリア様に付きまとわれている可哀相な人だったな。

 実力はあるんだろう。多分だけど、パーティーを組むことが前提で、ヒストリア様が俺と引き合わせてくれたんだろう……、な」


 俺は、その足で教会に向かった。

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