第56話 迷走
「ショート。帰って来たのかい? クラウディア様とは上手くいかなかったのかい?」
部屋に向かおうとしたら、ウラさんに声をかけられた。
「話が纏まりませんでした。なので、しばらくは森には行けそうにないですね」
「……そうかい。大分難航していそうだね」
「この街の上級職の人を紹介して貰えないでしょうか?」
とりあえず、俺から動いてもいいはずだ。
「う~ん。ライサさんだけだね。他は逃げちまったよ」
……女王蟻は、そこまで強かったのか。いや、低レベルな上級職を紹介されても意味ないか。
今の俺には、中級職の人でも信頼できる人が必要だ。
シリルさんとヒナタさんとは、信頼関係が築けたと思っている。
頭をガリガリと掻く。
「シリルさんとヒナタさんを逃がしたのは、痛かったですね。
足踏み状態になってしまいました」
「……上級職の綺麗な娘を紹介されたのではないのかい?」
驚く。情報が伝わっている? そうなると、街中に?
「知っているのですか?」
「そりゃ、上級職がこんな辺境に来れば、噂にもなるよ。この街は娯楽に飢えているからね」
「その噂を教えて貰えますか?」
「う~ん。
それで王族に呼ばれて、クラウディア様の陣営に移ったと聞いたね」
特化型の俺とは、相性が良いかもしれない。
その後、少し雑談して部屋に戻った。スマホを見る。
「情報が足らないし、考えも纏まらない。神託も来ない。さて、どうしようかな」
◇
朝日が昇った。
朝食を頂いてから、街へ出る。
今日は、商業ギルドに行こう。いや、各ギルドを見て回るか。
商業ギルドで技能石を見せて貰うのも良いし、冒険者ギルドで武器防具を補充するのも良いだろう。
労働者ギルドで情報を買うのも良いかもしれない。
今はとにかく、移動系のスキルが欲しいので、それを念頭に置いて相談しよう。
まず、商業ギルドで買える技能石を説明して貰った。
移動系のスキルを求めていたのだけど、該当する技能石はないとのことだ。
だけど、一つだけ気になったスキルがあった。
「〈スキル:MP自動回復〉の技能石か……」
魔力は、今のところ良く分っていない。
魔力切れを起こすと、数日動けなくなる。
だけど、体力と一緒で、休めば回復もする。
このスキルを取ると何か変わるんだろうか? 魔力切れを起こしても動けなくなる時間が短くなるとかだったら欲しいな。
聞いてみるか。
「この技能石はどんな効果がありますか?」
ギルド職員が答えてくれる。
「そうですね……。正直なところ、効果は人それぞれとなります。実際に取得して確認するしかないですね。
ですが、ショート殿であれば、MPが多いので回復量重視になるでしょう」
良く分らないな。"自動回復"で"回復量重視"になる?
「"量"以外にあるのですか?」
「"速度"の人もいます。その場合は、一日の回復量に上限が付きます」
ふむ……。とりあえず購入する。その場で技能石を割る。
『ステータスに〈スキル:MP自動回復〉を付与します』
ギルドの受付嬢が、クスクスと笑っている。
この場で取得するのは、マナー違反なのかな?
あと思い出したので聞いてみるか。
「〈スキル:献身〉の技能石はありますか?」
「ありますけど、勧めません。本当に寿命を削りますよ?」
こちらも購入して、その場で技能石を割る。
ギルドの受付嬢は、呆れ顔だ。
今は資金的に余裕があるので、街に還元したいというのが本音だ。使わなくていいことを祈りたい。
ここで、商業ギルド長のユージさんが来た。
何だろうか?
「ショート殿。クラウディア様がお呼びだ」
ん? 本当に何だろう?
「昨日の今日でですか? 何かありました?」
「俺達に内容は知らされないぞ? それとも、今忙しいのか?」
それもそうか。
──ピロン
スマホが鳴った。久々の神託だ。
『急いでください。クラウディアもそんなに時間が取れません。神様より』
緊急なのか? 思い当たる節がないぞ。
◇
屋敷に着くと、衛兵が迎い入れてくれた。そのまま、応接室に通される。話は通っているみたいだ。
応接室で待っていると、すぐに昨日の三人が部屋に入って来た。
俺は、一礼して出迎える。
「……クラウディア様。政務の方は大丈夫なのですか?」
忙しいはずだ。それでも時間を割く理由を聞かないとな。
「どうとでもなります。それよりも、ショートさんへの期待の方が大きいのです」
国宝の魔剣の回収は、それほど重要なんだな。いったいどんな効果を持っているんだろうか。
「それで、ギルドでクラウディア様に会いに行くように言われたのですが、何かありましたか?」
三人が渋い表情を浮かべる。
土御門さんが口を開いた。
「……昨日の続きですよ」
今度は俺が渋い顔をする。
「俺に"焦りすぎ"と言ったのに、考える時間もくれないのですか?」
「……昨日、あの後相談をしたのですが、翔斗さんに興味を持って貰った方が良いという話になりました。
それで知っておいて欲しいことがあります」
……推測できない。何の話だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます